不思議な話 PR

結局は心持ちがすべてだよねと思う話③

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やなかゆう
やなかゆう
芥川龍之介作『杜子春③』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 少し長めで読み応えのある作品を少しずつ読みたい。
  • 異国情緒溢れる作品を読みたい。
  • 小学三年生くらいの子どもがひとりで読める作品を探している。

このおはなしの作者

芥川龍之介あくたがわりゅうのすけ(1892年~1927年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

前回までのあらすじ

貧乏になった杜子春の前に、三度現れた老人。しかし、「好いことを教えてやろう」という老人の言葉を杜子春は遮る。杜子春は、お金がある時にだけ親切にしてくる人間に愛想を尽かしてしまったのだった。

そして、この老人を仙人だと思った杜子春は、不思議な仙術を教えて欲しいとお願いする。

老人は「いかにも、自分は鉄冠子という仙人だ」と言って、杜子春のお願いを聞き入れる。それから杜子春を峨眉山まで連れて行く。

杜子春を岩の上に座らせると「誰が来ても声を出してはいけない」と約束をして、老人はたちまちどこかへ消えてしまった。

しばらくすると、「そこにいるのは何者だ。」と、叱りつける声が聞こえてくる。

結局は心持ちがすべてだよねと思う話②【この文章は5分で読めます】芥川龍之介作、「杜子春」の第二話です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

おはなしの始まりはここから

★この文章は5分で読めます

杜子春とししゅん勿論黙もちろんだまっていました。

と、どこからのぼってたか、爛々らんらんひからせたとら一匹いっぴき忽然こつぜんいわうえおどがって、杜子春とししゅん姿すがたにらみながら、一声高ひとこえたかたけりました。

のみならずそれと同時どうじに、あたまうえまつえだが、はげしくざわざわれたとおもうと、うしろの絶壁ぜっぺきいただきからは、四斗樽しとだるほど白蛇はくだ一匹いっぴきほのおのようなしたいて、ちかくへりてるのです。

杜子春とししゅんはしかし平然へいぜんと、眉毛まゆげうごかさずにすわっていました。

とらへびとは、ひと餌食えじきねらって、たがいにすきでもうかがのか、しばらくはにらいのていでしたが、やがてどちらがさきともなく、一時ひととき杜子春とししゅんびかかりました。

とらきばまれるか、へびしたまれるか、杜子春とししゅんいのちまたたうちに、なくなってしまうとおもったときとらへびとはきりごとく、夜風よかぜともせて、あとにはただ絶壁ぜっぺきまつが、さっきのとおりこうこうとえだらしているばかりなのです。

杜子春とししゅんはほっと一息ひといきしながら、今度こんどはどんなことがこるかと、心待こころまちにっていました。

すると一陣いちじんかぜこって、すみのような黒雲こくうん一面いちめんにあたりをとざすやいなや、うすむらさき稲妻いなづまがやにわにやみふたつにいて、すさまじくらいしました。

いや、らいばかりではありません。

それと一緒いっしょたきのようなあめも、いきなりどうどうとしたのです。

杜子春とししゅんはこの天変てんぺんなかに、おそもなくすわっていました。

かぜおとあめのしぶき、それからない稲妻いなづまひかり、――しばらくはさすがの峨眉山がびさんも、くつがえるかとおもくらいでしたが、そのうちみみをもつんざくほどおおきな雷鳴らいめいとどろいたとおもうと、そら渦巻うずまいた黒雲こくうんなかから、まっ一本いっぽん火柱ひばしらが、杜子春とししゅんあたまちかかりました。

杜子春とししゅんおもわずみみおさえて、一枚岩いちまいいわうえへひれしました。

が、すぐにひらいてると、そら以前いぜんとおわたって、こうにそびえた山々やまやまうえにも、茶碗ちゃわんほどの北斗ほくとほしが、やはりきらきらかがやいています。

してればいまおおあらしも、あのとら白蛇はくだおなじように、鉄冠子てっかんし留守るすをつけこんだ、魔性ましょう悪戯いたずらちがいありません。

杜子春とししゅんようや安心あんしんして、ひたいあせぬぐいながら、又岩またいわうえすわなおしました。

が、そのためいきがまだえないうちに、今度こんどかれすわっているまえへ、きんよろい着下きくだした、たけ三丈さんたけもあろうという、おごそかな神将しんしょうあらわれました。

神将しんしょうまたほこっていましたが、いきなりそのほこさき杜子春とししゅんむなもとへけながら、いからせてしかりつけるのをけば、

「こら、そのほう一体何者いったいなにものだ。この峨眉山がびさんというやまは、天地開闢てんちかいびゃくむかしから、おれがまいをしているところだぞ。それもはばからずたった一人ひとり、ここへあしれるとは、よもやただ人間にんげんではあるまい。さあいのちしかったら、一刻いっこくはや返答へんとうしろ。」とうのです。

しかし杜子春とししゅん老人ろうじん言葉通ことばどおり、黙然もくねんくちつぐんでいました。

返事へんじをしないか。――しないな。し。しなければ、しないで勝手かってにしろ。そのわりおれの眷属けんぞくたちが、そのほうをずたずたにってしまうぞ。」

神将しんしょうほこたかげて、こうのやまそらまねきました。

その途端とたんやみがさっとけると、おどろいたことには無数むすう神兵しんぺいが、くもごとそらちて、それが皆槍みなやりかたなをきらめかせながら、いまにもここへひとなだれにせようとしているのです。

この景色けしき杜子春とししゅんは、おもわずあっとさけびそうにしましたが、すぐに又鉄冠子またてっかんし言葉ことばおもして、一生懸命いっしょうけんめいだまっていました。

神将しんしょうかれおそれないのをると、おこったのおこらないのではありません。

「この剛情者ごうじょうものめ。どうしても返事へんじをしなければ、約束通やくそくどおいのちはとってやるぞ。」

神将しんしょうはこうわめくがはやいか、またほこひらめかせて、一突ひとつきに杜子春とししゅんこそしました。

そうして峨眉山がびさんもどよむほど、からからとたかわらいながら、どこともなくえてしまいました。

勿論もちろんこのときはもう無数むすう神兵しんぺいも、わた夜風よかぜおと一緒いっしょに、ゆめのようにせたあとだったのです。

北斗ほくとほし又寒またさむそうに、一枚岩いちまいいわうえらしはじめました。

絶壁ぜっぺきまつまえわらず、こうこうとえだらせています。

が、杜子春とししゅんはとうにいきえて、仰向あおむけにそこへたおれていました。

杜子春とししゅんからだいわうえへ、仰向あおむけにたおれていましたが、杜子春とししゅんたましいは、しずかにからだからして、地獄じごくそこりてきました。

この地獄じごくとのあいだには、闇穴道あんけつどうというみちがあって、そこは年中暗ねんじゅうくらそらに、こおりのようなつめたいかぜがぴゅうぴゅうすさんでいるのです。

杜子春とししゅんはそのかぜかれながら、しばらくは唯木ただこのように、そらただよってきましたが、やがて森羅殿しんらでんというがくかかった立派りっぱ御殿ごてんまえました。

御殿ごてんまえにいた大勢おおぜいおには、杜子春とししゅん姿すがたるやいなや、すぐにそのまわりをいて、きざはしまええました。

きざはしうえには一人ひとり王様おうさまが、まっくろほうきんかんむりをかぶって、いかめしくあたりをにらんでいます。

これはねてうわさいた、閻魔大王えんまだいおうちがいありません。

杜子春とししゅんはどうなることかとおもいながら、おそおそるそこへひざまずいていました。

「こら、そのほうなんために、峨眉山がびさんうえすわっていた?」

閻魔大王えんまだいおうこえらいのように、きざはしうえからひびきました。

杜子春とししゅん早速さっそくそのといこたえようとしましたが、ふと又思またおもしたのは、「けっしてくちくな」という鉄冠子てっかんしいましめの言葉ことばです。

そこで唯頭ただかしられたまま、おしのようにだまっていました。

すると閻魔大王えんまだいおうは、っていたてつしゃくげて、顔中かおじゅうひげ逆立さかだてながら、「そのほうはここをどこだとおもう?すみやかに返答へんとうをすればし、さもなければときうつさず、地獄じごく呵責かしゃくわせてくれるぞ。」と、威丈高いたけだかののしりました。

が、杜子春とししゅん相変あいかわらず唇一くちびるひとうごかしません。

それを閻魔大王えんまだいおうは、すぐにおにどものほういて、荒々あらあらしくなにいつけると、おにどもは一度いちどかしこまって、たちま杜子春とししゅんてながら、森羅殿しんらでんそらがりました。

おしについて・・・言葉が話せない人を指す言葉。この身体的な特徴を表す言葉は、時として人を侮辱し、傷つける差別的な表現として、現代では不適切に感じられる箇所です。

結局は心持ちがすべてだよねと思う話④【この文章は5分で読めます】芥川龍之介作、「杜子春」の第四話です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 虎と蛇が杜子春の前から消えた後、誰が現れましたか。
  2. 杜子春の魂が体から抜けると、地獄へと下りていきました。地獄に来ると、大勢の鬼が杜子春を連れて行きました。誰のところへ連れて行ったのでしょうか。

調べてみよう

  1. “四斗樽”とは、どのくらいの量が入る樽のことでしょうか。
  2. 『窺う』と『伺う』と『覗う』の違いは何でしょうか。

単語ピックアップ

1.忽然(こつぜん)

物事の現れ出たり、消えたりが急な様子。

2.黙然(もくねん/もくぜん)

口をつぐみ、黙っている様子。

3.眷属(けんぞく)

①血筋がつながっている者。親族や一族の者。②部下、家来や配下の者。

4.呵責(かしゃく)

厳しく責め立てること。

5.威丈高(いたけだか)

人に対し、相手を押さえ付けるような態度をとるさま。

注目★四字熟語

天地開闢(てんちかいびゃく)

天と地が出来た世界のはじまりのこと。古代中国の神話では、一つの混沌としたものが、やがて二つに分かれ、それぞれが天と地になったとされている。

音読シートダウンロード

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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 身の丈が三丈もあろうという、金の鎧を着た厳かな神将。
  2. 閻魔大王のところ。