- SF小説やドラえもんが好き。
- あまり知られていない作品を読みたい。
- 5歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
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前回までのあらすじ
おはなしの始まりはここから
★この文章は4分で読めます
「こんどは、弟月の方をおっかけよう。さっきよりもずっと大きくなっているはずだ。」
おじさんはそういってスイッチを切りかえた。
地平線が黒く横にのびている。
その上に、月は高くかがやいていた。
「これは兄月の方だ。弟月はもっと左の方にある。」
画面が横にうごいて行く。と、とつぜん画面が明るくなった。そしてちょうちんが画面いっぱいに出てきたと思った。
ところがそれはちょうちんではなく、弟月の方だった。
兄月にくらべて、もう2、300倍の大きさになっている。
「これが弟月ですか。大きいですね。なぜこんなに大きくなったんです。」
「弟月はだんだん下ってきたのだ。地球の引力によって引き寄せられたんだ。見ていてごらん。今に弟月は地球にぶつかるから……。」
「おじさん。月が地球にぶつかったら、どんなことが起こるんですか。」
「見ていたまえ。もうすぐだ。」
画面は4、5回も切りかえられた。そのたんびに弟月は化け物のように大きくなった。
まるで地球が空にうつっているようであった。
その怪しい月の下に、アトランチス人たちが集まってふるえ、のろいの声をあげ、やけになって人殺しをし、またしずかに神に祈りをあげているのが見えた。
方々に、えんえんと火がもえあがっていた。
神へささげるかがり火か、それとも賊が民家に放った火か。ものすごい光景に、三四郎はたびたび目をふせねばいられなかった。
「ほら、始まった。弟月が地球に触接したよ。あれ、あのように地球にぶつかっている。しかも弟月は自転をつづけているんだ。」
おじさんの説明の声がふるえている。
「あっ、おそろしい!」
三四郎は、両手で自分の頭をおさえて、がたがたふるえだした。
見よ、弟月は地球にぶつかっている。そこは大洋らしい。すごい火花と焔と電光が、たがいに交じりあって、目もくらむほどだ。
波はさかまき、雲とも湿気とも煙ともつかないもやもやしたものが触接面のところから空高くまいあがる。月は、ときどき空の方へとびあがり、そのあとでまた落ちて来て、地球に衝突する。
そのたびに、すごい火の地獄絵がひろがる。月がとびあがったときに見えたが、あの死灰のようであった月が、今はその下半分が炉の中へほうりこんだ石炭のように赤く赤くもえあがっているのだった。
「おお、弟月の最後が近づいた。大爆発をして、こなごなにとび散るよ、あの弟月が……。」
おじさんの声が終わらないうちに、画面は目もくらむ閃光で、ぴかぴか、くらッくらッと光り、画面に、ものの形を見分けることができなかった。
三四郎は、天変地異のおそろしさに、大きな声をあげてその場にうち伏した。もう画面を見つづける勇気はない。
「……もうすんだよ。弟月は、かげも、形もなくなったよ。これからが最も大事なところ。すごい光景が見えるんだ。元気を出して、もう一度画面を見てごらん。なにしろ一万年前の出来事なんだから、そんなにこわがることはない。」
おじさんに元気づけられて、三四郎はようやく顔をあげ、映写幕へそっと目をやった。もはや天空に火の魔の乱舞は見られなかった。
兄月の冷たい光だけが、空にあった。下半分はアトランチス大陸が、鯨の背のように黒ずんで、海の上に浮かんでいた。
このとき海が、にわかにふくれ上がった。高く高くふくれ上がる。あたらしい大陸が出来て、それがうごき出したのかと思ったくらいであったが、事実は黒い海水がふくれあがったのだ。
高く高くアトランチス大陸の山脈よりももっと高く! そしてそのふくれた海は、ずんずんと大陸へ近づいて来るのであった。
「あっ、津波だ。すごい津波だ。アトランチス大陸が、津波にのまれてしまう。」
三四郎は、思わず叫んだ。
「そうだ。アトランチス大陸が、今や波にのまれてしまうのだ。そしてすばらしい文化を持ったその大陸が、永遠に波の下にのまれてしまうのだ。人もけだものも、それから鳥やコウモリまでも、みんな翼の力が及ばないで、波の下にのまれてしまうのだ。」
そのとおりだった。
三四郎は、おそろしくも悲しきアトランチス大陸と人と生物との最後を見とどけた。そのために彼は、全身の力をつかい切ったと思った。
読了ワーク
思い出してみよう
- 「弟月」はどうして大きくなってしまったのでしょうか。
- 地球にぶつかった「弟月」は、最後にどうなりましたか。
調べてみよう
- “やけになる”とはどういうことですか。
- “炉”とはどんなものですか。
単語ピックアップ
1.引力(いんりょく)
2.触接(しょくせつ)
3.死灰(しかい)
4.閃光(せんこう)
注目★四字熟語
天変地異(てんぺんちい)
音読シートダウンロード
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 地球の引力によって引き寄せられたから。
- 大爆発してかげも形もなくなった。