不思議な話 PR

ドラ○もんみたいな話②

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やなかゆう
やなかゆう
海野十三作、『洪水大陸を吞む』の二話目です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • SF小説やドラえもんが好き。
  • あまり知られていない作品を読みたい。
  • 5歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

海野十三うんのじゅうざ(1897年~1949年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

前回までのあらすじ

ドラ○もんみたいな話①【この文章は2分で読めます】海野十三作、「洪水大陸を吞む」の第一話です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

おはなしの始まりはここから

★この文章は5分で読めます

おじさんのいうことは、よくからなかったけれど、おじさんがせてくれた映画えいが――ではない、「うご一万年前いちまんねんまえ光景こうけい」は、なかなかおもしろくて、よくかった。

それは、大事だいじなところになると、おじさんが説明せつめいをしてくれたから、なおさらよくかったのだ。

約一万年前やくいちまんねんまえ世界せかいが、おじさんの器械きかい映写幕えいしゃまくなかえているのだ。

なんというおどろき、なんという不思議ふしぎ

その場面ばめんおおくは、うえからした光景こうけいであった。

おじさんは、ときどき器械きかいのスイッチをりかえて、ななめうえから光景こうけいせてくれたが、これはすこしだけであった。

よこからたところや、正面しょうめんからたところは、ほとんどてこなかった。

それはよこひかりは、ほか部分ぶぶんからひかり邪魔じゃまをされて、純粋じゅんすいかたちではにくい。

だからえにくいのだということだった。

「なんでしょうね、山脈さんみゃくのむこうにふたひかっているものがありますね。」三四郎さんしろうは、おじさんにたずねた。

「あれはつきだよ。」

器械きかい目盛めもりをあわせていたおじさんは、かんたんにこたえた。

「うそをいってらあ。つきなら、ぼくだってわかりますよ。つきふたつもあるわけがないじゃありませんか。」

「ところが、それがあるんだよ。この光景こうけいにうそはない。一万年前いちまんねんまえには、地球ちきゅうのまわりをつきふたつ、まわっていたんだね。」

「ふーン。おどろいたなあ。」

ふたつのつきのうち、そのひとつは、なくなった。ていたまえ、やがてそれがえるはずだ、一方いっぽうつきがこわれてえなくなるところがねえ。」

「そんな光景こうけいえるんですか。ぼく、背中せなかがぞくぞくさむくなった。」

「それはそうだろう。つきがなくなるなんて、たいへんな事件じけんだ。それがために、当時とうじ地球ちきゅうんでいた人類じんるいは、どんなにあったか。どんなくるしみにあったか。ていたまえ、いまにそれがえるから……。」

「お月様つきさまいますぐこわれるんですか。」

「まだ、ちょっとがある。――この器械きかい途中とちゅうをどんどんとばしてくが、いまうつっているときからかぞえて、約百年やくひゃくねんのうちに、つきひとつがこわれる。」

百年間ひゃくねんかんも、この器械きかいまえっているのですか。」

「いや、この器械きかいでは、あと十五分じゅうごふんぐらいで百年後ひゃくねんご光景こうけいがうつりすことになっている。いまおじさんは、地表ちひょう光景こうけいをもっとはっきりそうとして一生懸命いっしょうけんめいやっているのだよ。ほらほら大陸たいりく海岸線かいがんせんははっきりしてきたろう。しろひかっているのがうみ、くらいのが陸地りくちだ。このへんは、地球上ちきゅうじょうのどこだかかるだろう。」

おじさんは、えんぴつをにもって、画面がめんをさした。

「ああ、かりました。ヨーロッパですね。このへんがスペインにポルトガル。おやおや、ヨーロッパ大陸たいりくみなみのアフリカ大陸たいりくとがつながっていますね。」

「まあ、そうだ。さあ、これから画面がめんほう移動いどうしてくよ。なにえるか。」

大西洋たいせいようだ。」

「そうだ、大西洋たいせいようだ。だが、これからよくをつけてていたまえ。」

「おやおや、へんだぞ。大西洋たいせいようなか大陸たいりくがある。これは一体いったいどうしたんでしょう。」

三四郎さんしろうは、大西洋たいせいようのまんなかに、相当そうとうおおきな大陸たいりくのあるのをて、不思議ふしぎがった。

「あれはアトランチス大陸たいりくだ。当時とうじ世界せかい文化ぶんかはアトランチス大陸たいりくあつまっていたのだ。世界せかい中心ちゅうしんだったんだ。エジプトの文化ぶんかも、ユーラシア大陸たいりく文化ぶんかも、まだ誕生前たんじょうまえだったんだ。」

「でも、いま大西洋たいせいようには、そんな大陸たいりくはないじゃありませんか。どうしたんですか。」

「さあ、それが大事件だいじけんなんだ。まあ、しばらくていたまえ。器械きかい調整ちょうせいして、アトランチス大陸たいりく地上ちじょう焦点しょうてんをあわせてみよう。」

おじさんは、器械きかいまえで、いそがしく調整ちょうせいをはじめた。たくさんある目盛盤めもりばんをいくどもうごかし、そして計器けいきはりをみては、また目盛盤めもりばんうごかすのであった。そのあいだに、映写幕えいしゃまくにうつっているぞうはいくたびかぼんやりとなり、またいくたびかかわのようにながれ、それからまた、たびたびえた。

だが、そのうちぞう次第しだいにはっきりしてた。

やまえ、かわえ、それからりっぱな建築物けんちくぶつえだした。やがて焦点しょうてん地上ちじょうにはっきりあうと、みちをあるいていく人々ひとびと姿すがたえるようになった。

ただし、ななうえからたところがうつっている。ちょうど、ビルの三階さんかいぐらいから地上ちじょう見下みおろしたような調子ちょうしであった。

「アトランチスじんだ。りっぱな服装ふくそうをしているだろう。エジプト時代じだいよりもずっと文化ぶんかたかかったことがかる。おとこおんな区別くべつも、ちゃんとかるだろう。」

おじさんの説明せつめいに、三四郎さんしろう固唾かたずんで画面がめん見入みいっていた。うつくしくかざった白馬はくばとおる。

「ほら、みちはなしをしている。二人ふたりおとこはなしくちびるうごきでかる。よくみみをすましていたまえ。」

おじさんが注意ちゅういした。と、なるほど、かすかではあるが会話かいわこえる。

“なげかわしいことだ。こんなに道義どうぎがすたれては、きているのがいやになった”

くことをらないこのごろ人間にんげん欲望よくぼうかみをおそれない人々ひとびと。いくらうつくしくかざりたてようと、これは人間にんげん世界せかいではない。禽獣きんじゅう世界せかいだ”

いまに、てんのおさばきがあろう。いや、すでにそのきざえる。きみがついているか”

“うん。きみ弟月おとうとづきのことをいっているのだろう。弟月おとうとづきが、だんだんあやしいひかりつよめ、おおきくふくれてるわ。気味きみわるいことだ”

てんのおさばきはちかくにせまったぞ。いまとなってはおそいかもしれないが、わしはもう一度いちど人々ひとびとにそれをらせて、反省はんせいをうながそう”

“それがいい。わしも生命せいめいのあるかぎり、悪魔あくまにとりつかれているひと一人ひとりでもいいからかみくにきもどすのだ”

二人ふたりのアトランチスじんは、そこではなしをやめて、しずかにいのりをささげると、みぎひだりとにわかれた。したがって、そのあとのこえこえなかった。

三四郎さんしろうには、いつしかなみだがやどっていた。信仰しんこうのあつい二人ふたりのアトランチスじん胸中きょうちゅうおもいやってのなみだであった。

ドラ○もんみたいな話③【この文章は4分で読めます】海野十三作、「洪水大陸を吞む」の第三話です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 三四郎が驚いたり不思議に思ったのは一体何でしょうか。
  2. 山脈の向こうに光っていた二つの光は何でしたか。

調べてみよう

  • “固唾を吞む”とは、緊張している様子を表す時に使用する慣用句ですが、“固唾”とは何のことでしょうか。

単語ピックアップ

1.純粋(じゅんすい)

①余計な物が混ざっていないこと。混じり気がない。②私利私欲がないこと。

2.焦点(しょうてん)

3.計器(けいき)

4.道義(どうぎ)

5.禽獣(きんじゅう)

6.兆し(きざし)

7.信仰(しんこう)

8.胸中(きょうちゅう)

音読シートダウンロード

★この物語“洪水大陸を吞む②【一万年前の大陸】”の音読シートがダウンロードできます。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. おじさんの器械の映写幕の中に、約一万年前の世界が見えること。