- SF小説やドラえもんが好き。
- あまり知られていない作品を読みたい。
- 5歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
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おはなしの始まりはここから
★この文章は2分で読めます
「ぼく、生きているのが嫌になった。」
三四郎が、おじさんのところへ来て、こんなことをいいだした。
「生きているのが嫌になったって。これはおどろいたね。子どものくせに、今からそんなことをいうようじゃ心ぼそいね。なぜそう思うんだい。」
しらが頭に、度のつよい近眼鏡をかけた学者のおじさんは、本から目をはなして、たずねた。
「だって、ちっともおもしろいことがないんだもの。」
「ふん、なるほど。」
「おなかはいつもすいているしね、欲しいものは店にならんでいるけれど、高くて買えやしないしね。」
「ああ、そうか、そうか。」
「その品物だって、とびつくほど欲しいものでもないし、それから大人の人は、みんな困った困ったおもしろくないおもしろくないといっているしね、ぼくは大人になるのがいやになったの。」
「なかなか、いろいろ考えたもんだね。大人になるよろこびがなくなっては、もうおしまいだな。しかしだ、生きているのがいやになったなどというのは人間として卑怯だと思う。また人間というものは、もっと広い世界へ目をやり、遠い大きな仕事のことを考えなくてはならない。いや、そんなお説教をするよりも、今おじさんが三四郎君を一万年ばかり前の世界へ案内してあげよう。そこで君は、どんな感想をもつだろうか。あとでおじさんは、君に質問するよ。」
「ほんとですか。一万年も前の世界へ行くって、そんなことはできないでしょう。」
「いや、それがちゃんと、できるのだ。おじさんがこしらえた器械をつかえば、そういう古い時代の有様が見えるんだ。映画のようにうつるんだ。ただ残念なことに、その時代の人々がしゃべっている声が、十分に再生できないんだ。」
「じゃあ、トーキーではない無声映画というのがありますね。あれみたいなものですか。」
「全然無声というわけでもない。映写幕にうつる古代の人々が、ものをいうときに、口をうごかす。その口のうごかし方から、彼らがどんな言葉をしゃべっているのかを、翻訳することもできるのだ。しかしこの翻訳言葉は、画面の上で、私たちの方へ向いていて、口をうごしかしている人にかぎるんだ。だからうしろ向きの人のいっている言葉は分からない。そんなわけで、ときどき、切れ切れながら、彼のいう言葉が分かるんだ。」
「ふしぎな器械ですね。しかしそれはおもしろいですね。しかしほんとうかしら。」
「見れば、ほんとだと分かるだろう。」
「ああ、そうか。その器械はタイム・マシンというあれでしょう。」
「あれとは、ちがう。顕微集波器と、私は名をつけたがね。つまりこの器械は、一万年前なら一万年前の光景が、光のエネルギーとして、宇宙を遠くとんでいくのだ。そして他の星にあたると、反射してこっちへかえってくる。星はたくさんある。ちょうど一万年かかって今地球へもどってくるものもある。それをつかまえて、これから君に見せてあげよう。」
読了ワーク
思い出してみよう
- 三四郎はどうして「生きているのが嫌になった。」と言ったのでしょうか。
- おじさんは三四郎をどんな世界に案内しようと言いましたか。
調べてみよう
- “トーキー”とは何でしょうか。
- 『器械』と『機械』の違いは何でしょうか。
単語ピックアップ
1.卑怯(ひきょう)
臆病で、正々堂々と立ち向かわない様子。
2.翻訳(ほんやく)
ある言語で表された文章や話を、別の言葉に置き換えて表すこと。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- ちっともおもしろいことがなく、おなかはいつもすいていて、欲しいものは高くて買えず、それもとびつくほど欲しいものでもなく、大人はみんな「困った」「面白くない」と言っていて大人になるのが嫌になったから。(大人になるよろこびがなくなったから。)
- 一万年ばかり前の世界。