覆面調査にのり出した王さまの話

このおはなしの作者

新美南吉にいみなんきち（1913年～1943年）

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おはなしの始まりはここから

★この文章は２分で読めます

ある日ひ、王おうさまは乞食こじきのような身みなりをして、ひとりで町まちへやってきました。

町まちには小ちいさな靴屋くつやが一軒いっけんあって、おじいさんがせっせと靴くつをつくっておりました。

王おうさまは靴屋くつやの店みせに入はいって、

「これこれ、じいや、そのほうはなんという名前なまえか。」とたずねました。

靴屋くつやのじいさんは、そのかたが王おうさまであるとは知しりませんでしたので、

「ひとにものを聞きくなら、もっとていねいに言いうものだよ。」と、つっけんどんに言いって、とんとんと仕事しごとをしていました。

「これ、名前なまえはなんと申もうすぞ。」とまた王おうさまはたずねました。

「ひとに口くちを利きくには、もっとていねいに言いうものだというのに。」とじいさんはまた、ぶっきらぼうに言いって、仕事しごとをしつづけました。

王おうさまは、なるほど自分じぶんがまちがっていた、と思おもって、こんどは優やさしく、「おまえの名前なまえを教おしえておくれ。」とたのみました。

「わしの名前なまえは、マギステルだ。」とじいさんは、やっと名前なまえを教おしえました。

そこで王おうさまは、「マギステルのじいさん、ないしょの話はなしだが、おまえはこの国くにの王おうさまはばかやろうだと思おもわないか。」とたずねました。

「思おもわないよ。」とマギステルじいさんはこたえました。

「それでは、小指こゆびの先さきほどばかだとは思おもわないか。」と王おうさまはまたたずねました。

「思おもわないよ。」とマギステルじいさんはこたえて、靴くつのかかとをうちつけました。

「もしおまえが、王おうさまは小指こゆびの先さきほどばかだといったら、わしはこれをやるよ。だれも他ほかにきいてやしないから、大丈夫だいじょうぶだよ。」と王おうさまは、金きんの時計とけいをポケットから出だして、じいさんのひざにのせました。

「この国くにの王おうさまがばかだといえばこれをくれるのかい。」とじいさんは、金かなづちをもった手てをわきにたれて、ひざの上うえの時計とけいをみました。

「うん、小ちいさい声こえで、ほんのひとくち言いえばあげるよ。」と王おうさまは手てをもみあわせながらいいました。

するとじいさんは、やにわにその時計とけいをひっつかんで床ゆかの上うえにたたきつけました。

「さっさと出でてうせろ。この不忠ふちゅう者ものめが。この国くにの王おうさまほどご立派りっぱなおかたが、世界中せかいじゅうにまたとあるかッ。」

そして、もっていた金かなづちをふりあげました。

王おうさまは靴屋くつやの店みせからとび出だしました。とび出だすとき、日覆ひおいの棒ぼうにごつんと頭あたまをぶつけて、大おおきなこぶをつくりました。

けれど王おうさまは、こころを花はなのように明あかるくして、

「わしの人民じんみんはよい人民じんみんだ。わしの人民じんみんはよい人民じんみんだ。」とくりかえしながら、宮殿きゅうでんの方ほうへ帰かえってゆきました。

読了ワーク

思い出してみよう

1. 靴屋のおじいさんの名前は何でしたか。
2. 王さまは靴屋のおじいさんに何と言ったら金の時計をあげると言いましたか。
3. 靴屋のおじいさんは、金の時計をどうしましたか。

調べてみよう

• “やにわに”とは、どんな意味でしょうか。

単語ピックアップ

1．乞食（こじき）

食べ物やお金などを人から恵んでもらいながら生活する人のこと。

2．不忠（ふちゅう）

真心を尽くして仕える王や主君に背くさま。

3．日覆い（ひおい）

太陽の光をさえぎるための覆いのこと。

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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

1. マギステル
2. 王さまのことを小指の先ほどばかだと言ったら。
3. 時計をひっつかんで床の上にたたきつけた。