- グリム童話が好き。
- つっこみは他の追随を許さない。
- 人と意見を交換しながら読みたい。
このおはなしの作者
【作者】
グリム兄弟
・ヤーコプ・グリム(1785年~1863年)
・ヴィルヘルム・カール・グリム(1786年~1859年)
・ルートヴィヒ・エーミール・グリム(1790年~1863年)
【訳】
矢崎源九郎(1921年~1967年)
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おはなしの始まりはここから
★この文章は3分で読めます
むかしむかし、まだどんな人の望みでも、思いどおりに叶ったころのことです。
あるところに、ひとりの王さまが住んでいました。
この王さまには、おひめさまがいく人もありましたが、みんなそろって、美しいかたばかりでした。
なかでもいちばん下のお姫さまは、それはそれは美しいので、世のなかのいろんなことをたくさん見て知っているお日さまでさえも、お姫さまの顔を照らすたびに、びっくりしてしまうほどでした。
王さまのお城の近くに、こんもりとしげった森がありました。森のなかには古いボダイジュが一本立っていて、その木の下から泉がこんこんと湧き出ていました。
暑い日には、お姫さまは森のなかにはいっていって、このすずしい泉のほとりに腰を下ろしました。そして、たいくつになりますと、金のまりを取り出して、それを高くほうりあげては、手で受けとめて遊びました。
これがお姫さまにとっては、なによりも楽しい遊びだったのです。
ある日、お姫さまが、いつものように金のまりを投げあげて、遊んでいるうちに、つい受け損なってしまいました。
まりは地面におちると、そのまま水のなかへころころと転がりこみました。
お姫さまはまりの行方をながめていましたが、まりは水のなかにしずんで、見えなくなってしまいました。
泉はとてもとてもふかくて、底は少しも見えません。
それで、お姫さまはしくしく泣きだしましたが、その泣き声はだんだん大きくなりました。お姫さまとしては、あのまりを、どうしてもあきらめることができないのです。
こうして、お姫さまが、泣き悲しんでいますと、だれかお姫さまに呼びかけるものがありました。
「どうなさったんですか、お姫さま。お姫さまがそんなにお泣きになると、石までも、おかわいそうだと泣きますよ。」
お姫さまはびっくりして、声のするほうを見まわしました。すると、そこには、一匹のカエルが、きみのわるい、ふくれた頭を水のなかからつき出しています。
「あら、おまえさんだったのね、年よりのカエルさん、今なにか言ったのは。」と、お姫さまがいいました。
「あたしはね、金のまりが泉のなかに落ちてしまったんで、泣いているのよ。」
「心配しないで、泣くのはもうおよしなさい。わたしがいいようにしてあげますからね。でも、あなたのまりを拾って来てあげたら、わたしに何をくださいますか。」と、カエルは言いました。
「大好きなカエルさん、おまえさんの欲しいものは、なんでもあげるわ。」と、お姫さまは言いました。
「あたしの着物だって、真珠だって、宝石だって。それから、あたしのかぶっている金の冠だって、あげてよ。」
すると、カエルはこたえました。
「着物も、真珠も、宝石も、金のかんむりも、そんなものは、なんにも欲しくはありません。そのかわり、もしあなたがわたしをかわいがってくださろうと言うのなら、わたしをあなたのお友だちにしてください。そうして、あなたの食卓に並んで座らせてくださって、あなたの金のおさらで食べ、あなたのかわいい盃で飲ませてください。それから夜になったらば、あなたのちっちゃなベッドに寝かせてください。もしこれだけのことを約束してくださるなら、水のなかにもぐっていって、金のまりをとってきてあげましょう。」
「ええ、ええ、いいわ。」と、お姫さまは言いました。
「金のまりを取って来てくれさえすれば、おまえのお望みのことは、なんでも約束してあげるわ。」
でも、心の中では、
(おばかさんのカエルね。カエルなんか、水の中の仲間のそばで、ギャア、ギャア、鳴いていればいいのよ。人間のお友だちになろうなんて、とんでもないわ。)
と、思っていたのでした。
読了ワーク
思い出してみよう
- お姫さまの何よりも楽しい遊びとはどんなものでしたか。
- お姫さまはどうして泣き出したのですか。
- お姫さまはカエルとどんな約束をしましたか。
調べてみよう
- “ボダイジュ”とは木のことですが、どんな木なのか調べてみましょう。
- 『泉』『湖』『池』『沼』はどれも水がたまっている場所を指しますが、どんな違いがあるでしょうか。
- 『盃』と『杯』の違いについて調べてみましょう。
単語ピックアップ
損なう(そこなう)
①物を壊し、ダメにすること②(動詞の後に続けて用いた場合)~するのに失敗すること
音読シートダウンロード
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 金のまりを高くほうりあげては、手で受けとめる遊び。
- 金のまりが深い泉のなかに沈んでしまったから。
- 「金のまりを取ってきてくれたら、カエルの望むことは何でも約束する」という約束。