やなかゆう
やなかゆう
秋田雨雀作『三人の百姓③【後編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 読み応えのある話が読みたい。
  • あまり知られていない作品を読みたい。
  • 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

秋田雨雀あきたうじゃく(1883年~1962年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

前回までのあらすじ

城下へ炭を売りに行く途中、三人の百姓は美しい布に包まれた赤子を拾う。

赤子の腹には、胴巻きが巻きつけられており、その中にはたくさんの小判が入っていた。

はじめは全ての小判を預かろうとした伊助。しかし小判をめぐって多助と喧嘩になる。結局多助は伊助から小判を12枚受け取り、あとの小判は全て伊助が受け取る。

太郎右衛門は小判を1枚も受け取らず、赤子は子どものいない太郎右衛門が育てることになる。

赤子を家に連れて帰ると、太郎右衛門のお上さんは大喜びする。
そして、その日から二人は赤子を自分たちの子供のように大事に育てる。

太郎右衛門が赤子を拾ったという噂は、村中に広まり、村の上さんや子供たちが赤子を見に来る。
すると、あまりに美しい児なので、みんな驚き、「太郎右衛門はなんて仕合わせなんだ」と口々に言って帰っていった。

お金では買えない幸せについての話②【この文章は5分で読めます】秋田雨雀作、「三人の百姓」の中編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

おはなしの始まりはここから

★この文章は5分で読めます

これまで太郎右衛門たろうえもんの家いえはただ正直しょうじきだというだけで、村むらでは一番貧乏いちばんびんぼうで、一番馬鹿いちばんばかにされて暮くらした家いえでしたが、子供こどもを拾ひろってからは大変たいへん賑にぎやかな幸福こうふくな家いえになっていました。

しかし太郎右衛門たろうえもんの家いえには田畑たはたもないのに、子供こどもが一人ひとり殖ふえたので、益々貧乏ますますびんぼうになりました。しかし太郎右衛門たろうえもんは一度いちども不平ふへいを言いったことがありません。

田たを耕たがやしている時ときでも、山やまで炭すみを焼やいている時ときでも、太郎右衛門たろうえもんは、子供こどものことを思おもい出だすと、愉快ゆかいで愉快ゆかいでたまりませんでした。

「早はやく仕事しごとを終おえて子供こどもの顔かおを見みたいもんだ。」と心こころの中なかで思おもいながら仕事しごとをしていました。

子供こどもの名なは、朝拾あさひろったので、朝太郎あさたろうとつけましたが、その朝太郎あさたろうも、もう四歳よんさいになりました。顔立かおだちこそ美うつくしいが、始終田畑しじゅうたはたや山やまへつれて行いくので、色いろが真まっ黒くろになって、百姓ひゃくしょうの子供こどもとして恥はずかしくないような顔かおになっていました。

無論むろん着物きものなぞも、百姓ひゃくしょうの子供こどもの着きるようなものを着きせていたので、ほんとに太郎右衛門夫婦たろうえもんふうふの子供こどもだと言いっても、誰だれも不思議ふしぎに思おもうものがない位くらいでありました。

話変はなしかわって、あの太郎右衛門たろうえもんと一緒いっしょに子供こどもを見みつけた伊作いさくと多助たすけはどうしたでしょう?

伊作いさくと多助たすけはその後ご、だんだん仲なかが悪わるくなって、いつでも喧嘩けんかばかりしていました。

伊作いさくはある年としの夏なつ、橋はしの袂たもとに小ちいさな居酒屋いざかやを拵こしらえましたが、村むらには一軒いっけんも酒屋さかやがなかったので、この居酒屋いざかやが大層繁盛たいそうはんじょうしてだんだん儲もうかって行いきました。伊作いさくは今いまでは田たを耕たがやしたり、炭すみを焼やいたりしないでも、立派りっぱに食たべて行いかれるようになりました。

多助たすけは、その頃村ころむらの外はずれに小ちいさな水車小屋すいしゃごやを持もっていましたが、毎日まいにち伊作いさくの店みせに寄よっては酒さけを飲のんだり、干ほし魚うおを食たべたりして、少すこしも勘定かんじょうを払はらわないので、それが基もとになって二人ふたりはいつでも喧嘩けんかをしました。二人ふたりは喧嘩けんかをしたかと思おもうと仲直なかなおりをし、仲直なかなおりをしたかと思おもうと、また喧嘩けんかをしました。

村むらの人ひとたちには、どうしてあんなに仲なかの好よかった伊作いさくと多助たすけが、こんな喧嘩けんかをするようになったのか誰だれも知しりませんでした。

朝太郎あさたろうが四歳よんさいになった秋あきの初はじめに、城下じょうかから代官様だいかんさまが大勢おおぜいの家来けらいに空籠からかごを護まもらせて、この淋さびしい村むらへやって来きました。

村むらの人ひとたちは肝きもをつぶして行列ぎょうれつを見みていました。すると代官様だいかんさまの一行いっこう一は、庄屋しょうや長左衛門ちょうざえもんの家いえにどやどやと入はいりました。

庄屋しょうやは顔かおを真まっ青さおにして代官様だいかんさまの前まえに出でました。

「まだ紅葉もみじにはお早はようございますが、一体いったいどういう御用ごようでおいでなさいましたか、どうぞ御用ごようを仰おおせつけてください。」と庄屋しょうやは畳たたみに頭あたまをつけて挨拶あいさつしました。

すると、代官様だいかんさまは笑わらって、「実じつは、今日きょうは妙みょうな相談そうだんがあって来きたのだが、相談そうだんにのってくれるだろうかね?」と言いいました。

長左衛門ちょうざえもんは、益々恐縮ますますきょうしゅくして、「これは誠まことに恐おそれ入いります。御代官様おだいかんさまの御相談ごそうだんならばどんなことでも御相手おあいてになりましょう。どうか何なんなりと仰おおせつけください。」と言いいました。

「早速さっそくだが、この村むらに朝太郎あさたろうという男おとこの子こがいるそうだが、その子供こどもを貰もらい受うける訳わけには行いかないだろうか?」と代官だいかんは言いい出だしました。

「さあ……」と言いったきり、長左衛門ちょうざえもんは何なんとも後あとの句くが出でなくなりました。何故なぜといいますと太郎右衛門たろうえもんが朝太郎あさたろうをこの上うえもなく愛あいしているのを、庄屋しょうやもよく知しっていたからです。

「実じつは」と長左衛門ちょうざえもんは怖おそる怖おそる代官様だいかんさまの顔かおを見みて、「あの子こは訳わけあってあの太郎右衛門たろうえもんが拾ひろい上あげて、これまで育そだてて参まいりましたもので……」と言いいかけた時とき、

代官様だいかんさまは、「それは、私わたしも知しっているのだ。知しっているからこそお前まえに相談そうだんをするのだ。実じつはあの朝太郎あさたろうというお子こは、殿とののお世継よつぎの吉松様よしまつさまという方かたなのだ。さあ、こう申もうしたら、お前まえもさぞ驚おどろくだろうが、ちょっとした殿とののお誤あやまりから、あのお子こが悪者わるものの手てにかかってお果はてなされなければならない破目はめに立たち到いたったのを、色々苦心いろいろくしんの末すえに、この山奥やまおくにお捨すて申もうして、律儀りちぎな百姓ひゃくしょうの手てに御養育ごよういくいたさせたのだ。その証拠しょうこはお子こを拾ひろい上あげた者ものが所時しょじしているはずだ。とにかく一刻いっこくも早はやく吉松殿よしまつどのにお目通めどおりいたしたい。」と大変真面目たいへんまじめな言葉ことばで言いいました。

庄屋しょうやの長左衛門ちょうざえもんも初はじめて事情じじょうが解わかったので、早速太郎右衛門さっそくたろうえもんのところへ行いって、神棚かみだなに入いれて置おいた書かき物ものを出ださせ、太郎右衛門たろうえもんと朝太郎あさたろうを同道どうどうして、代官様だいかんさまの前まえに表あらわれました。

すると代官様だいかんさまと家来けらいたちはちゃんと室へやの外そとまでお出迎でむかえして、朝太郎あさたろうを床とこの間まの前まえに座すわらせて、丁寧ていねいにお辞儀じぎをしました。

太郎右衛門たろうえもんは、庄屋しょうやから大体だいたいの話はなしはきいて来きたようなもののこの有あり様さまを見みて、吃驚びっくりしてしまいました。朝太郎あさたろうは何なにも解わからないので、みんなの顔かおをきょときょとと見廻みまわしているばかりでした。

その日ひの夕方ゆうがた、日ひの陰かげる頃ころを見計みはからって朝太郎あさたろうの吉松殿よしまつどのは、牡丹ぼたんに丸まるの定紋じょうもんのついた、立派りっぱな駕籠かごに乗のせられて、城下じょうかの方ほうへつれて行いかれました。そして、その代かわりに莫大ばくだいな金かねが太郎右衛門夫婦たろうえもんふうふに残のこされました。

「何なんてお目出めでたい話はなしだ。お前まえのとこの朝太郎あさたろうが殿様とのさまになるんじゃないか。」と庄屋しょうやの長左衛門ちょうざえもんが、駕籠かごの見みえなくなった時とき、太郎右衛門たろうえもんに言いいますと、太郎右衛門たろうえもんは目めに涙なみだを一杯溜いっぱいためて、「何なにが目出めでたかべい……庄屋しょうや様さま、後生ごしょうだわで、殿様とのさまがいやになったらいつでも遠慮えんりょなく家いえさ戻もどって来くるように言いってやってくれべい!」と言いって涙なみだを止とめ処どどなく流ながしました。

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 伊作と多助が、喧嘩ばかりしていたのはなぜでしょうか。
  2. ある日、代官様と大勢の家来が村にやって来ました。その理由は何でしょうか。
  3. 代官様が村にやって来た日、貧乏だった太郎右衛門は代官様からたくさんのお金を貰いましたが、目にいっぱい涙を溜めて泣いていました。それはなぜでしょうか。

調べてみよう

  1. 『基』『元』『素』の違い、使い分けについて調べてみよう。
  2. “庄屋”とは何でしょうか。

単語ピックアップ

1.愉快(ゆかい)

楽しくて、心が浮き立つ様。

2.無論(むろん)

言うまでもないこと。

3.勘定(かんじょう)

①金銭を数えること。②代金を支払うこと。

4.律儀(りちぎ)

誠実で真面目であること。

5.同道(どうどう)

連れだって行くこと。

6.後生(ごしょう)

①死んだ後に生まれ変わること。または死後の世界のこと。②心を込めたお願いをきいて貰う際に言う言葉。

音読シートダウンロード

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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 伊作が作った居酒屋で、多助は毎日酒を飲んだり干し魚を食べたりしていたが、少しもお金を払おうとしなかったから。
  2. 太郎右衛門が育てている朝太郎を貰い受けるため。
  3. 自分の子供のように育てていた朝太郎がお城に連れて行かれてしまうから。