やなかゆう
やなかゆう
秋田雨雀作『三人の百姓②【中編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 読み応えのある話が読みたい。
  • あまり知られていない作品を読みたい。
  • 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

秋田雨雀あきたうじゃく(1883年~1962年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

前回までのあらすじ

昔、ある北の国の山奥の村に、伊作、多助、太郎右衛門という三人の百姓が暮らしていた。

三人の百姓は、田を耕したり、焼いた炭を三里ばかり離れた城下に売ったりして生計を立てていた。

ある秋の末、三人が背中に炭俵を背負って城下へ出かけている途中、先を行っていた伊作が何かを見つける。

伊作は後ろにいる二人に向かって手を振り、「早く来い、早く来い」とせき立てる。

せき立てられ、行った先に落ちていたものとは――。

お金では買えない幸せについての話①【この文章は3分で読めます】秋田雨雀作、「三人の百姓」の前編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

おはなしの始まりはここから

★この文章は5分で読めます

「見みろ、こうしたものあ、落おっこってるんだてば。」
と伊作いさくは、少すこし身体からだを退のけて、太郎右衛門たろうえもんにも見みせました。

「ははあ! これあ、奇体きたいな話はなしでねいか!」と太郎右衛門たろうえもんは叫さけびました。

今いま三人さんにんの前まえに生うまれてから三月みつきばかり経たった一人ひとりの赤子あかごが、美うつくしい布きれに包つつまれて捨すてられているのでした。

伊作いさくの話はなしでは、伊作いさくの最初さいしょに見付みつけた時ときは、赤子あかごはよく眠ねむっていたということでした。

「一体いったい何処どこの子供こどもだべいな? いい顔かおつきっこをしてるのにな!」多助たすけは赤子あかごの顔かおを見みて、「それさ、いい着物きものを着きて、ただ者ものの子供こどもじゃあんめいよ。そんだとも、うっかり手てをつけられねいぞ。かかり合あいになって牢屋ろうやさでも、ぶっこまれたら大変たいへんだ。触さわらぬ神かみに祟たたりなしって言いうわで。」と付つけ足たして言いいました。

「そうだども、不憫ふびんでねいか、獣けだものにでも見みつかったら、食くわれてしまうでねいか?」
と、気きの弱よわい太郎右衛門たろうえもんは言いいました。

「子供こどもも不憫ふびんには不憫ふびんだども、勿体もったいねい着物きものっこを着きてるでねいか?」と普段ふだんから少すこし慾よくの深ふかい伊作いさくは、赤子あかごを包くるんでいる美うつくしい布きれを解といて見みました。

すると、赤子あかごの腹はらのところに、三角さんかくにくけた胴巻どうまきが巻まきつけてありました。

伊作いさくは赤子あかごの泣なくのも耳みみに入はいらないと言いうように、その財布さいふを取とり上あげて、片方かたほうの端はしを持もって振ふり廻まわして見みるとその中なかから小判こばんがどっさり出でて来きました。

それを見みて、多助たすけも太郎右衛門たろうえもんも吃驚びっくりしてしまいました。

「何なんて魂消たまげた話はなしだ!」と多助たすけは青あおい顔かおをして太郎右衛門たろうえもんを見みると、太郎右衛門たろうえもんは今いままでこんな大金たいきんを見みたことがないので、肝きもをつぶしてしまって、がたがたふるえていました。

伊作いさくの発議はつぎでとにかく三人さんにんはその赤子あかごを拾ひろうことにきめました。

「この金かねはとにかく、おいらが預あずかって置おくことにすべい。」
と伊作いさくはさっさと自分じぶんの腹はらへ巻まきつけようとしましたので、それを見みた多助たすけは、大変たいへんに怒おこって、伊作いさくと喧嘩けんかをはじめました。

そこで伊作いさくは仕方しかたがないので、小判こばんを十枚じゅうまいだけ多助たすけに渡わたしました。そして太郎右衛門たろうえもんには五枚ごまいだけ渡わたして、「お前まえに子供こどもがないわで、この子供こどもを育そだてたらよかべい。」と言いいました。

太郎右衛門たろうえもんは、その時伊作ときいさくに向むかって、「おいら、子供こどもが不憫ふびんだわで、つれて行いくども、金かねが欲ほしくて子供こどもをつれて行いくんでねい。」と言いってどうしても金かねを受うけ取とりませんでした。

多助たすけは、もし太郎右衛門たろうえもんが受うけ取とらなければその五枚ごまいも伊作いさくに取とられてしまうのを知しっているので、是非ぜひ受うけ取とるようにすすめたけれども受うけ取とりませんでした。

伊作いさくは太郎右衛門たろうえもんがどうしても受うけ取とらないので、その内うちの二枚にまいを多助たすけにくれて、後あとの三枚さんまいを元もとの胴巻どうまきへ入れて、腰こしに巻まきつけてしまいました。

多助たすけも後二枚あとにまいだけ余計よけいにもらったので、まんざら悪わるい気持きもちもしませんでした。

三人さんにんは城下じょうかへ行いくのをやめて、その日ひは自分じぶんの村むらへ帰かえってしまいました。

太郎右衛門たろうえもんは拾ひろった赤児あかごをどうして育そだてて行いこうかと、道々みちみち心配しんぱいして帰かえって来きましたが家いえへ帰かえってお上かみさんに赤児あかごを見みせると、子このないお上かみさんが大変たいへん喜よろこんでくれたので、ほっと安心あんしんしました。

しかし伊作いさくに口止くちどめされているので、小判こばんの話はなしなぞは一言ひとことも言いいませんでした。

「もし金かねのことが発覚はっかくすれば、三人同罪さんにんどうざいで牢屋ろうやへ行いくのだ。」と伊作いさくは馬鹿正直ばかしょうじきな太郎右衛門たろうえもんに言いい含ふくめておいたのでした。

太郎右衛門たろうえもんと、太郎右衛門たろうえもんのお上かみさんが、この赤児あかごを見みているうちに、今いままで一度いちども感かんじたことのないような嬉うれしい気持きもちになって来きました。

お上かみさんは、太郎右衛門たろうえもんに向むかって、「この子こはお寺てらの子こでねえかしら!」と言いいました。

そのわけは、赤児あかごを包くるんでいる布きれは緞子どんすという立派りっぱな布きれで、お上かみさんが城下じょうかのお寺てらで、一度いちど見みたことがあるからということでした。

「馬鹿ばかなあまっこだな、なしてお寺てらで子供こどもを捨すてべいな!」と太郎右衛門たろうえもんはお上かみさんを叱しかりつけました。

その晩ばん、太郎右衛門たろうえもん夫婦ふうふは、大おおきな釜かまに湯ゆを沸わかして、厩うまやの前まえで赤児あかごに湯ゆをつかわせてやることにしました。

お上かみさんは、何気なにげなく赤児あかごの帯おびをほどいて、厩うまやの方ほうへつれて行いこうとすると、大おおきな振袖ふりそでの中なかから一枚いちまいの紙切かみきれが落おちて来きました。

「なんだべい!」と言いって、その紙切かみきれを亭主ていしゅの太郎右衛門たろうえもんに渡わたしました。

太郎右衛門たろうえもんはそれを拾ひろって見みると、その紙切かみきれに、下したのような文字もじが平仮名ひらがなで書かいてありました。

「ゆえありて、おとこのこをすつ、なさけあるひとのふところによくそだて。よばぬうちに、なのりいづるな、ときくれば、はるかぜふかん。」

この平仮名ひらがなを読よむために、夫婦ふうふは一晩ひとばん費ついやしてしまいました。

太郎右衛門たろうえもんが読よんだ時ときと、お上かみさんの読よんだ時ときと文句もんくがちがうので大変たいへんに困こまりました。

「何なにしろ、拾ひろった人ひとに、親切しんせつにしてくれろってことだべい。」と太郎右衛門たろうえもんが言いうと、お上かみさんも、「そんだ、そんだ。」と同意どういを表あらわしました。

二人ふたりはその晩ばん、拾ひろった赤児あかごを代かわり番ばんこに抱だいて寝ねました。

赤児あかごの柔やわらかい肌はだが触ふれると、二人ふたりともなんとも言いい表あらわしがたい快感かいかんを感かんじました。

夜よるになってから、赤児あかごが二度にどほど泣なきましたが、二人ふたりはその度たびに、甲斐甲斐かいがいしく起おき上あがって、あやしてやったり、「おしっこ」をさせてやったりしたので、朝方あさがたになって、大変たいへんよく眠ねむりました。

お上かみさんが早はやく起おきて、雨戸あまどを明あけると、そこから明あかるい太陽たいようが遠慮えんりょなく射さし込こんで来きました。

お上かみさんは、急きゅうに自分じぶんが偉えらい人間にんげんにでもなったような自慢じまんらしい気持きもちがするので、不思議ふしぎに思おもわれる位くらいでした。

太郎右衛門たろうえもんも太郎右衛門たろうえもんで、自分じぶんに抱だかれて眠ねむっている子供こどもの顔かおを見みていると、その子こがほんとうに自分じぶんの生うんだ子供こどものような気きがするのでした。

「見みろ、この子こはなんていい面つらしてるんだんべいな!」と太郎右衛門たろうえもんは、朝あさの支度したくにかかっている、お上かみさんを呼よんで、子供こどもの顔かおを見みせました。

「ほんとね、いい面つらっこだこと。こんな子供こどもね百姓ひゃくしょうさせられべいか!」とお上かみさんは、子供こどもの寝顔ねがおを見みて、つくづくと言いうのでした。

太郎右衛門たろうえもんが子供こどもを拾ひろったという噂うわさが村中むらじゅう一杯いっぱいに拡ひろがりました。

夕方ゆうがたになると村むらの上かみさんたちや子供こどもたちがぞろぞろ揃そろって捨すて児ごを見みに来きました。

そして、余あまり美うつくしい児こなので、みんな驚おどろいてしまいました。

そして、「太郎右衛門たろうえもんさんとこあ、なんて仕合しあわせだんべい。」と口々くちぐちに言いいはやしながら帰かえりました。

お金では買えない幸せについての話③【この文章は5分で読めます】秋田雨雀作、「三人の百姓」の後編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 赤児を最初に見つけたのは誰でしたか。
  2. 赤児は結局誰が育てることになりましたか。
  3. 結局多助は小判を何枚もらいましたか。
おはなちゃん
おはなちゃん
三問目は算数の問題みたいね

調べてみよう

  1. “触らぬ神に祟りなし”の意味について調べてみましょう。
  2. 『慾』と『欲』の違いについて調べてみよう。
  3. “緞子(どんす)”という生地について調べてみよう。

単語ピックアップ

1.奇体(きたい)

普通とは違うめずらしいこと。

2.不憫(ふびん)

かわいそうなこと。

3.厩(うまや)

馬を飼育するのに使う小屋のこと。

2.甲斐甲斐しい(かいがいしい)

苦労も嫌がることなく、きびきびと手際良く面倒をみる様。

音読シートダウンロード

★この物語“三人の百姓②【中編】”の音読シートがダウンロードできます。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 伊作
  2. 太郎右衛門
  3. 12枚