やなかゆう
やなかゆう
鈴木三重吉作『星の女①』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 長めの話を少しずつ読みたい。
  • 長い話を集中して読む練習をしたい。
  • あまり知られていない話を読みたい。

このおはなしの作者

鈴木三重吉(1882年~1936年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この文章は4分で読めます

三人さんにん姉妹しまいの星ほしの女おんなが、毎晩まいばん、美うつくしい下界げかいを見みるたびに、あそこへ下おりてみたいと言いい合あっていました。

三人さんにんはある晩ばん、森もりのまん中なかに、睡蓮すいれんのいっぱい咲さいている、きれいな泉いずみがあるのを見みつけました。

三人さんにんともその水みずの中なかへ浸つかってみたいと思おもいましたが、そこまで下おりていく手立てだてがありません。

三人さんにんは夜通よどおしその泉いずみを見みつめて、ため息いきをついていました。

そのあくる晩ばんも、三人さんにんはまたその泉いずみばかり見下みおろしていました。

泉いずみは、ゆうべよりも、なお一層いっそう美うつくしく見みえました。

「ああ下おりて行いきたい。一度いちどでいいからあの泉いずみで浴あびてきたい。」と、一番いちばん上うえの姉あねが言いいました。

下したの二人ふたりも同おなじように下おりたいと言いいました。

すると、高たかい山やまの真上まうえを歩あるくのが大好だいすきな、月つきの夫人ふじんがそれを聞きいて、「そんなに行いきたければ、蜘蛛くもの王おうさまにそう言いって、蜘蛛くもの糸いとをつたって下おろしてもらいなさい。」と言いいました。

蜘蛛くもの王おうさまは、いつものように、網あみの中なかに座すわって、耳みみをすましていました。

星ほしの女おんなたちは、その蜘蛛くもの王おうさまに頼たのみました。

蜘蛛くもの王おうさまは、「さあさあ、下おりていらっしゃい。私わたしの糸いとは空気くうきのように軽かるいけれど、強つよいことは鋼はがねと同おなじです。」と言いいました。

三人さんにんはその糸いとにつかまって、一人ひとりずつ、するすると泉いずみのそばへ下おりて来きました。

泉いずみの面おもてには、月つきの光ひかりが一面いちめんにさして、睡蓮すいれんの花はなのなつかしい香かおりが溢あふれています。

三人さんにんはきらびやかな星ほしの着物きものを脱ぬいで、そっと水みずの中なかへ入はいりました。

清々すがすがしい、冷つめたい水みずでした。

三人さんにんは静しずかに睡蓮すいれんの花はなをかき分わけて行いきました。

三人さんにんの肌はだには、水みずのしずくが真珠しんじゅのようにきらきら光ひかりました。

と、その泉いずみのすぐそばに、ある若わかい狩人かりゅうどが寝ねていました。

三人さんにんはそれとは気きがつかないで、にこにこ喜よろこんで水みずを浴あびていました。

うとうと寝ねていた狩人かりゅうどは、三人さんにんの天てんの女おんなが、泉いずみの睡蓮すいれんの花はなを揺ゆるがせて、水みずの中なかを歩あるいている夢ゆめを見みて、ふと目めを覚さましました。

ひじを立たてて泉いずみの面おもてを見みますと、真まっ青さおにさしている月つきの光ひかりの中なかで、三人さんにんの美うつくしい女おんなが、楽たのしそうに水みずを浴あびています。

狩人かりゅうどはこっそりと、泉いずみの岸きしをつたって、三人さんにんの着物きものが脱ぬいであるところへ行いきました。

そして、その中なかの一番いちばんきれいな着物きものを手てに取とって見みました。

それは、金きんと銀ぎんの糸いとで織おって、色様々いろさまざまの宝石ほうせきを使つかって縫ぬい飾かざった、立派りっぱな着物きもので、左ひだりの胸むねのところには、心臓しんぞうの形かたちをした大おおきな赤あかいルビーが光ひかっていました。

狩人かりゅうどは、その着物きものを抱かかえて、元もとのところへ帰かえって、隠かくれていました。

三人さんにんの星ほしの女おんなはそんなことは夢ゆめにも思おもわないで、長ながい間あいだ水みずを浴あびて楽たのしんでいました。

そのうちに、だんだんと夜明よあけが近ちかづいてきました。

すると、蜘蛛くもの王おうさまが空そらの上うえから、「もうお帰かえりなさい。お日ひさまがお出でましになると、お日ひさまのお馬うまが糸いとを足あしで踏ふみ切きります。早はやく空そらへお上あがりなさい。」と言いいました。

星ほしの女おんなはそれを聞きくと、急いそいで岸きしへ上あがりました。

二人ふたりの姉あねはすぐに着物きものを着きて、目めに見みえぬ蜘蛛くもの糸いとの梯子はしごを登のぼって、大空おおぞらへ帰かえって行いきました。

三人さんにんの中なかで一番いちばん美うつくしい下したの妹いもうとは、一緒いっしょに脱ぬいでおいた着物きものが無ないのでびっくりしました。

それが無なければ空そらへ帰かえることが出来できないので、一生懸命いっしょうけんめいに辺あたりを探さがしましたが、見みつかりません。

そのうちに、お日ひさまがお出でましになりました。

お日ひさまのお馬うまは、蜘蛛くもの糸いとを足あしで踏ふみ切きってしまいました。

星ほしの女おんなは途方とほうに暮くれて、草くさの上うえにうつ伏ぶして泣ないていました。

そうすると森もりの鳥とりが起おきて来きて、「あなたの美うつくしいお召めし物ものは、若わかい狩人かりゅうどが取とって行いきました。その狩人かりゅうどは、あそこの木きの下したで、寝ねたふりをしています。」こう、さえずって星ほしの女おんなに教おしえました。

星ほしの女おんなはそれを聞きくと、睡蓮すいれんの花はなをつなぎ合あわせて花はなの着物きものをこしらえて、それで体からだを包つつんで、狩人かりゅうどのところへ行いきました。

そして、「どうか私わたしの金きんと銀ぎんの着物きものを返かえして下ください。その代かわりには、あなたのお望のぞみになることは何なんでもしてあげます。」と、泣なき泣なき頼たのみました。

狩人かりゅうどは、「私わたしは何なにも欲ほしくはない。あなたが私わたしのお嫁よめになってくれれば何なにもいらない。」と言いいました。

星ほしの女おんなは、着物きものを取とり上あげられては、もう下界げかいを離はなれる魔力まりょくも無なくなったので、しかたなしに狩人かりゅうどのお嫁よめになりました。

狩人かりゅうどは、星ほしの女おんなを大事だいじに可愛かわいがりました。

星ほしの女おんなの姿すがたは、睡蓮すいれんの花はなのように美うつくしく、その声こえは、どんな小鳥ことりの声こえよりも、もっと優やさしく響ひびきました。

狩人かりゅうどは毎日まいにち猟りょうに出でて、食たべものを取とって来きました。そして星ほしの女おんなに、その日ひのいろいろな楽たのしいお話はなしをしました。

しかし星ほしの女おんなは、そういう中なかでも、大空おおぞらのお家うちを忘わすれることが出来できませんでした。

女おんなは、月つきの出でる晩ばんには、一人ひとりで睡蓮すいれんの泉いずみのそばに出でて、大空おおぞらを見みては泣なきました。

せめて二人ふたりの姉あねの星ほしが、もう一度いちど下おりて来きてくれれば良いいのにと思おもって、待まちこがれていましたが、二人ふたりは黙だまって青あおい目めをまばたいているだけで、毎晩まいばん蜘蛛くもの王おうさまが糸いとを下おろしても、ちっとも下おりて来こようとはしませんでした。

空の世界に帰れなくなってしまった女の話②【この文章は4分で読めます】鈴木三重吉作、「星の女」の第二話です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 三人の星の女は、どんな方法で下界の泉にやって来ましたか。
  2. 星の女の一番美しい下の妹の着物が無くなってしまいました。それはどうしてですか。
  3. 帰れなくなった星の女は、結局どうすることにしましたか。

調べてみよう

  • 『長い』と『永い』の違いは何でしょうか。

単語ピックアップ

1.下界(げかい)

①仏教に由来する言葉で天上界に対し、この世や人間界を表す。②高い場所から見下ろした時に見える下一帯。

2.清々しい(すがすがしい)

すっきりとして気持ちが良いこと。

音読シートダウンロード

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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 蜘蛛の王さまの蜘蛛の糸につかまって、一人ずつするすると泉のそばまで下りて来た
  2. 泉のすぐそばで寝ていた若い狩人が、着物を持って行ってしまったから
  3. 狩人のお嫁になった