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母の気持ちに寄り添う優しい少年の話

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おはなちゃん
おはなちゃん
小川未明作『小さな年ちゃん』です
やなかゆう
やなかゆう
この話を読んだとき、思わず視界がぼやけてしまいました
このおはなしはこんな人にオススメ
  • すぐに読めて、優しい気持ちになれる話が読みたい。
  • 5歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

小川未明おがわみめい(1882年~1961年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この文章は3分で読めます

二時間目にじかんめ図画ずが時間じかんに、先生せんせいが、「みなさんのおかあさんを、いてごらんなさい。」と、おっしゃいました。

先生せんせい、おかあさんのないひとは、どうしますか?」と、ったものがあります。

「おかあさんのないひとは、だれですか?」

武田たけだくんは、おかあさんがないのです。」

「じゃ、ないひとは、おとうさんをおきなさい。」と、先生せんせいはおっしゃいました。

みんなは、しずかになりました。

そして、としちゃんは、まるまるとした鉛筆えんぴつにぎって、おかあさんの、おかおおもしているうちに、「今頃いまごろ、おかあさんは、どうしていらっしゃるだろうな。」と、本当ほんとうかんがえたのでした。

昨日きのうよるでした。

とうさんが、お出掛でかけなさろうとして、「まだ、着物きものはできないのか?」と、おかあさんに、おっしゃいました。

「もうすこしですけれど、まだできあがっていないのです。」と、おこたえなさると、「なにをぐずぐずしているんだ。」と、おとうさんは、おおこりになりました。

そのとき、おかあさんは、「昼前ひるまえに、おきゃくさまがあって、おかえりなされると、もうおひるですし、昼過ひるすぎに仕事しごとをしかけますと、としちゃんがかえってきて、そして、あそびにて、ころんできましたので、お洗濯せんたくをしてやりました。つぎに、花子はなこかえってきて、おともだちのところへゆくのだから、かみってくれといいますので、かみってやったりしていますと、もう晩方ばんがたになりました。ばんには、おがあるので、おはいってからは、じきとしちゃんはねむたがりますから、そのまえ学校がっこうのおさらいをしてやりますと、本当ほんとうに、お仕事しごとをする時間じかんというものがなかったのでした。今夜こんやは、おそくなってもげるつもりでいます。」と、おっしゃっていました。

そばでこれをいていたとしちゃんは、もしそれでおとうさんがおこるなら、おとうさんがわるいとおもいましたが、おとうさんはだまっていました。

いま、そんなことをかんがえると、おかあさんが、なんだか、かわいそうになりました。

「あのはらっぱで、あんなことをしてあそばなければ、ころびもしなくて、よかったのだ。」

と、としちゃんは、昨日きのう材木ざいもくがたくさんんであるうえを、吉雄よしおくんや、賢二けんじくんと、あしをしてわたっているうちに、みずたまりへちて、着物きものよごしたことをおもったのです。

今頃いまごろ、おかあさんは、どうしていらっしゃるだろうな。」

いつもお仕事しごとをなさるところすわって、おかあさんは一人ひとりで、ガラスうちから、そとのおにわていらっしゃる姿すがたを、としちゃんは、かべたのでした。

そして、うぐいすが、今日きょう昼前ひるまえんできて、あかのなった、うめもどきのや、つばきのえだにとまって、むしさがしているのを、おかあさんは、ていらしたのです。

しかし、そのおかあさんのかおはさびしそうでありました。

としちゃんは、画用紙がようしうえへ、さびしいおかあさんのおかおきました。

なんだか、そのおかあさんは、いていらっしゃるようです。

「こんなの、おかしいなあ。」と、としちゃんは、かんがえていましたが、そのかたわへ、「ボクたちが、るすのときの、さびしいおかあさんのおかお」と、いて、先生せんせいしました。

先生せんせいは、それをごらんになって、どうおおもいなされるでしょう?

それは、このつぎ、いただいたときでなければわかりません。

としちゃんは、はやくおうちかえって、おかあさんのおかおたいとおもいました。

学校がっこうわると、いそいでおうちかえりました。

「ただいま!」と、いつものごとく、そとからこえをかけました。

はたして、おかあさんは、いつもの場所ばしょすわっていらっしゃいました。

「おかあさん、さびしくなかった?」と、としちゃんは、きました。

「うるさいひとが、みんなお留守るすで、しずかでようございましたよ。」と、おかあさんはおっしゃいました。

「うれしかった?」

「ほほほほほ。」

「うぐいすがた?」

ましたよ、今日きょうは、うぐいすと、ははうぐいすと、二羽にわましたよ。」

「おかあさんは、ボクのことをおもっていた?」

「ええ、今頃いまごろとしちゃんは、おやつがべたいとおもっているだろうとおもいました。」と、おかあさんは、おわらいになりました。

「そんなこと、おもうもんか。」と、としちゃんがいました。

そして、ランドセルをすと、おやつをにぎってあそびにました。

にあった、さびしいおかあさんのおかおえて、どこをても、たのしいほがらかなおかあさんのかおわらっていました。

読了ワーク

思い出してみよう

  1. お父さんはなぜお母さんに怒ったのでしょうか。
  2. 怒ったお父さんに対して、お母さんはどんなことを言いましたか。
  3. 年ちゃんが画用紙に描いたお母さんの顔はどんな顔になりましたか。

調べてみよう

  • 『駆』と『駈』の違いは何でしょうか。

単語ピックアップ

1.図画(ずが)

①図と絵のこと。②旧制小学校の教科の一つ。今日の図工。

2.傍ら(かたわら)

そば、すぐ近くのこと。

3.朗らか(ほがらか)

晴れ晴れとして明るく、楽しげであること。

音読シートダウンロード

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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. お父さんの着物が、まだ出来上がっていなかったから
  2. 他にやることがあって、本当に仕事をする時間がなかったから、今夜は遅くなっても縫い上げるつもりだと言った
  3. 泣いているかのような、さびしそうな顔