- 怖い話は得意。
- 怖い話が好きな子ども(年長)に読み聞かせしたい。
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すると、その日の夕方、青ひげが、ひょっこり、家へ帰って来ました。
それは、まだ向こうまで行かないうち、途中で、用向きが、都合良く片付いた、という知らせを聞いたからだと青ひげは話しました。
出し抜けに帰って来られた時、奥方はぎょっとしましたが、一生懸命嬉しそうな顔をして見せていました。
さて、そのあくる朝、青ひげは早速、奥方に預けた鍵をお出しと言いました。
そう言われて、奥方が鍵を出した時、その手の震えようといったらありませんでしたから、青ひげは、すぐと勘づいてしまいました。
「おや。」と、青ひげは言いました。
「小部屋の鍵が一つ無いぞ。」
「じゃあ、きっと、あちらの机の上に置き忘れたのでしょう。」と、奥方は答えました。
「すぐ持って来い。」と、青ひげは、怒った声を出しました。
五六度、あちらへ行ったり、こちらへ行ったり、まごまごした後で、奥方は、しぶしぶ鍵を出しました。
青ひげは、鍵を受け取ると、怖い目をして、じっと眺めていましたが、「この鍵の血はどうしたのだ。」と言いました。
「知りません。」と、泣くような声で答えた奥方の顔は、死人よりも青ざめていました。
「なに、知りませんだと。」と、青ひげは言いました。
「俺はよく知っているよ。おまえはよくも思い切って、小部屋の中に入ったな。えらい度胸だ。よし、そんなに入りたければ、あそこへ入れ、入って、そこにいる奥さんたちの仲間になれ。」
こう言われると、奥方は、いきなり夫の足元に突っ伏して、いかにも真心から、悔い改めた様子で、もう決して、お言いつけには背きませんからと言って詫びました。
このうえもなく美しい人の、この上もなく悲しい姿を見ては、岩でもとろけ出したでしょう。
けれど、この青ひげの心は、岩よりも、金よりも硬かったのでございます。
「奥さん、あなたは死ななければならない。今すぐに。」と、青ひげは言いました。
「わたくし、どうしても死ななければならないのでしたら。」と、奥方は答えて、目にいっぱい涙を浮かべて、夫の顔を見ました。
「せめてしばらく、お祈りをする間だけ、待ってくださいまし。」
「しかたがない、七分半だけ待ってやる。だがそれから、一秒も遅れることはならないぞ。」と、青ひげは言いました。
ひとりになると、奥方は、女のきょうだいの名を呼びました。
「アンヌ姉様(アンヌというのは、きょうだいの名前でした。)アンヌ姉様、後生です、塔のてっぺんまで上がって、兄様たちが、まだおいでにならないか見てください。兄様たちは今日、訪ねて下さる約束になっているのです。見えたら、大急ぎで来るように、合図をしてください。」
アンヌ姉様は、すぐ塔のてっぺんまで上がって行きました。
半分きちがいのようになった奥方は、かわいそうに、始終、叫び続けていました。
「アンヌ姉様、アンヌ姉様、まだ何も来ないの。」
すると、アンヌ姉様は言いました。
「日が照って、ほこりが立っているだけですよ。草が青く光っているだけですよ。」
そのうちに青ひげが、大きな剣を抜いて手に持って、ありったけの割れ鐘声を出して、どなり立てました。
「すぐ下りて来い。下りて来ないと、俺の方から上がって行くぞ。」
「もうちょっと待ってください、後生ですから。」と、奥方は言いました。
そうして、ごく低い声で、「アンヌ姉様、アンヌ姉様、まだ何も見えないの。」と、叫びました。
アンヌ姉様は答えました。
「日が照って、ほこりが立っているだけですよ。草が青く光っているだけですよ。」
「早く下りて来い。」と、青ひげは叫びました。「下りて来ないと、上がって行くぞ。」
「今参ります。」と、奥方は答えました。
そうして、その後で、「アンヌ姉様、まだ何も見えないの。」と、叫びました。
「ああ。でも、大きな砂けむりが、こちらの方に向かって、立っていますよ。」と、アンヌ姉様は答えました。
「それはきっと、兄様たちでしょう。」
「おやおや、そうではない。ひつじの群れですよ。」
「こら、下りて来ないか、きさま。」と、青ひげは叫びました。
「今すぐに。」と、奥方は言いました。そうして、その後で、「アンヌ姉様、アンヌ姉様、まだ、だあれも来なくって。」
「ああ、ふたり馬に乗った人がやって来るわ。けれど、まだずいぶん遠いのよ。」
「ああ、ありがたい。」と、奥方は、嬉しそうに言いました。
「それこそ、兄様たちですよ。私、兄様たちに、急いで来るように合図しましょう。」
そのとき、青ひげは、家ごと震えるほどの大声でどなりました。
奥方は、しおしお、下へおりて行きました。
涙をいっぱい目にためて、髪の毛を肩にたらして、夫の足元に突っ伏しました。
「今更どうなるものか。」と、青ひげはあざ笑いました。
「はやく死ね。」こう言って、片手に、奥方の髪の毛をつかみながら、片手で剣を振り上げて、首をはねようとしました。
奥方は、夫の方を振り向いて、今にもたえ入りそうな目つきで、ほんのしばらく、身繕いする間、待ってくださいと頼みました。
青ひげはこう言って、剣を振り上げました。
「ならん、ならん。神さまに任せてしまえ。」
そのとたん、表の戸に、ドンと激しくぶつかる音がしたので、青ひげは思わず、ぎょっとして手を止めました。
途端に、戸が開いたと思うと、すぐ騎兵がふたり入って来て、いきなり青ひげに向かって来ました。
これは奥方の兄弟で、ひとりは竜騎兵、ひとりは近衛騎兵だということを、青ひげはすぐと知りました。
そこで慌てて逃げ出そうとしましたが、兄弟はもう、後ろから追いついて、青ひげが靴ぬぎの石に足をかけようとするところを、胴中をひと突き突き刺して殺してしまいました。
でもその時には、もう奥方も気が遠くなって死んだようになっていましたから、とても立ち上がって、兄弟たちを迎える気力はありませんでした。
さて、青ひげには跡継ぎの子がありませんでしたから、その財産は残らず、奥方の物になりました。
奥方はそれを、姉様や兄様たちに分けてあげました。
物珍らしがり、それはいつでも心を引く軽い楽しみですが、一度それが満たされると、もうすぐ後悔が代わってやって来て、そのため高い代価を払わなくてはなりません。
読了ワーク
思い出してみよう
- 青ひげは奥方が思っていたよりも早く、家に帰って来ました。それはどんな理由だったでしょうか。
- お祈りする時間として七分半もらった奥方は、その後どんな行動に出ましたか。
調べてみよう
- 『硬い』『固い』『堅い』の違いは何でしょうか。
- 『答える』と『応える』の違いは何でしょうか。
単語ピックアップ
1.用向き(ようむき)
用事、用件
2.出し抜け(だしぬけ)
いきなり、突然のこと
3.割れ鐘(われがね)
①割れた釣り鐘のこと②(①の鐘の音を例えから)濁ったような太い大声のこと
4.代価(だいか)
①商品の値段②あることを成し遂げた際に生じた損失のこと
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 目的地まで行かないうちに、途中で用向きが都合良く片付いたという知らせを聞いたから
- 姉のアンヌに声をかけ、塔のてっぺんまで上がってもらい、今日訪ねてくる予定のお兄さん達が見えたら大急ぎで来るよう合図をしてほしいとお願いした。