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どんぐりの背くらべに付き合わされる少年の話②

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やなかゆう
やなかゆう
宮沢賢治作『どんぐりと山猫②【中編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 明るい気分になる話が読みたい。
  • 分かりやすい話が読みたい。
  • 3歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

宮沢賢治みやざわけんじ(1896年~1933年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

前回までのあらすじ

どんぐりの背くらべに付き合わされる少年の話①【この文章は4分で読めます】宮沢賢治作、「どんぐりと山猫」の前編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

おはなしの始まりはここから

★この文章は4分で読めます

一郎いちろうどくになって、「さあ、なかなか、文章ぶんしょう上手うまいようでしたよ。」といますと、おとこよろこんで、いきをはあはあして、みみのあたりまでまっになり、着物きものえりひろげて、かぜからだれながら、「あのもなかなか上手うまいか。」ときました。

一郎いちろうは、おもわずわらいだしながら、返事へんじしました。

上手うまいですね。五年生ごねんせいだってあのくらいにはけないでしょう。」

するとおとこは、きゅうにまたいやなかおをしました。

五年生ごねんせいっていうのは、尋常じんじょう五年生ごねんせいだべ。」

そのこえが、あんまりちからなくあわれにこえましたので、一郎いちろうはあわてていました。

「いいえ、大学校だいがっこう五年生ごねんせいですよ。」

すると、おとこはまたよろこんで、まるで、かおじゅうくちのようにして、ニタニタニタニタわらってさけびました。

「あの葉書はがきはわしがいたのだよ。」

一郎いちろうはおかしいのをこらえて、「ぜんたいあなたはなにですか。」とたずねますと、おとこきゅうにまじめになって、「わしは山猫やまねこさま馬車ばしゃ別当べっとうだよ。」といました。

そのとき、かぜがどうといてきて、くさ一面いちめんなみだち、別当べっとうは、きゅう丁寧ていねいなおじぎをしました。

一郎いちろうはおかしいとおもって、ふりかえってますと、そこに山猫やまねこが、黄色きいろ陣羽織じんばおりのようなものをて、緑色みどりいろをまんまるにしてっていました。

やっぱり山猫やまねこみみは、ってとがっているなと、一郎いちろうおもいましたら、山猫やまねこはぴょこっとおじぎをしました。

一郎いちろう丁寧ていねい挨拶あいさつしました。

「いや、こんにちは、昨日きのう葉書はがきをありがとう。」

山猫やまねこはひげをピンとって、はらをつきしていました。

「こんにちは、よくいらっしゃいました。じつ一昨日おとといから、面倒めんどうあらそいがこって、ちょっと裁判さいばんこまりましたので、あなたのおかんがえを、うかがいたいとおもいましたのです。まあ、ゆっくり、おやすみください。じき、どんぐりどもがまいりましょう。どうも毎年まいとし、この裁判さいばんくるしみます。」

山猫やまねこは、ふところから、巻煙草まきたばこはこして、自分じぶん一本いっぽんくわえ、「いかがですか。」と一郎いちろうしました。

一郎いちろうはびっくりして、「いいえ。」といましたら、山猫やまねこ大様おおようわらって、「ふふん、まだおわかいから、」といながら、マッチをしゅっとって、わざとかおをしかめて、あおけむりをふうときました。

山猫やまねこ馬車ばしゃ別当べっとうは、をつけの姿勢しせいで、しゃんとっていましたが、いかにも、煙草たばこしいのを無理むりにこらえているらしく、なみだをぼろぼろこぼしました。

そのとき、一郎いちろうは、足元あしもとでパチパチしおぜるような、おときました。

びっくりしてかがんでますと、くさのなかに、あっちにもこっちにも、黄金色きんいろまるいものが、ぴかぴかひかっているのでした。

よくると、みんなそれはあかいズボンをいたどんぐりで、もうそのかずときたら、三百さんびゃくでもかないようでした。

わあわあわあわあ、みんななにっているのです。

「あ、たな。ありのようにやってる。おい、さあ、はやくベルをらせ。今日きょうはそこが日当ひあたりがいから、そこのとこのくされ。」山猫やまねこ煙草たばこてて、おおいそぎで馬車ばしゃ別当べっとういつけました。

馬車ばしゃ別当べっとう大変たいへんあわてて、こしからおおきなかまして、ざっくざっくと、山猫やまねこまえのとこのくさりました。

そこへ四方しほうくさなかから、どんぐりどもが、ぎらぎらひかって、して、わあわあわあわあいました。

馬車ばしゃ別当べっとうが、こんどはすずをガランガランガランガランとりました。

おとかやもりに、ガランガランガランガランとひびき、黄金きんのどんぐりどもは、すこしずかになりました。

ると山猫やまねこは、もういつか、くろなが繻子しゅすふくて、勿体もったいらしく、どんぐりどものまえすわっていました。

まるで奈良なら大仏様だいぶつさま参詣さんけいするみんなののようだと一郎いちろうおもいました。

別当べっとう今度こんどは、革鞭かわむち二三にさんべん、ひゅうぱちっ、ひゅう、ぱちっとらしました。

そらあおみわたり、どんぐりはぴかぴかしてじつにきれいでした。

裁判さいばんももう今日きょう三日目みっかめだぞ、いい加減かげん仲直なかなおりをしたらどうだ。」

山猫やまねこが、すこ心配しんぱいそうに、それでも無理むり威張いばっていますと、どんぐりどもは口々くちぐちさけびました。

「いえいえ、駄目だめです、なんといったってあたまとがってるのが一番いちばんえらいんです。そしてわたし一番いちばんとがっています。」

「いいえ、ちがいます。まるいのがえらいのです。一番いちばんまるいのはわたしです。」

おおきなことだよ。おおきなのが一番いちばんえらいんだよ。わたし一番いちばんおおきいからわたしがえらいんだよ。」

「そうでないよ。わたしほうがよほどおおきいと、昨日きのう判事はんじさんがおっしゃったじゃないか。」

駄目だめだい、そんなこと。せいたかいのだよ。せいたかいことなんだよ。」

しっこのえらいひとだよ。しっこをしてめるんだよ。」

もうみんな、ガヤガヤガヤガヤって、なになんだか、まるではちっついたようで、わけがわからなくなりました。

どんぐりの背くらべに付き合わされる少年の話③【この文章は4分で読めます】宮沢賢治作、「どんぐりと山猫」の後編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 一郎が葉書の字に対して「五年生だってあのくらいには書けない」と言った後、「大学校の五年生のことだ」と付け加えて言ったのはなぜでしょうか。
  2. 草地にいた男は何者でしたか。
  3. 山猫が「蟻のようにやって来る」と言ったのは何のことですか。

調べてみよう

  1. “繻子”とは、布の織り方を略した名称、またはその織物のことです。どのような布か調べてみましょう。
  2. 『判事』と『裁判官』の違いは何でしょうか。

単語ピックアップ

1.尋常(じんじょう)

尋常小学校のこと。明治から第二次世界大戦前まで存在した、現在の小学校のような教育機関。

2.大様(おおよう)

①ゆったりとして、落ち着き払ったさま。②大まか。大雑把。

3.勿体(もったい)

態度、外見が重々しく、尊大な様子。

4.参詣(さんけい)

寺や神社にお参りすること。

音読シートダウンロード

★この物語“どんぐりと山猫②【中編】”の音読シートがダウンロードできます。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 「五年生っていうのは尋常五年生のことだ」と言った声が、力なく哀れに聞こえたから。
  2. 山猫の馬車別当。
  3. たくさんのどんぐり。(赤いズボンを履いた)三百でも利かないほどのどんぐり。など