- つっこみは他の追随を許さない。
- 人と意見を交換しながら読みたい。
- 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
このおはなしの作者
【作者】
グリム兄弟
・ヤーコプ・グリム(1785年~1863年)
・ヴィルヘルム・カール・グリム(1786年~1859年)
・ルートヴィヒ・エーミール・グリム(1790年~1863年)
【訳】
楠山正雄(1884年~1950年)
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おはなしの始まりはここから
★この文章は4分で読めます
昔、あるところに、粉屋がありました。
水車小屋で粉をひくのを商売にして、貧しく暮らしてはいましたが、ひとり、きれいな娘をもっていました。
ところで、ひょんなことから、この粉屋が、王さまと向かい合って、お話することになりました。
そこで、すこしばかり、体裁を繕うため、粉屋はこんなことを言いました。
「わたくしに、娘がひとりございますが、藁を紡いで、金にいたします。」
王さまは、粉屋の話を聞いて、「ほほう、それはめずらしい芸当だね。ほんとうに話のとおり、おまえの娘に、そんな器用なことができるなら、さぞ面白いことであろう。では、明日、さっそく城へ連れてくるがいい。ひとつ、私が試してみてやろう。」と、言いました。
さて、娘が、否応無しに、王さまのところへ連れてこられると、王さまは、娘を早速、藁のいっぱい積んであるお部屋に入れました。
そうして、糸車と巻き枠を渡して、こう言いました。
「さあ、すぐと、仕事にかかるがよい。今夜から明日の朝早くまでかかって、この藁を金に紡げなければ、そちの命はないものと思うがよいぞ。」
こう言い残して、王さまは、自分で部屋の戸に、錠をかけてしまいました。
娘は、ひとりぼっち、あとに残りました。
さて、娘は、ぽつねんとそこに座ったきり、一体どうしたらいいのか、途方に暮れていました。藁を金に紡ぐなんて、そんなこと、まるでわかりようはありません。だんだん、心配になってきて、とうとう、たまらなくなると、娘はわっと泣きだしました。
泣いているうち、ふと、戸が開きました。
ひとり、豆つぶのように小さな男が入ってきて、こう言いました。
「こんばんは、粉屋のお嬢ちゃん、なんでそんなに悲しそうに泣きなさるえ。」
「まあ、私、藁を金に紡がなければならないのだけれど、どうやってするものだかわからないの。」と、娘は言いました。
すると、小人が言いました。
「私が、代わりに、それを紡いであげたら、何を褒美にくれるえ。」
「この首飾りをね。」と、娘は言いました。
小人は、首飾りをもらうと、糸車の前に座りました。
ぶるるん、ぶるるん、ぶるるん、三度回すと、巻き枠は、金の糸でいっぱいになりました。それから、小人は、また二番目の巻き枠をかけて、ぶるるん、ぶるるん、ぶるるん、三度回すと、三度目で、また二つ目の枠が、いっぱいになりました。
こうやって、あとから、あとからとやっていくうち、朝になりました。
もうそれまでに、残らず巻き枠は、いっぱい金の糸になっていました。
お日さまが昇ると、もうさっそく、王さまはやってきて、部屋じゅうきらきら光っている金を見て、びっくりしました。
すると、余計、いくらでももっと金が欲しくなりました。
王さまは、また、粉屋の娘をもうひとつの、やはり藁のいっぱい積んである、しかもずっと大きなお部屋へ連れて行かせました。
そうして、今度もまた、命が惜しかったら、ひと晩でこれを金の糸に紡げと、言いつけました。
娘は、どうして良いかわからないので、泣いていますと、今度もやはり戸が開いて、そこに小人が姿を現しました。
そうして、「藁を金に紡いだら、何を私に褒美にくれるえ。」と、言いました。
「私の指にはめている指環。」と、娘は言いました。
小人は指環をもらうと、また糸車をぶるるん、ぶるるん、回しはじめました。そうして、朝までに、残らずの藁を、きらきら光る金の糸に仕上げました。
王さまは、堆い金の山を見て、にこにこしながら、でも、まだまだそれだけでは満足できなくなりました。
それで、またまた、藁のいっぱい積んである、もっと大きい部屋へ、粉屋の娘を連れて行かせました。
そうして、「さあ、今晩のうちに、これを仕上げてしまうのだよ。その代わり、首尾良くそれをし遂げれば、私の妃にしてあげる。」と、言いました。
「よし、それが粉屋の娘風情であるにしても、それこそ世界中探したって、こんな金持ちの妻はないからな。」と、王さまは考えていました。
さて、娘がひとり、ぽつねんとしていますと、例の小人は、三度目にまたやってきて、こう言いました。
「さあ、今度も藁を金に紡いであげたら、何を褒美にくれるえ。」
「私、もう、なんにもあげる物がないわ。」と、娘はこたえました。
「じゃあ、こういうことにしよう。王さまのお妃におまえがなって、一番はじめに生まれた子どもを、私にくれると約束おし。」
(どうなるものか、先のことなぞわかるものではないわ。)と、粉屋の娘は考えていました。
それに、なにしろ切羽詰まったなかで、何を他にどうしようもありません。それで、娘は、小人の望むまま約束をしてしまいました。
そうして、小人は、三度目にまた、藁を金に紡いでくれました。
読了ワーク
思い出してみよう
- 粉屋は王さまとお話した際、体裁を繕うためにどんなことを言いましたか。
- 粉屋の話を聞いた王さまは、早速娘を城へ連れて来させました。それは娘に何をさせるためですか。
- 困っている娘のところへ、1回目にやって来た小人は、何と引き換えに藁を金に紡いでくれましたか。
- 3度目にやって来た小人は、何と引き換えに藁を金に紡いでくれましたか。
調べてみよう
- “糸車”とは、糸を紡ぐために使うものです。どんなものなのか調べてみましょう。
単語ピックアップ
1.体裁(ていさい)
外観、人から見た自分の姿。
2.繕う(つくろう)
①衣服など、破れた箇所を直すこと。②身なりを整えること。③外から見て感じ良いようにすること。④自分にとって都合の悪いことを隠してやり過ごすこと。
3.芸当(げいとう)
普通の人にはできないような、特別な芸。
4.堆い(うずたかい)
いくつも積み重なり、高く盛り上がっている様子。
5.風情(ふぜい)
①情緒。②気配。③「私風情が…」というように、代名詞の後に続けてへりくだる意味を表す。
6.切羽詰まる(せっぱつまる)
ある事柄が間近に迫ってきて、いよいよどうすることもできなくなる状態のこと。
知っ得慣用句
1.否応無し
こちらの「良い」「悪い」などの意見も言わせないこと。
2.途方に暮れる
手段もなく、どうすれば良いのか困り果てること。
音読シートダウンロード
★この物語“ルンペルシュチルツヒェン①【前編】”の音読シートがダウンロードできます。
準備中
読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 自分のひとり娘が藁を紡いで金にすると言った。
- 藁を金に紡いでもらうため。
- 娘が持っていた首飾り。
- 王さまのお妃になって、1番はじめに生まれた子ども。