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空の世界に帰れなくなってしまった女の話⑤

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やなかゆう
やなかゆう
鈴木三重吉作『星の女⑤』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 長めの話を少しずつ読みたい。
  • 長い話を集中して読む練習をしたい。
  • あまり知られていない話を読みたい。

このおはなしの作者

鈴木三重吉(1882年~1936年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

前回までのあらすじ

空の世界に帰れなくなってしまった女の話④【この文章は4分で読めます】鈴木三重吉作、「星の女」の第四話です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

おはなしの始まりはここから

★この文章は5分で読めます

あくるになりますと、おとこはおとうさまがもうかえるか、もうかえるかとおもいながら、一日いちにち戸口とぐちってっていました。

そうすると、やっと夕方ゆうがたちかくなって、こうのもりなかに、おとうさまのかえって姿すがたえました。

おとこはしってむかえにって、

とうさま、わたしはずいぶんわるいことをしたの。おんなひと二人ふたりわたしているうちにて、かあさまが可哀想かわいそうだから、二階にかいのお部屋へやをおけとったから、きんかぎけたの。そうするとたまかざりのいっぱいいた、きれいな着物きものがあったから、かあさまにせたら、かあさまがしてくれとった。そしてそのばんそとからだれかがうたうたってかあさまをぶと、かあさまはその着物きものたままってしまったの。」

こうってはなしました。

とうさまはそれをくとびっくりして、

「ごらんよ、わたしうことをかないから、おまえたちはとうとうかあさまをなくしてしまったじゃないか。しかしもうやんでも仕方しかたがない。お部屋へやけたことは、ゆるしてあげるから、これからはけっしてとうさまのうことにそむいてはいけないよ。かあさまはそのうちには、おまえたちをたくてかえってるかもわからない。これからみんなであかぼうのおりをして、たのしくらすことにしよう。」

こうって、なみだをこぼしました。

「でもあかぼうかあさまが、あのたまかざりの着物きものしてくれとったばんに、一緒いっしょれてってしまったの。」とおとこいました。

とうさまは、「あかぼうったのか。」とかなしそうにいました。

「しかし、あのはおちちがないとこまるから、かあさまのそばにいたほう仕合しあわせだ。それでは四人よにん一緒いっしょらしていこう。」

「でもかあさまは、そのあくるばんと、またあくるばんに、二人ふたりともれてってしまったの。昨夜ゆうべは、わたしれにたけれど、わたしとうさまが可哀想かわいそうだから、かないとったの。」

おとこがこういますと、狩人かりゅうどは、よろこんでげて、「よくかないでいてくれた。それではこれから、どんなことがあっても、おまえとうさまのそばをはなれないかい?」とほおずりをしていました。

わたしは、いつまでもとうさまと一緒いっしょにいるの。そして、とうさまのうことをよくくの。」とおとこいました。

二人ふたりは、そのままもりうちらしました。
狩人かりゅうど毎日まいにち、そのれてりょうて、夕方ゆうがたになるとまた一緒いっしょかえってました。

しかしおとこは、毎日まいにちかあさまのことがわすれられませんでした。

よるになって、大空おおぞらほしがいっぱいると、おとこ一人ひとり門口かどぐちて、そのたくさんのほしなかの、どれが自分じぶんのおかあさまか、どれがいもうとおとうとかとおもいながら、いつまでもそら見上みあげていました。

それから寝床ねどこはいってときにも、いつもおかあさまやいもうとおとうとたちにいたいとおもって一人ひとりきました。

そのうちに、おかあさまたちがいなくなってから一年いちねんになりました。すると、あるばん夜中よなかに、狩人かりゅうどおとここして、

「ここへおいで。はやくおいで。とうさまはきゅう気分きぶんわるくなった。」といました。

おとこはびっくりして、そばへってますと、おとうさまはまっさおかおをしてをつぶっていました。

おとこは、おとうさまのをさすって、
今日きょうはあんまりとおくまであるいたからよ。明日あしたりょうやすんでいえにいましょうね。」といました。

とうさまは、「ああ、くちびるがかわく。つめたいみずましてくれ。」といました。

おとこは、大急おおいそぎで睡蓮すいれんいずみけてきました。

とうさまはそのみずをひとくちむと、そのまますやすやとねむってしまいました。

おとこ夜通よどおきて、そばにいていました。

狩人かりゅうどは、とうとう夜明よあまえんでしまいました。おとこは、大声おおごえげてきました。

けると、おとこあつめて、おとうさまの死骸しがいきました。

おとこは、もう、たった一人ひとりでこのもりにいるのはいやでした。でも、どことってくところもありません。

おとこは、もりくさうえかおせて、せめてもう一度いちどかあさまにいたいとおもいながら、れるまでつづけにいていました。

やがて、大空おおぞらにはほしかがやきはじめました。

すると蜘蛛くもおうさまは、大急おおいそぎで下界げかいとど梯子はしごつむしました。

ほしおんなはそれをつたって、いているおとこのところへりてました。

おとこきおとうさまがくなったことをはなしました。おかあさまも、さめざめときました。

そしてしまいに、「もういいから、かないでおくれ。わたしは、おまえが可哀想かわいそうだからむかえにたのです。さあこれをべて、一緒いっしょかあさまのところへいらっしゃい。」

こうって、そらからって果物くだものべさせました。

おとこはそれをべると、一人ひとりでにかなしさをわすれて、おかあさまと一緒いっしょに、そらのぼりました。

そのあくる二人ふたり旅人たびびともりとおりかかって、狩人かりゅうどうちはいりました。

すると、うちなかにはひと一人ひとりもいないものですから、二人ふたりへんおもって、「それでは、このうちひとかえるまで、二人ふたりでここにんでいよう。」と相談そうだんしました。

しかし、うちひとは、いつまでってもかえってはませんでした。

二人ふたり旅人たびびとは、とうとうぬまで、ながあいだそこでらしました。

二人ふたりはそのあいだ、いつもつきばんには、睡蓮すいれんいずみなかで、三人さんにんおんなと、四人よにんどもとが、たのしそうにみずびているこえきました。

そしてがたになると、かならずそらうえから、「おかえりなさい。おさまがおましにならないうちにかえらないと、おうま梯子はしごってしまいます。」こうって、みんなをこえこえました。

やなかゆう
やなかゆう
お父さんが最後まで一番上の男の子にお母さんの正体と、自分が無理矢理お母さんを地上に引き留めていたことを言わなかったのがモヤモヤする
おはなちゃん
おはなちゃん
とりあえず、一番上の男の子がまたみんなと一緒に暮らせるようになって良かった良かった

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 男の子と二人で暮らしていた狩人は、一年後どうなりましたか。
  2. 日が暮れるまで泣き続けていた男の子の元に、誰が来てくれましたか。
  3. 誰もいなくなった狩人の家はどうなりましたか。

音読シートダウンロード

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準備中

読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 急に気分が悪くなり、眠っていたが、夜明け前に死んでしまった
  2. 星の女(おかあさん)
  3. (森を通りかかった)二人の旅人が住みついて、死ぬまで暮らした