- 長めの話を少しずつ読みたい。
- 長い話を集中して読む練習をしたい。
- あまり知られていない話を読みたい。
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前回までのあらすじ
おはなしの始まりはここから
★この文章は5分で読めます
あくる日になりますと、男の子はお父さまがもう帰るか、もう帰るかと思いながら、一日戸口に立って待っていました。
そうすると、やっと夕方近くなって、向こうの森の中に、お父さまの帰って来る姿が見えました。
男の子は走って迎えに行って、
「父さま、私はずいぶん悪いことをしたの。女の人が二人、私が寝ているうちに来て、母さまが可哀想だから、二階のお部屋をお開けと言ったから、金の鍵で開けたの。そうすると玉の飾りのいっぱい付いた、きれいな着物があったから、母さまに見せたら、母さまが貸してくれと言った。そしてその晩、外から誰かが歌を歌って母さまを呼ぶと、母さまはその着物を着たまま行ってしまったの。」
こう言って泣き泣き話しました。
お父さまはそれを聞くとびっくりして、
「ごらんよ、私の言うことを聞かないから、お前たちはとうとう母さまをなくしてしまったじゃないか。しかしもう悔やんでも仕方がない。お部屋を開けたことは、許してあげるから、これからは決して父さまの言うことに背いてはいけないよ。母さまはそのうちには、お前たちを見たくて帰って来るかもわからない。これからみんなで赤ん坊のお守りをして、楽しく暮らすことにしよう。」
こう言って、涙をこぼしました。
「でも赤ん坊は母さまが、あの玉の飾りの着物を貸してくれと言った晩に、一緒に連れて行ってしまったの。」と男の子は言いました。
お父さまは、「赤ん坊も行ったのか。」と悲しそうに言いました。
「しかし、あの子はお乳がないと困るから、母さまのそばにいた方が仕合わせだ。それでは四人で一緒に暮らしていこう。」
「でも母さまは、そのあくる晩と、またあくる晩に、二人とも連れてってしまったの。昨夜は、私を連れに来たけれど、私は父さまが可哀想だから、行かないと言ったの。」
男の子がこう言いますと、狩人は、喜んで抱き上げて、「よく行かないでいてくれた。それではこれから、どんなことがあっても、お前は父さまのそばを離れないかい?」と頬ずりをして言いました。
「私は、いつまでも父さまと一緒にいるの。そして、父さまの言うことをよく聞くの。」と男の子は言いました。
二人は、そのまま森の家で暮らしました。
狩人は毎日、その子を連れて猟に出て、夕方になるとまた一緒に帰って来ました。
しかし男の子は、毎日お母さまのことが忘れられませんでした。
夜になって、大空に星がいっぱい出ると、男の子は一人で門口へ出て、そのたくさんの星の中の、どれが自分のお母さまか、どれが妹か弟かと思いながら、いつまでも空を見上げていました。
それから寝床へ入って寝る時にも、いつもお母さまや妹や弟たちに会いたいと思って一人で泣きました。
そのうちに、お母さまたちがいなくなってから一年になりました。すると、或晩、夜中に、狩人は男の子を呼び起こして、
「ここへおいで。早くおいで。父さまは急に気分が悪くなった。」と言いました。
男の子はびっくりして、そばへ行って見ますと、お父さまはまっ青な顔をして目をつぶっていました。
男の子は、お父さまの手をさすって、
「今日はあんまり遠くまで歩いたからよ。明日は猟を休んで家にいましょうね。」と言いました。
お父さまは、「ああ、くちびるが乾く。冷たい水を飲ましてくれ。」と言いました。
男の子は、大急ぎで睡蓮の泉へ駆けて行きました。
お父さまはその水をひと口飲むと、そのまますやすやと眠ってしまいました。
男の子は夜通し起きて、そばに付いていました。
狩人は、とうとう夜明け前に死んでしまいました。男の子は、大声を上げて泣きました。
夜が明けると、男の子は泣き泣き木を切り集めて、お父さまの死骸を焼きました。
男の子は、もう、たった一人でこの森にいるのはいやでした。でも、どこと言って行くところもありません。
男の子は、森の草の上に顔を伏せて、せめてもう一度お母さまに会いたいと思いながら、日が暮れるまで泣き続けに泣いていました。
やがて、大空には星が輝きはじめました。
すると蜘蛛の王さまは、大急ぎで下界に届く梯子を紡ぎ出しました。
星の女はそれを伝って、泣いている男の子のところへ下りて来ました。
男の子は泣き泣きお父さまが亡くなったことを話しました。お母さまも、さめざめと泣きました。
そしてしまいに、「もういいから、泣かないでおくれ。私は、おまえが可哀想だから迎えに来たのです。さあこれを食べて、一緒に母さまのところへいらっしゃい。」
こう言って、空から持って来た果物を食べさせました。
男の子はそれを食べると、一人でに悲しさを忘れて、お母さまと一緒に、空へ上りました。
そのあくる日、二人の旅人が森を通りかかって、狩人の家へ入りました。
すると、家の中には人が一人もいないものですから、二人は変に思って、「それでは、この家の人が帰るまで、二人でここに住んでいよう。」と相談しました。
しかし、家の人は、いつまで経っても帰っては来ませんでした。
二人の旅人は、とうとう死ぬまで、長い間そこで暮らしました。
二人はその間、いつも月の照る晩には、睡蓮の泉の中で、三人の女と、四人の子どもとが、楽しそうに水を浴びている声を聞きました。
そして明け方になると、かならず空の上から、「お帰りなさい。お日さまがお出ましにならないうちに帰らないと、お馬が梯子を踏み切ってしまいます。」こう言って、みんなを呼ぶ声が聞こえました。
読了ワーク
思い出してみよう
- 男の子と二人で暮らしていた狩人は、一年後どうなりましたか。
- 日が暮れるまで泣き続けていた男の子の元に、誰が来てくれましたか。
- 誰もいなくなった狩人の家はどうなりましたか。
音読シートダウンロード
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準備中
読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 急に気分が悪くなり、眠っていたが、夜明け前に死んでしまった
- 星の女(おかあさん)
- (森を通りかかった)二人の旅人が住みついて、死ぬまで暮らした