- 明るい気分になる話が読みたい。
- 分かりやすい話が読みたい。
- 3歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
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前回までのあらすじ
おはなしの始まりはここから
★この文章は4分で読めます
そこで山猫が叫びました。
「やかましい。ここをなんと心得る。静まれ、静まれ。」
別当が鞭をひゅうぱちっと鳴らしましたのでどんぐりどもは、やっと静まりました。山猫は、ぴんとひげをひねって言いました。
「裁判ももう今日で三日目だぞ。いい加減に仲直りしたらどうだ。」
すると、もうどんぐりどもが、口々に言いました。
「いえいえ、駄目です。何といったって、頭の尖っているのが一番えらいのです。」
「いいえ、違います。丸いのがえらいのです。」
「そうでないよ。大きなことだよ。」ガヤガヤガヤガヤ、もう何が何だかわからなくなりました。
山猫が叫びました。「だまれ、やかましい。ここをなんと心得る。静まれ静まれ。」
別当が、鞭をひゅうぱちっと鳴らしました。山猫がひげをぴんとひねって言いました。
「裁判ももう今日で三日目だぞ。いい加減に仲直りをしたらどうだ。」
「いえ、いえ、駄目です。頭の尖ったものが……。」ガヤガヤガヤガヤ。
山猫が叫びました。「やかましい。ここをなんと心得る。静まれ静まれ。」
別当が、鞭をひゅうぱちっと鳴らし、どんぐりはみんな静まりました。
山猫が一郎にそっと申しました。「このとおりです。どうしたらいいでしょう。」
一郎は笑って答えました。
「そんなら、こう言い渡したら良いでしょう。このなかで一番ばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、一番えらいとね。ぼくお説教できいたんです。」
山猫はなるほどというふうに頷いて、それからいかにも気取って、繻子の着物の襟を開いて、黄色の陣羽織をちょっと出してどんぐりどもに申し渡しました。
「よろしい。静かにしろ。申し渡しだ。このなかで、一番えらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんでなっていなくて、頭のつぶれたようなやつが、一番えらいのだ。」
どんぐりは、しいんとしてしまいました。それはそれはしいんとして、固まってしまいました。
そこで山猫は、黒い繻子の服を脱いで、額の汗をぬぐいながら、一郎の手をとりました。
別当も大喜びで、五六ぺん、鞭をひゅうぱちっ、ひゅうぱちっ、ひゅうひゅうぱちっと鳴らしました。山猫言いました。
「どうもありがとうございました。これほどのひどい裁判を、まるで一分半で片付けてくださいました。どうかこれから私の裁判所の、名誉判事になってください。これからも、葉書が行ったら、どうか来てくださいませんか。そのたびにお礼はいたします。」
「承知しました。お礼なんかいりませんよ。」
「いいえ、お礼はどうかとってください。私の人格に関わりますから。そしてこれからは、葉書にかねた一郎どのと書いて、こちらを裁判所としますが、ようございますか。」
一郎が「ええ、かまいません。」と申しますと、山猫はまだ何か言いたそうに、しばらくひげをひねって、目をぱちぱちさせていましたが、とうとう決心したらしく言い出しました。
「それから、葉書の文句ですが、これからは、用事これありに付き、明日出頭すべしと書いてどうでしょう。」
一郎は笑って言いました。「さあ、なんだか変ですね。そいつだけはやめた方がいいでしょう。」
山猫は、どうも言いようがまずかった、いかにも残念だというふうに、しばらくひげをひねったまま、下を向いていましたが、やっとあきらめて言いました。
「それでは、文句は今までのとおりにしましょう。そこで今日のお礼ですが、あなたは黄金のどんぐり一升と、塩鮭の頭と、どっちがお好きですか。」
「黄金のどんぐりが好きです。」
山猫は、鮭の頭でなくて、まあ良かったというように、口早に馬車別当に言いました。
「どんぐりを一升早はやく持ってこい。一升に足りなかったら、めっきのどんぐりも混ぜてこい。早く。」
別当は、さっきのどんぐりを升に入れて、量って叫びました。
「ちょうど一升あります。」
山猫の陣羽織が風にばたばた鳴りました。そこで山猫は、大きく伸びあがって、目をつぶって、半分欠伸をしながら言いました。
「よし、早く馬車の支度をしろ。」白い大きなきのこでこしらえた馬車が、引っぱり出されました。
そしてなんだかねずみ色の、おかしな形の馬がついています。
「さあ、おうちへお送りいたしましょう。」山猫が言いました。
二人は馬車にのり別当は、どんぐりの升を馬車のなかに入れました。
ひゅう、ぱちっ。
馬車は草地を離れました。木や藪が煙のようにぐらぐら揺れました。
一郎は黄金のどんぐりを見、山猫はとぼけた顔つきで、遠くを見ていました。
馬車が進むにしたがって、どんぐりはだんだん光が薄くなって、まもなく馬車がとまった時は、あたりまえの茶色のどんぐりに変わっていました。
そして、山猫の黄色な陣羽織も、別当も、きのこの馬車も、一度に見えなくなって、一郎は自分のうちの前に、どんぐりを入れた升を持って立っていました。
それからあと、山ねこ拝という葉書は、もうきませんでした。
やっぱり、出頭すべしと書いてもいいと言えばよかったと、一郎はときどき思うのです。
読了ワーク
思い出してみよう
- 裁判は今日で何日目でしたか。
- 面倒な裁判とは、何を決める裁判でしたか。
- 一郎は山猫からお礼に何をもらいましたか。
- 馬車がとまった時には、もらったどんぐりはどのようになっていましたか。
調べてみよう
- “一升”とは、どのくらいの量でしょうか。
- 『量る』『図る』『計る』『測る』の違いについて、調べてみましょう。
単語ピックアップ
1.心得(こころえ)
わかっていること。理解していること。
2.説教(せっきょう)
①口頭で宗教の教えを説くこと。②教え導くために言い聞かせること。
3.気取る(きどる)
①態度や身なりを良く見せて取り澄ますこと。②気づく。感づく。
4.人格(じんかく)
その人の人間性や性格のこと。
5.出頭(しゅっとう)
ある場所(主に警察や裁判所)に本人から出て行くこと。
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準備中
読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 3日目
- 一番えらいどんぐりを決める裁判
- 黄金のどんぐり一升
- あたりまえの茶色のどんぐり