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どんぐりの背くらべに付き合わされる少年の話③

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やなかゆう
やなかゆう
宮沢賢治作『どんぐりと山猫③【後編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 明るい気分になる話が読みたい。
  • 分かりやすい話が読みたい。
  • 3歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

宮沢賢治みやざわけんじ(1896年~1933年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

前回までのあらすじ

どんぐりの背くらべに付き合わされる少年の話②【この文章は4分で読めます】宮沢賢治作、「どんぐりと山猫」の中編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

おはなしの始まりはここから

★この文章は4分で読めます

そこで山猫やまねこさけびました。

「やかましい。ここをなんと心得こころえる。しずまれ、しずまれ。」

別当べっとうむちをひゅうぱちっとらしましたのでどんぐりどもは、やっとしずまりました。山猫やまねこは、ぴんとひげをひねっていました。

裁判さいばんももう今日きょう三日目みっかめだぞ。いい加減かげん仲直なかなおりしたらどうだ。」

すると、もうどんぐりどもが、口々くちぐちいました。

「いえいえ、駄目だめです。なんといったって、あたまとがっているのが一番いちばんえらいのです。」

「いいえ、ちがいます。まるいのがえらいのです。」

「そうでないよ。おおきなことだよ。」ガヤガヤガヤガヤ、もうなになんだかわからなくなりました。

山猫やまねこさけびました。「だまれ、やかましい。ここをなんと心得こころえる。しずまれしずまれ。」

別当べっとうが、むちをひゅうぱちっとらしました。山猫やまねこがひげをぴんとひねっていました。

裁判さいばんももう今日きょう三日目みっかめだぞ。いい加減かげん仲直なかなおりをしたらどうだ。」

「いえ、いえ、駄目だめです。あたまとがったものが……。」ガヤガヤガヤガヤ。

山猫やまねこさけびました。「やかましい。ここをなんと心得こころえる。しずまれしずまれ。」

別当べっとうが、むちをひゅうぱちっとらし、どんぐりはみんなしずまりました。

山猫やまねこ一郎いちろうにそっともうしました。「このとおりです。どうしたらいいでしょう。」

一郎いちろうわらってこたえました。

「そんなら、こうわたしたらいでしょう。このなかで一番いちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、一番いちばんえらいとね。ぼくお説教せっきょうできいたんです。」

山猫やまねこはなるほどというふうにうなずいて、それからいかにも気取きどって繻子しゅす着物きものえりひらいて、黄色きいろ陣羽織じんばおりをちょっとしてどんぐりどもにもうわたしました。

「よろしい。しずかにしろ。もうわたしだ。このなかで、一番いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつが、一番いちばんえらいのだ。」

どんぐりは、しいんとしてしまいました。それはそれはしいんとして、かたまってしまいました。

そこで山猫やまねこは、くろ繻子しゅすふくいで、ひたいあせをぬぐいながら、一郎いちろうをとりました。

別当べっとう大喜おおよろこびで、五六ごろくぺん、むちをひゅうぱちっ、ひゅうぱちっ、ひゅうひゅうぱちっとらしました。山猫やまねこがいました。

「どうもありがとうございました。これほどのひどい裁判さいばんを、まるで一分半いっぷんはん片付かたづけてくださいました。どうかこれからわたし裁判所さいばんしょの、名誉めいよ判事はんじになってください。これからも、葉書はがきったら、どうかてくださいませんか。そのたびにおれいはいたします。」

承知しょうちしました。おれいなんかいりませんよ。」

「いいえ、おれいはどうかとってください。わたし人格じんかくかかわりますから。そしてこれからは、葉書はがきにかねた一郎いちろうどのといて、こちらを裁判所さいばんしょとしますが、ようございますか。」

一郎いちろうが「ええ、かまいません。」ともうしますと、山猫やまねこはまだなにいたそうに、しばらくひげをひねって、をぱちぱちさせていましたが、とうとう決心けっしんしたらしくしました。

「それから、葉書はがき文句もんくですが、これからは、用事ようじこれありにき、明日みょうにち出頭しゅっとうすべしといてどうでしょう。」

一郎いちろうわらっていました。「さあ、なんだかへんですね。そいつだけはやめたほうがいいでしょう。」

山猫やまねこは、どうもいようがまずかった、いかにも残念ざんねんだというふうに、しばらくひげをひねったまま、したいていましたが、やっとあきらめていました。

「それでは、文句もんくいままでのとおりにしましょう。そこで今日きょうのおれいですが、あなたは黄金きんのどんぐり一升いっしょうと、塩鮭しおざけあたまと、どっちがおきですか。」

黄金きんのどんぐりがきです。」

山猫やまねこは、しゃけあたまでなくて、まあかったというように、口早くちばや馬車ばしゃ別当べっとういました。

「どんぐりを一升いっしょう早はやくってこい。一升いっしょうりなかったら、めっきのどんぐりもぜてこい。はやく。」

別当べっとうは、さっきのどんぐりをますれて、はかってさけびました。

「ちょうど一升いっしょうあります。」

山猫やまねこ陣羽織じんばおりかぜにばたばたりました。そこで山猫やまねこは、おおきくびあがって、をつぶって、半分はんぶん欠伸あくびをしながらいました。

「よし、はや馬車ばしゃ支度したくをしろ。」しろおおきなきのこでこしらえた馬車ばしゃが、っぱりされました。

そしてなんだかねずみいろの、おかしなかたちうまがついています。

「さあ、おうちへおおくりいたしましょう。」山猫やまねこいました。

二人ふたり馬車ばしゃにのり別当べっとうは、どんぐりのます馬車ばしゃのなかにれました。

ひゅう、ぱちっ。

馬車ばしゃ草地くさちはなれました。やぶけむりのようにぐらぐられました。

一郎いちろう黄金きんのどんぐりを山猫やまねこはとぼけたかおつきで、とおくをていました。

馬車ばしゃすすむにしたがって、どんぐりはだんだんひかりうすくなって、まもなく馬車ばしゃがとまったときは、あたりまえの茶色ちゃいろのどんぐりにわっていました。

そして、山猫やまねこ黄色きいろ陣羽織じんばおりも、別当べっとうも、きのこの馬車ばしゃも、一度いちどえなくなって、一郎いちろう自分じぶんのうちのまえに、どんぐりをれたますってっていました。

それからあと、やまねこはいという葉書はがきは、もうきませんでした。

やっぱり、出頭しゅっとうすべしといてもいいとえばよかったと、一郎いちろうはときどきおもうのです。

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 裁判は今日で何日目でしたか。
  2. 面倒な裁判とは、何を決める裁判でしたか。
  3. 一郎は山猫からお礼に何をもらいましたか。
  4. 馬車がとまった時には、もらったどんぐりはどのようになっていましたか。

調べてみよう

  1. “一升”とは、どのくらいの量でしょうか。
  2. 『量る』『図る』『計る』『測る』の違いについて、調べてみましょう。

単語ピックアップ

1.心得(こころえ)

わかっていること。理解していること。

2.説教(せっきょう)

①口頭で宗教の教えを説くこと。②教え導くために言い聞かせること。

やなかゆう
やなかゆう
このおはなしでは①の意味で使われています

3.気取る(きどる)

①態度や身なりを良く見せて取り澄ますこと。②気づく。感づく。

おはなちゃん
おはなちゃん
このおはなしでは①の意味で使われているね

4.人格(じんかく)

その人の人間性や性格のこと。

5.出頭(しゅっとう)

ある場所(主に警察や裁判所)に本人から出て行くこと。

音読シートダウンロード

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準備中

読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 3日目
  2. 一番えらいどんぐりを決める裁判
  3. 黄金のどんぐり一升
  4. あたりまえの茶色のどんぐり