- コントみたいなゆかいな話を読みたい。
- 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
このおはなしの作者
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前回までのあらすじ
おばあさんからお経の文句を教えてほしいと頼まれた旅人。
お経の文句など知らない旅人は困ってしまい、なんとかすきをうかがって逃げようと考える。しかし、真面目で正直なおばあさんを前にすると逃げる気持ちも起きない。
覚悟を決めた旅人は、お経らしい節を付けた出鱈目なお経を唱え始める。
それを聞いたおばあさんは大喜び。旅人のまねをして唱え始める。
旅人は可笑しくてたまらなくなり、そっと逃げて行く。
おはなしの始まりはここから
★この文章は3分で読めます
その晩のことでした。
そういう正直なおばあさんの家のことですから、別に夜になっても、戸締まりをするようなことはありません。
ただ、冬は寒い風が吹く時に戸を締めておき、夏は暑苦しい時に戸を開け放しておく、といった風でした。
その晩、となり村から山を越えて来て、別のとなり村の方へ川を渡って行こうとする、二人連れの男がこのおばあさんの家の前を通りかかりました。
この二人は泥棒が商売で、これから川を越して、向こうの村へ着くと夜中頃になりますから、そこでひと仕事をするつもりだったのです。
が、泥棒のことですから、ふと、このおばあさんの家の前を通りかかると、戸が開け放しになっていて、目星いものはなさそうですが、「行きがけの駄賃だ」という考えで、ひと稼ぎしようと思いました。
のぞいて見ますと、中に一人のおばあさんが仏壇の前に坐っているだけで、外に人のいる気配がしません。
そこで泥棒の甲が乙に、「おい、お前、ここで張り番をしていてくれ。こんな寂しいところだから、人の通りかかるようなことはないだろうが、もしこの家の者で外に出ている奴があって、そいつが帰って来たりするようなことがあると事だから。おれ一人で沢山だ。」といいました。
その時、家の中ではおばあさんが、昼間旅の人から習ったお経を始めるところでした。
「香炉や、花立や、花立や、香炉や……。」
そこへ、泥棒の甲がそッとおばあさんに見えないように家の中に忍び込んで行きました。
ところがびっくりしました。
「鼠が一匹御入来……。」とおばあさんがいっています。
人のことを鼠だというばかりでなく、見えるはずがないのに人が入って来たのが見えるのかしら、と泥棒は思って、気味が悪くなったものですから一度表へ引き返そうとしますと、おばあさんのお経はつづいて、
「かと思ったら、すぐに逃げてしまったア……。」
泥棒の甲はもうびっくりしてしまって、あわてて表に飛び出して待っていた相棒に、「どうも気味の悪い家だよ。」といいました。
「たしかに家の中にはおばあさんが一人しかいないんだが、どうも気味の悪いおばあさんだよ。頼むから、お前も一緒に行って見てくれないか。」
そこで、今度は二人連れでそッと家の中に忍び込みました。
忍び足で歩きながら、泥棒の甲が乙に、「あのおばあさんだよ。ああして向こう向いていながら、後ろに目があるんじゃアないか、と思うんだ。」と耳の傍でいっている時に、「今度は二匹連れで、何だか相談をしながら、ちょろちょろと御入来。」チンと鉦を叩きながらおばあさんがお経の文句を続けました。
泥棒はそれが出鱈目に教わったお経を読んでいるのだとは気がつきませんから、びっくりして、あわてて引き返そうとしますと、
「ところが驚いて、大急ぎで逃げて帰ったア。」「チン」とおばあさんはお経をつづけました。
それを背中に聞きながら、二人の泥棒は夢中で表に逃げて出ました。
「ああ、驚いた。あのおばあさんは何だろう。きっと化け物か何かだよ。後ろに目があるんだよ。しかも人のことを鼠だなんて……畜生!」といい合いながら、二人の泥棒は川の岸のところまで、後ろも見ないで、息を切らして逃げて来ました。
そして、ほッと顔を見合わして、ため息をつきました。
おばあさんは、自分の知らない間に、そんな事があったとは少しも知らないものですから、泥棒が帰った後でも、「折角教わったお経だ。よく覚え込むまで、何度もやっておこう。」と独り言をいいながら「香炉や、花立や、花立や、香炉や……。」
とまた初めからさらい出しました。
が、今度はもう鼠も泥棒も出て来ませんでした。
読了ワーク
思い出してみよう
- おばあさんの家に忍び込んだ泥棒でしたが、結局何も盗まずに逃げて行ってしまいました。それはなぜでしょうか。
調べてみよう
- 『坐る』と『座る』の違いは何でしょうか。
単語ピックアップ
1.目星(めぼし)
目当て。目標。
2.駄賃(だちん)
ちょっとした労力に対して与える金品等の礼。特に子どものお手伝いに対するごほうびの事を指して言う。
3.出鱈目(でたらめ)
思いつくまま、勝手なことを言ったり行ったりするさま。いい加減なこと。
音読シートダウンロード
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 泥棒達の方を見ているわけではないのに、泥棒達のことを知っているかのようにしゃべっていて気味が悪いから。