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でたらめなお経が思わぬ幸運をもたらした話①

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やなかゆう
やなかゆう
宇野浩二作『でたらめ経①【前編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • コントみたいなゆかいな話を読みたい。
  • 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

宇野浩二うのこうじ(1891年~1961年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この文章は5分で読めます

むかし、あるところに、それはそれは正直しょうじきなおばあさんがんでいました。

けれども、このおばあさんはもなければ、まごもないので、ほんとうの一人ひとりぼっちでした。

そのうえ、おばあさんのんでいたところは、さびしい野原のはら一軒家いっけんやで、となりのむらくのには、たかやまとうげさねばなりませんでしたし、またべつのとなりむらくには、おおきなかわをわたらねばなりませんでした。

だから、おばあさんは毎日毎日まいにちまいにちほとけさままえすわって、かねばかりたたいていました。

きっとこのおばあさんにも、以前いぜんまごがあったのかもれません。

それがみんなおばあさんよりさきんで、ほとけさまになったのかもれません。

だから、さびしいので、そうして毎日まいにちほとけさまばかりおがんでいたのでしょう。

それに、べるものはうらはたけ出来できましたし、おこめつき一度いちどか、二ヶ月にかげつ一度川向いちどかわむこうのむらいにくのでようりましたし、みずおもてもりのそばに、綺麗きれい綺麗きれいな、水晶すいしょうのようなのがいていましたし、――だから、おばあさんはなににも心配しんぱいすることも、いそがしい用事ようじもないわけでした。

ただ、時々近ときどきちかくの街道かいどう往来おうらいするたびひとあしつからしたり、のどをかわかしたりして、おばあさんのうちいっぷくさしてくれとか、みずいっぱい御馳走ごちそうになりたいとかいって、ることがあるくらいのものでした。

ある夕方ゆうがたのことでした。

一人ひとり旅人たびびとがこのいえまえとおりかかりまして、これから急用きゅうようがあって、夜通よどおしでやまえてかねばならぬものだが、すこやすましてほしいとおばあさんにたのみました。

「おやすいことじゃ。どうぞ遠慮えんりょなくおやすみなさい。」とおばあさんはいいました。

そこで、旅人たびびとはおばあさんからおちゃなどをばれながら縁側えんがわこしろしてしばらくやすんでいましたが、さてつかれもなおりましたので、「おばあさん、いろいろ御馳走ごちそうさまでした。」といって、おれいすこしばかりのおかねかみつつんでおこうとしますと、「そんなものはりません、どうぞこれはおしまいください。」とおばあさんはびっくりしたかおをしていいました。

「わたしのうち御覧ごらんとお茶店ちゃみせ商売しょうばいにしているわけではありません。それに、こんなものをいただくほどお世話せわもしないのですから、これはどうぞおしまいください。」

「いや、それはそうであろうが、これはわしのほんのこころざしなんだから、どうかっておいてください。」と旅人たびびとはまた旅人たびびとで、いろいろにいってすすめましたが、どうしてもおばあさんのほうではろうとしません。

が、おばあさんはふとなにおもいついたとえて、「そんならたびかた。」といいました。

「そんなら、わたしのほうからおねがいして、ほかのものをおれいにいただきましょう。」

ほかのものというのは、どういうものですか?」と旅人たびびと不思議ふしぎそうなかおをしてきかえしました。

ほかのものというのは、ほかのものでもありませんが。」とおばあさんがいいますには、「御覧ごらんとおりわたしは年寄としよりで、こんな一軒家いっけんや一人ひとりぼっちでんでいるものですから、ほかなんたのしみもありませんですから、おかねなどをいただいても、つかいみちがありません。折角せっかくいただいても、いただくのなら、つかいみちのあるものとおもいまして……。」

「おばあさんにつかいみちのあるものというのはなんだね?」と旅人たびびとはおばあさんのはなしまわりくどいので、こうててきました。

「それはね、ほら、あそこに仏壇ぶつだんがありますでしょう。」とおばあさんはやっぱりいた調子ちょうしで、「わたしはひまさえあると、あそこにお線香せんこうてたり、はなてたりして、そしてただかねたたいておがんでいるだけなのでございます。……」

「そのほとけさま一体いったいどうしたというんだい、おばあさん?」と旅人たびびとすこしいらいらしながらたずねました。

「それで、おばあさんはわしになにがほしいというんです?」

「それで、そのわたしは。」とおばあさんは相変あいかわらずゆっくりと、「そうして毎日まいにちひまさえあると、かねたたいておがんでいるのですが、ただおがんでいるばかりで、おきょう文句もんくすこしもらないもんですから、まこと不自由ふじゆうをしているんでございます。それで、たびかた、わたしのおねがいというのは、おきょう文句もんくおしえていただきたいので、それならわたしに早速有難さっそくありがたくつかいみちがありますわけで……。」

「おきょう文句もんく!」と旅人たびびと頓狂とんきょうこえでいいました。

何故なぜ頓狂とんきょうこえでいったかというと、旅人たびびと生憎あいにくきょう文句もんくなぞすこしもらなかったからでした。

おばあさんはそんなこととはりませんから、「ね、たびかた、お見受みうけしたところ、あなたはお立派りっぱかただから、きっとおきょう文句もんく御存知ごぞんじちがいない。どうぞ、ほんのすこしでもよいからおしえてくださいませ、おねがいでございます。」とたのみました。

立派りっぱかた、といわれたので、旅人たびびとうれしくなってしまいました。

これで、おきょう文句もんくらないなぞといったら、ずかしいわけだとおもいましたので、「そりゃおきょう文句もんくぐらいならっているが……。」とこたえました。

御存知ごぞんじなら、どうぞ、たびかた是非ぜひおしくださいませ。じつはこれまでにいろんなおかたにおねがいしたのですが、このへんとおかたに、おきょう文句もんくってるひと一人ひとりもありませんので……今日こんにちこうしてあなたさまがおえになったのは、ほとけさまのおわせにちがいありません。さあ、どうぞおおしください。」

こういわれると、ますます旅人たびびとあとけなくなりました。

といって、いまもいったとおり、おきょう文句もんくなど、一言ひとことらないのですから、「さあ、どうぞ、どうぞおおしください。」とおばあさんに催促さいそくされて、本当ほんとうこまってしまいました。

でたらめなお経が思わぬ幸運をもたらした話②【この文章は3分で読めます】宇野浩二作、「でたらめ経」中編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. おばあさんはどんなところに住んでいたでしょうか。
  2. ある一人の旅人に、おばあさんは何をお願いしたのでしょうか。

調べてみよう

  1. “峠”とは、山のどの部分のことでしょうか。
  2. 『鉦』と『鐘』の違いは何でしょう。
  3. 水晶とは石のことですが、どんな石でしょうか。
  4. この物語上での“呼ばれる”の意味を調べてみよう。
  5. “志”とは何でしょうか。

単語ピックアップ

1.頓狂(とんきょう)

いきなり、その場にそぐわない調子外れな言動をすること。

2.生憎(あいにく)

期待や目的の通りにならず、残念なこと。都合が合わないこと。

3.催促(さいそく)

早くするよう急かすこと。

音読シートダウンロード

★この物語“でたらめ経①【前編】”の音読シートがダウンロードできます。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. となりの村に行くのに、高い山の峠を越さないといけず、別のとなり村へ行くには、大きな川をわたらなければならない、さびしい野原の一軒家。
  2. お経の文句を教えて欲しいとお願いした。