- 読み応えのある話が読みたい。
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★この文章は3分で読めます
昔、ある北の国の山奥に一つの村がありました。
その村に伊作、多助、太郎右衛門という三人の百姓がありました。
三人の百姓は少しばかりの田を耕しながら、その合間に炭を焼いて三里ばかり離れた城下に売りに行くのを仕事にしておりました。
三人の百姓の生れた村というのは、それはそれは淋しい小さな村で、秋になると、山が一面に紅葉になるので、城下の人たちが紅葉を見に来るほか、何の取柄もないような村でありました。
しかし百姓たちの村に入るところに大きな河が流れて、その河には、秋になると、岩魚や山女が沢山に泳いでいました。村の人たちは、みんな楽しそうに、元気で働いていました。
伊作、多助、太郎右衛門の三人は、ある秋の末に、いつものように背中に炭俵を三俵ずつ背負って城下へ出かけて行きました。
三人が村を出た時は、まだ河の流れに朝霧がかかって、河原の石の上には霜が真っ白に下りていました。
「今日も、はあお天気になるべいてや。」
と伊作が橋を渡りながら、一人言のようにいうと、ほかの二人も高い声で、「そんだ、お天気になるてや。」と調子を合わせて、橋を渡って行きました。三人はいつものように、炭を売ってしまった後で、町の居酒屋で一杯ひっかける楽しみのほか、何の考えもなく足を早めて道を歩いて行きました。
伊作は背の高い一番丈夫な男だけに、峠を登る時は、二人から一町ほども先を歩いていました。
多助と太郎右衛門は、高い声で話をしながら坂を登って行きました。
二人は浜へ嫁に行っていた村の娘が、亭主に死なれて帰って来たという話を、さもさも大事件のように力を入れて話していたのでした。
峠を越すと、広い平原になって、そこから城下の方まで、十里四方の水田がひろがって、田には黄金の稲が一杯に実っていました。
「伊作の足あ、なんて早いんだべい!」
と多助は太郎右衛門に言いました。
「ああした男あ、坂の下で一服やってる頃だべい。」
と太郎右衛門は笑いながら答えました。多助と太郎右衛門が、峠を越して平原の見えるところまで来た時、坂の下の方で伊作が一生懸命に二人の方を見て、手を振っているのが、見えました。
「どうしたんだべいな? 伊作あ、己らを呼んでるてばな。」
と多助が言いました。太郎右衛門も顔をしかめて坂の下を見下ろしました。
「早く来い、早く来い……面白いものが落っこってるぞ!」という伊作の声がきこえて来ました。
「面白いものが落っこってるよ。」と多助は、笑いながら言うと、太郎右衛門も大きな口を開けて笑いました。
「伊作の拾うんだもの、碌なものでなかべいになあ!」と太郎右衛門は附け足して、多助と一緒に少し急いで坂を下りて行きました。
坂の下の方では、伊作はさも、もどかしそうに、二人の下りて来るのを待っていました。
「騙されたと思って、急ぐべし!」
と多助は、炭俵をガサガサさせて、走って行きました。太郎右衛門は、根がはしっこくない男でしたから、多助に遅れて、一人で坂を下りて行きました。太郎右衛門が伊作のいたところへ着いた時には、伊作と多助は大事そうにして、何か持ち上げて見たり触って見たりしていました。
「何あ、落っこってるんだてよ?」と太郎右衛門は間抜けな顔をして、二人の立っている間へ顔を突っ込んでやりました。
読了ワーク
思い出してみよう
- 伊作、多助、太郎右衛門の三人の仕事は何ですか。
- 伊作はどんな男だと書かれていますか。
調べてみよう
- “岩魚”や“山女”はどんな魚でしょうか。
- “碌”とは何を表す言葉でしょうか。
単語ピックアップ
1.城下(じょうか)
城の下周辺に発展した町のこと。
2.取柄(とりえ)
長所。優れたところ。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 田を耕しながら、炭を焼いて三里ばかり離れた城下に売りに行く仕事。
- 背が高く、一番丈夫な男。