- 優しい気持ちになる話が読みたい。
- 美しい情景が目に浮かぶような話が読みたい。
- 3歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
このおはなしの作者
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前回までのあらすじ
初めて見る雪に大はしゃぎの子狐。
しばらく雪の上で遊んでいると、子狐の手はすっかり冷えて牡丹色に変わってしまった。
その様子から、母さん狐は子どもの手に合う毛糸の手袋を買ってやろうと思い立つのだった。
町の近くまでやって来る狐の親子だったが、母さん狐は人間に対する恐怖心から、足が進まなくなってしまう。
仕方なく、子どもの片方の手を人間の子どもの手に変えて、子狐だけで買い物に行かせることにする。
おはなしの始まりはここから
★この文章は3分で読めます
「どうして?」と坊やの狐は聞き返しました。
「人間はね、相手が狐だとわかると手袋を売ってくれないんだよ。それどころか、掴まえて檻の中へ入れちゃうんだよ。人間ってほんとに恐いものなんだよ。」
母さん狐は、持って来た二つの白銅貨を人間の手の方へ握らせてやりました。
子狐は、町の灯を手掛かりに雪あかりの野原をよちよちやって行きました。
始めのうちは一つきりだった灯が二つになり三つになり、はては十にもふえました。
狐の子どもはそれを見て、灯には、星と同じように、赤いのや黄色いのや青いのがあるんだなと思いました。
やがて町に入りましたが、通りの家々は戸を閉めて、高い窓から暖かそうな光が道の雪の上に落ちているばかりでした。
けれど表の看板の上には大抵小さな電灯がともっていましたので、狐の子は、それを見ながら、帽子屋を探して行きました。
自転車の看板や、眼鏡の看板やその他いろんな看板があるものは、新しいペンキで画かれ、或るものは、古い壁のようにはげていましたが、町に始めて出て来た子狐にはそれらのものがいったい何であるか分からないのでした。
とうとう帽子屋が見つかりました。
お母さんが道々よく教えてくれた、黒い大きなシルクハットの帽子の看板が、青い電灯に照らされてかかっていました。
子狐は教えられた通り、トントンと戸を叩きました。
「今晩は」
すると、戸が少しゴロリと開いて、光の帯が道の白い雪の上に長く伸びました。
子狐はその光がまぶしかったので、面食らってお母さん狐が出しちゃいけないと言った方の手を隙間から差し込んでしまいました。
「このお手々にちょうどいい手袋ください。」
すると帽子屋さんは、おやおやと思いました。
これはきっと木の葉で買いに来たんだなと思いました。
そこで「先にお金を下さい」と言いました。
子狐は素直に握って来た白銅貨を二つ帽子屋さんに渡しました。
帽子屋さんはそれをカチ合わせてみると、チンチンと良い音がしました。
これは本当のお金だと思いましたので、棚から子ども用の毛糸の手袋をとり出して子狐の手に持たせてやりました。
子狐はお礼を言って、もと来た道を帰り始めました。
「お母さんは、人間は恐ろしいものだっておっしゃったがちっとも恐ろしくないや。だって僕の手を見てもどうもしなかったもの」と思いました。
そして子狐は人間とはどんなものか見たいと思いました。
ある窓の下を通りかかると、人間の声がしました。
何という優しくて、美しい、おっとりした声なんでしょう。
「ねむれ ねむれ母の胸に、ねむれ ねむれ母の手に―」
子狐はきっと人間のお母さんの声にちがいないと思いました。
子狐が眠る時にも、やっぱり母さん狐はあんな優しい声でゆすぶってくれるからです。
するとこんどは、子どもの声がしました。
「母ちゃん、こんな寒い夜は森の子狐は寒い寒いってないてるでしょうね」
すると母さんの声が「森の子狐もお母さん狐のお唄をきいて、洞穴の中で眠ろうとしているでしょうね。さあ坊やも早くねんねしなさい。森の子狐と坊やとどっちが早くねんねするか、きっと坊やの方が早くねんねしますよ。」
それを聞くと子狐は急にお母さんが恋しくなって、お母さん狐の待っている方へ跳んで行きました。
お母さん狐は坊やが来ると、暖かい胸に抱きしめて泣きたいほど喜びました。
そして二匹の狐は森の方へ帰って行きました。
「母ちゃん、人間ってちっとも恐かないや。」
「どうして?」
「坊、間違えてほんとうのお手々出しちゃったの。でも帽子屋さん、掴まえやしなかったもの。ちゃんとこんな良い暖かい手袋くれたもの。」と言って手袋のはまった両手をパンパンやって見せました。
お母さん狐は、「まあ!」と呆れましたが、「本当に人間はいいものかしら。」とつぶやきました。
読了ワーク
思い出してみよう
- 子狐は母さん狐に出してはいけないと言った手を出してしまいました。それはなぜでしょう。
- 手袋を買い、来た道を帰っていた子狐は、急に母さん狐が恋しくなりました。それはなぜでしょう。
- 子狐が「母ちゃん、人間ってちっとも恐かないや。」と言ったのはなぜでしょう。
調べてみよう
- 『画く』と『描く』の違いは何でしょう。
- 『怖い』と『恐い』の違いは何でしょう。
- 『唄』と『歌』と『詩』の違いは何でしょう。
単語ピックアップ
1.面食らう(めんくらう)
突然の事にびっくりして戸惑うこと。
2.呆れる(あきれる)
あっけにとられる。唖然とする。あまりに意外で驚く。
音読シートダウンロード
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- お店の戸が少し開いた時に、差し込んだ光がまぶしくてびっくりしたから。お店の明かりがまぶしくてびっくりしたから。
- 人間のお母さんと子どもが、森の子狐とお母さん狐の話をしているのを聞いたから。
- 間違えて本当の手を出しても、掴まえたりせず、ちゃんと暖かい手袋をくれたから。