- ノスタルジックな気分に浸りたい。
- 心が温かくなる話が読みたい。
- 3歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
丘の家①【前編】はここから
★この文章は3分で読めます
丘の上に百姓のお家がありました。
家が貧乏で手伝いの人を雇うことも出来ないので、小さな男の子が、お父さんと一緒に働いていました。
男の子は、毎日野へ出たり、穀物小屋の中で仕事をしたりして、一日中休みなく働きました。
そして、夕方になるとやっと一時間だけ、自由に遊ぶ時間をもらいました。
そのときには、男の子は、いつも決まって、もう一つ後ろの丘の上へ出かけました。
そこへ上がると、何十町か向こうの丘の上に、金の窓のついたお家が見えました。男の子は、毎日、そのきれいな窓を見に行きました。
窓はいつも、しばらくの間きらきらと、まぶしいほど光っています。そのうちに家の人が戸を閉めるからか、急に、ひょいと光が消えます。
そして、もう、ただのお家とちっとも変わらなくなってしまいます。
男の子は、日暮れだから金の窓も閉めるのだなと思って、自分もお家へ帰って、牛乳とパンを食べて寝るのでした。
ある日お父さんは、男の子を呼んで、「おまえはほんとによく働いておくれだ。そのご褒美に、今日は一日お暇をあげるから、どこへでも行っておいで。ただ、このお休みは、神さまが下さったのだということを忘れてはいけないよ。うかうか暮らしてしまわないで、何か良いことを覚えて来なければ。」と言いました。
男の子はたいそう喜びました。では、今日こそは、あの金の窓の家へいって見ようと思って、お母さまから、パンを一切れもらって、それをポケットに押しこんで出て行きました。
男の子には楽しい遠足でした。裸足のまま歩いて行くと、往来の白いほこりの上に足のあとがつきました。
後ろをふり返って見ると、自分のその足あとが長く続いています。
足あとは、どこまでも自分に、ついて来てくれるように見えました。
それから、自分の影法師も、自分のするとおりに、一緒に踊り上がったり、走ったりしてついて来ました。男の子にはそれが愉快でたまりませんでした。
そのうちに、だんだんにお腹が空いてきました。
男の子は道ばたの生け垣の前を流れている、小さな川のふちに座って、パンを食べました。そして、透き通った、きれいな水をすくって飲みました。
それから、食べ余したかたいパンの皮は、小さく砕いて、辺りへ振りまいておきました。
そうしておけば、小鳥が来て食べます。これはお母さんから教わったことでした。
男の子は再びどんどん歩きました。そして、ようやくのことで、高い、まっ青な、いつも見る丘の下へ着きました。
男の子はその丘をのぼって行きますと、例のお家がありました。
しかし側へ来て見ると、そのお家の窓はただのガラス窓で、金なぞはどこにもはまってはいませんでした。
男の子はすっかり当てが外れたので、それこそ泣き出したいくらいにがっかりしました。と、お家からおばさんが出て来ました。そして何かご用ですかと、優しく聞いてくれました。
男の子は、「私は、家の後ろの丘の上から見える、このお家の金の窓を見に来たのです。でも、そんな窓は無くて、ただガラスがはまっているだけですね。」と言いました。
おばさんは、首を振って、「私の家は貧乏な百姓ですもの。金などが窓についているはずはありません。金よりもガラスの方が明るくていいんですよ。」
こう言って笑いながら、男の子を戸口の石段に腰をかけさせて、牛乳を一杯と、パンを一切れもって来てくれました。
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読了ワーク
思い出してみよう
- 男の子は夕方、自由に遊ぶ時間をもらうとどこに出かけますか。
- ある日、男の子はお父さんから一日休みをもらいました。どういった理由で休みをもらったのでしょうか。
- 男の子が泣き出したいくらいにがっかりしたのはなぜですか。
調べてみよう
- 『丘』と『岡』の違いについて調べてみましょう。
- “生け垣”とはどんなものでしょうか。
単語ピックアップ
影法師(かげぼうし)
①影絵。②壁や地面などに映る人影。
知っ得慣用句
当てが外れる
自分が予想や期待していた事柄から外れた結果になる。予想外。期待外れ。
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準備中
読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- もう一つ後ろの丘の上。
- よく働いたご褒美に休みをもらった。
- 金の窓がついてると思っていた窓がただのガラス窓で、どこにも金がついていなかったから。