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どんぐりの背くらべに付き合わされる少年の話①

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やなかゆう
やなかゆう
宮沢賢治作『どんぐりと山猫①【前編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 明るい気分になる話が読みたい。
  • 分かりやすい話が読みたい。
  • 3歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

宮沢賢治みやざわけんじ(1896年~1933年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この文章は4分で読めます

おかしな葉書はがきが、ある土曜日どようびゆうがた、一郎いちろうのうちにきました。

かねた一郎いちろうさま 九月くがつ十九日じゅうくにち

あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。
あした、めんどなさいばんしますから、おいで
んなさい。とびどぐもたないでくなさい。

やまねこ はい

こんなのです。

はまるで下手へたで、すみもガサガサしてゆびくくらいでした。けれども一郎いちろううれしくてうれしくてたまりませんでした。

葉書はがきをそっと学校がっこうのかばんにしまって、うちじゅうんだりはねたりしました。

寝床ねどこにもぐってからも、山猫やまねこのにゃあとしたかおや、その面倒めんどうだという裁判さいばん景色けしきなどをかんがえて、おそくまでねむりませんでした。

けれども、一郎いちろうましたときは、もうすっかりあかるくなっていました。

おもててみると、まわりのやまは、みんなたったいまできたばかりのようにうるうるがって、まっさおそらしたならんでいました。

一郎いちろういそいでごはんをべて、ひとり谷川たにがわ沿ったこみちを、かみほうへのぼってきました。

とおったかぜがざあっとくと、くりはバラバラととしました。

一郎いちろうくり見上みあげて、「くりくり山猫やまねこがここをとおらなかったかい。」とききました。

くりはちょっとしずかになって、「山猫やまねこなら、今朝けさはやく、馬車ばしゃひがしほうんできましたよ。」とこたえました。

ひがしならぼくほうだねえ、おかしいな、とにかくもっとってみよう。くりありがとう。」

くりはだまってまたをばらばらととしました。

一郎いちろうすこきますと、そこはもうふえきのたきでした。

ふえきのたきというのは、まっしろいわがけのなかほどに、ちいさなあながあいていて、そこからみずふえのようにってし、すぐたきになって、ごうごうたにちているのをいうのでした。

一郎いちろうたきいてさけびました。

「おいおい、ふえき、山猫やまねこがここをとおらなかったかい。」

たきがぴーぴーこたえました。

山猫やまねこは、さっき、馬車ばしゃ西にしほうんできましたよ。」

「おかしいな、西にしならぼくのうちのほうだ。けれども、まあもすこってみよう。ふえき、ありがとう。」

たきはまたもとのようにふえきつづけました。

一郎いちろうがまたすこしきますと、一本いっぽんのぶなのしたに、たくさんのしろいきのこが、ドッテコドッテコドッテコと、へん楽隊がくたいをやっていました。

一郎いちろうからだをかがめて、「おい、きのこ、山猫やまねこが、ここをとおらなかったかい。」ときました。

するときのこは「山猫やまねこなら、今朝けさはやく、馬車ばしゃみなみほうんできましたよ。」とこたえました。一郎いちろうくびをひねりました。

みなみならあっちのやまのなかだ。おかしいな。まあもすこってみよう。きのこ、ありがとう。」

きのこはみんないそがしそうに、ドッテコドッテコと、あのへん楽隊がくたいをつづけました。

一郎いちろうはまたすこきました。すると一本いっぽんのくるみのこずえを、栗鼠りすがぴょんととんでいました。

一郎いちろうはすぐまねきしてそれをとめて、「おい、栗鼠りす山猫やまねこがここをとおらなかったかい。」とたずねました。

すると栗鼠りすは、うえから、ひたいをかざして、一郎いちろうながらこたえました。

山猫やまねこなら、今朝けさまだくらいうちに馬車ばしゃみなみほうんできましたよ。」

みなみったなんて、ふたとこでそんなことをうのはおかしいなあ。けれどもまあもすこってみよう。栗鼠りす、ありがとう。」栗鼠りすはもうませんでした。

ただくるみの一番いちばんうええだがゆれ、となりのぶなのがちらっとひかっただけでした。

一郎いちろうすこきましたら、谷川たにがわ沿ったみちは、もうほそくなってえてしまいました。

そして谷川たにがわみなみの、まっくろかやもりほうへ、あたらしいちいさなみちがついていました。

一郎いちろうはそのみちをのぼってきました。かやえだはまっくろかさなりあって、青空あおぞらはひときれもえず、みち大変たいへんきゅうさかになりました。

一郎いちろうかおをまっにして、あせをぽとぽととしながら、そのさかをのぼりますと、にわかにぱっとあかるくなって、がちくっとしました。

そこはうつくしい黄金色きんいろ草地くさちで、くさかぜにざわざわり、まわりは立派りっぱなオリーブいろかやもりかこまれてありました。

その草地くさちのまんなかに、せいひくいおかしなかたちおとこが、ひざげて革鞭かわむちって、だまってこっちをていたのです。

一郎いちろうはだんだんそばって、びっくりしてちどまってしまいました。

そのおとこは、片目かためで、えないほうは、しろくびくびくうごき、上着うわぎのような半纒はんてんのようなへんなものをて、だいいちあしが、ひどくがって山羊やぎのよう、ことにその足先あしさきときたら、ごはんをもるへらのかたちだったのです。

一郎いちろう気味きみわるかったのですが、なるべくちついてたずねました。

「あなたは山猫やまねこりませんか。」

するとそのおとこは、横目よこめ一郎いちろうかおて、くちげてにやっとわらっていました。

山猫やまねこさまはいますぐに、ここにもどっておやるよ。おまえは一郎いちろうさんだな。」

一郎いちろうはぎょっとして、一足ひとあしうしろにがって、「え、ぼく一郎いちろうです。けれども、どうしてそれをってますか。」といました。

するとその奇体きたいおとこはいよいよニヤニヤしてしまいました。

「そんだら、葉書はがきだべ。」

ました。それでたんです。」

「あの文章ぶんしょうは、ずいぶん下手へただべ。」とおとこしたいてかなしそうにいました。

どんぐりの背くらべに付き合わされる少年の話②【この文章は4分で読めます】宮沢賢治作、「どんぐりと山猫」の中編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 山猫からもらったおかしな葉書を、一郎はどうしましたか。
  2. 一郎は山猫に会いに行く道中、いろいろなものに出会います。出会った順に並べてみましょう。
    A.きのこ B.栗の木 C.栗鼠 D.笛吹きの滝
  3. 坂をのぼった先には、黄金色の草地が広がり、何色の榧の木の森で囲まれていましたか。

調べてみよう

やなかゆう
やなかゆう
底本では『眼』で表記されていましたが、『目』に統一しました
  1. 『目』と『眼』の違いは何でしょうか。
  2. 文中にある“笛吹きの滝”のモデル、『笛貫の滝(ふえぬきのたき)』について調べてみましょう。
  3. “榧”の木について調べてみましょう。
やなかゆう
やなかゆう
○ー○○○みたいな実がなるらしいよ
おはなちゃん
おはなちゃん
いや・・・ほとんどわからない

単語ピックアップ

奇体(きたい)

普通とは違った印象を与えること。珍しいこと。風変わりなさま。

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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 学校のかばんにしまった。
  2. B.栗の木 → D.笛吹きの滝 → A.きのこ → C.栗鼠
  3. オリーブ色