- コントみたいなゆかいな話を読みたい。
- 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
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前回までのあらすじ
あるところに、さびしい野原の一軒家に暮らす、正直なおばあさんがいた。
ある日の夕方、一人の旅人がおばあさんの家の前を通りかかり、「少し休ませてほしい」とお願いする。
おばあさんは快くこの旅人を迎え、お茶などをご馳走するのだった。
疲れが取れた旅人は、いろいろとご馳走になったお礼にとお金を置いて行こうとする。
おばあさんはこれを拒み、代わりにお経の文句を教えてほしいと旅人に言う。
おはなしの始まりはここから
★この文章は3分で読めます
で、きょろきょろと、あっちを見たり、こっちを見たりして、初めのうちは、おばあさんのすきをうかがって逃げ出そうと思った位ですが、何をいうにもおばあさんが余り真面目で正直なものですから、そんな狡いことをして、逃げることもなりません。
おばあさんはもう鉦を前において、旅人が口を開くのをじっと待っている様子です。
仕様がないので、旅人は度胸をきめて、何かお経の種になるものはないかと、ふと家の奥の方を見ますと、おばあさんの大切な仏壇が、外のどの道具よりも目立って、立派にきらきらと光っています。
仏壇の中には線香をくすべる香炉があります。
香炉の傍には花立があります。
「さあ、どうぞ早く教えて下さい。」
とおばあさんが急き立てるものですから、旅人は困った余り、ふと思いついて、出鱈目に、しかし出来るだけお経らしい節をつけて、
「香炉や、花立や、花立や、香炉や。」と唱えました。
すると、おばあさんはその文句と節をそっくり真似て「香炉や、花立や、花立や、香炉や。」といって、「チン」と叩き馴れた鉦を叩きました。
よく合いました。
そこで、「これはまったく覚えいいお経で、ほんとうに有難う存じます。どうぞその先を、ついでに、もう少しお教え下さい。」と頼みました。
旅人は困って、もう一度、「香炉や、花立や、花立や、香炉や……。」と同じことをいっているうちに、何か外のものを見つけて、それを読み込もうと気をくばっていますと、仏壇の棚のところに、鼠がちょろちょろと出て来ました。
旅人は心の中で、「これだ!」と思ったものですから、早速声を張り上げて、「鼠が一匹御入来、鼠が一匹御入来。」とつづけているうちに、棚の上の鼠はちょろちょろと逃げて行ってしまいましたので、
「かと思ったら、すぐに逃げてしまったア。」といいました。
おばあさんはそんな事とは知りませんからそれが真面目なお経だと思って、「鼠が一匹御入来、鼠が一匹御入来。かと思ったら、すぐに逃げてしまったア。」と唱えて、そこでまた、「チン」と鉦を叩きました。
「ほんとうに、これはこれは分かりやすい、結構なお経でございます。」とおばあさんは大喜びでいいました。
「これなら、わたしのような年寄りでもよく覚られます。旅の方、どうぞもう少しその先をお教え下さいませ。」
旅人はまた困りましたが、仕様がありませんので、その先を、「鼠が一匹御入来、かと思ったら、すぐに逃げてしまったア。」とくり返して唱えているうちに何か思いつくだろうと、仏壇の方を見ていますと、先の棚の上に、今度は鼠が二匹連れで、ちょろちょろと何か相談し合うような恰好で歩いて来ました。
そこで旅人は早速、「今度は二匹連れで、何だか相談をしながら、ちょろちょろと御入来御入来。」
といっているうちに、どうしたのか、二匹は大急ぎで逃げて帰ってしまいましたので、旅人はこれもお経の種にして、
「ところが驚いて、大急ぎで逃げて帰ったア。」といって、もうこの先を頼まれたら、本当に困ってしまうと思ったものですから、「さア、これだけでひと切りです。」といいました。
「今度は二匹連れで、何だか相談をしながら、ちょろちょろと御入来。ところが驚いて、大急ぎで逃げて帰ったア。」とおばあさんは相変わらず大真面目で、旅人の唱えた通りに唱えて、「チン」と上手に拍子をとって鉦を叩きました。
そして、大変満足したように、
「どうも結構な、覚えいいお経を教えて下さいまして、有難う存じます。では、旅の方、初めからわたしが一人でもう一度さらえて見ますから、間違いないか、聞いておって下さいませ。」といって、
「香炉や、花立や、花立や、香炉や、鼠が一匹御入来、かと思ったら、すぐに逃げてしまったア。今度は二匹連れで、何だか相談をしながら、ちょろちょろと御入来。ところが驚いて、大急ぎで逃げて帰ったア。」チン、チン。
それを半分まで聞いていないうちに、「結構結構。」と旅人は可笑しくてたまらなくなりましたので、そっと逃げて行ってしまいました。
読了ワーク
思い出してみよう
- お経を知らなかった旅人は、おばあさんに何を教えたのでしょうか。
- 何の動物が何匹出てきましたか。
- なぜ旅人は最後まで聞かずに、逃げて行ってしまったのでしょうか。
調べてみよう
- “くすべる”の意味について調べてみよう。
- 『傍』と『側』の違いは何でしょう。
- 『馴れ』と『慣れ』の違いは何でしょう。
単語ピックアップ
1.度胸(どきょう)
物事を恐れない心。何事にも動じない強い心のこと。
2.結構(けっこう)
①それで良いこと。②もうそれ以上必要としないこと。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- お経らしい節をつけた出鱈目なお経。
- 鼠が2匹。
- 可笑しくてたまらなくなったから。