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青ひげを持つ男の恐ろしい正体を知った娘の話③

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やなかゆう
やなかゆう
シャルル・ペロー作『青ひげ』の後編です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 怖い話は得意。
  • 怖い話が好きな子ども(年長)に読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

【作者】
シャルル・ペロー(1628年~1703年)

【訳】
楠山正雄くすやままさお(1884年~1950年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この文章は5分で読めます

すると、その夕方ゆうがたあおひげが、ひょっこり、うちかえってました。

それは、まだこうまでかないうち、途中とちゅうで、用向ようむが、都合つごう片付かたづいた、というらせをいたからだとあおひげははなしました。

かえってられたとき奥方おくがたはぎょっとしましたが、一生懸命いっしょうけんめいうれしそうなかおをしてせていました。

さて、そのあくるあさあおひげは早速さっそく奥方おくがたあずけたかぎをおしといました。

そうわれて、奥方おくがたかぎしたとき、そのふるえようといったらありませんでしたから、あおひげは、すぐとかんづいてしまいました。

「おや。」と、あおひげはいました。

小部屋こべやかぎひといぞ。」

「じゃあ、きっと、あちらのつくえうえわすれたのでしょう。」と、奥方おくがたこたました。

「すぐってい。」と、あおひげは、おこったこえしました。

五六度ごろくど、あちらへったり、こちらへったり、まごまごしたあとで、奥方おくがたは、しぶしぶかぎしました。

あおひげは、かぎると、こわをして、じっとながめていましたが、「このかぎはどうしたのだ。」といました。

りません。」と、くようなこえこたえた奥方おくがたかおは、死人しにんよりもあおざめていました。

「なに、りませんだと。」と、あおひげはいました。

おれはよくっているよ。おまえはよくもおもって、小部屋こべやなかはいったな。えらい度胸どきょうだ。よし、そんなにはいりたければ、あそこへはいれ、はいって、そこにいるおくさんたちの仲間なかまになれ。」

こうわれると、奥方おくがたは、いきなりおっと足元あしもとして、いかにも真心まごころから、あらためた様子ようすで、もうけっして、おいつけにはそむきませんからとってびました。

このうえもなくうつくしいひとの、このうえもなくかなしい姿すがたては、いわでもとろけしたでしょう。

けれど、このあおひげのこころは、いわよりも、かねよりもかたかったのでございます。

おくさん、あなたはななければならない。いますぐに。」と、あおひげはいました。

「わたくし、どうしてもななければならないのでしたら。」と、奥方おくがたこたえて、にいっぱいなみだかべて、おっとかおました。

「せめてしばらく、おいのりをするあいだだけ、ってくださいまし。」

「しかたがない、七分半ななふんはんだけってやる。だがそれから、一秒いちびょうおくれることはならないぞ。」と、あおひげはいました。

ひとりになると、奥方おくがたは、おんなのきょうだいのびました。

「アンヌ姉様ねえさま(アンヌというのは、きょうだいの名前なまえでした。)アンヌ姉様ねえさま後生ごしょうです、とうのてっぺんまでがって、兄様にいさまたちが、まだおいでにならないかてください。兄様にいさまたちは今日きょうたずねてくださる約束やくそくになっているのです。えたら、大急おおいそぎでるように、合図あいずをしてください。」

アンヌ姉様ねえさまは、すぐとうのてっぺんまでがってきました。

半分はんぶんきちがいのようになった奥方おくがたは、かわいそうに、始終しじゅうさけつづけていました。

「アンヌ姉様ねえさま、アンヌ姉様ねえさま、まだなにないの。」

すると、アンヌ姉様ねえさまいました。

って、ほこりがっているだけですよ。くさあおひかっているだけですよ。」

そのうちにあおひげが、おおきなけんいてって、ありったけのがねごえして、どなりてました。

「すぐりてい。りてないと、おれほうからがってくぞ。」

「もうちょっとってください、後生ごしょうですから。」と、奥方おくがたいました。

そうして、ごくひくこえで、「アンヌ姉様ねえさま、アンヌ姉様ねえさま、まだなにえないの。」と、さけびました。

アンヌ姉様ねえさまこたました。

って、ほこりがっているだけですよ。くさあおひかっているだけですよ。」

はやりてい。」と、あおひげはさけびました。「りてないと、がってくぞ。」

いままいります。」と、奥方おくがたこたました。

そうして、そのあとで、「アンヌ姉様ねえさま、まだなにえないの。」と、さけびました。

「ああ。でも、おおきなすなけむりが、こちらのほうかって、っていますよ。」と、アンヌ姉様ねえさまこたました。

「それはきっと、兄様にいさまたちでしょう。」

「おやおや、そうではない。ひつじのれですよ。」

「こら、りてないか、きさま。」と、あおひげはさけびました。

いますぐに。」と、奥方おくがたいました。そうして、そのあとで、「アンヌ姉様ねえさま、アンヌ姉様ねえさま、まだ、だあれもなくって。」

「ああ、ふたりうまったひとがやってるわ。けれど、まだずいぶんとおいのよ。」

「ああ、ありがたい。」と、奥方おくがたは、うれしそうにいました。

「それこそ、兄様にいさまたちですよ。わたし兄様にいさまたちに、いそいでるように合図あいずしましょう。」

そのとき、あおひげは、いえごとふるえるほどの大声おおごえでどなりました。

奥方おくがたは、しおしお、したへおりてきました。

なみだをいっぱいにためて、かみかたにたらして、おっと足元あしもとしました。

今更いまさらどうなるものか。」と、あおひげはあざわらいました。

「はやくね。」こうって、片手かたてに、奥方おくがたかみをつかみながら、片手かたてけんげて、くびをはねようとしました。

奥方おくがたは、おっとほういて、いまにもたえりそうなつきで、ほんのしばらく、づくろいするあいだってくださいとたのみました。

あおひげはこうって、けんげました。

「ならん、ならん。かみさまにまかせてしまえ。」

そのとたん、おもてに、ドンとはげしくぶつかるおとがしたので、あおひげはおもわず、ぎょっとしてめました。

途端とたんに、いたとおもうと、すぐ騎兵きへいがふたりはいってて、いきなりあおひげにかってました。

これは奥方おくがた兄弟きょうだいで、ひとりは竜騎兵りゅうきへい、ひとりは近衛騎兵このえきへいだということを、あおひげはすぐとりました。

そこであわててそうとしましたが、兄弟きょうだいはもう、うしろからいついて、あおひげがくつぬぎのいしあしをかけようとするところを、胴中どうなかをひとしてころしてしまいました。

でもそのときには、もう奥方おくがたとおくなってんだようになっていましたから、とてもがって、兄弟きょうだいたちをむかえる気力きりょくはありませんでした。

さて、あおひげには跡継あとつぎのがありませんでしたから、その財産ざいさんのこらず、奥方おくがたものになりました。

奥方おくがたはそれを、姉様ねえさま兄様にいさまたちにけてあげました。

物珍ものめずらしがり、それはいつでもこころかるたのしみですが、一度いちどそれがたされると、もうすぐ後悔こうかいわってやってて、そのためたか代価だいかはらわなくてはなりません。

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 青ひげは奥方が思っていたよりも早く、家に帰って来ました。それはどんな理由だったでしょうか。
  2. お祈りする時間として七分半もらった奥方は、その後どんな行動に出ましたか。

調べてみよう

  1. 『硬い』『固い』『堅い』の違いは何でしょうか。
  2. 『答える』と『応える』の違いは何でしょうか。

単語ピックアップ

1.用向き(ようむき)

用事、用件

2.出し抜け(だしぬけ)

いきなり、突然のこと

3.割れ鐘(われがね)

①割れた釣り鐘のこと②(①の鐘の音を例えから)濁ったような太い大声のこと

4.代価(だいか)

①商品の値段②あることを成し遂げた際に生じた損失のこと

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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 目的地まで行かないうちに、途中で用向きが都合良く片付いたという知らせを聞いたから
  2. 姉のアンヌに声をかけ、塔のてっぺんまで上がってもらい、今日訪ねてくる予定のお兄さん達が見えたら大急ぎで来るよう合図をしてほしいとお願いした。