あの森永製菓のミルクキャラメルを題材にした童話です。
つまり“飴チョコ”とはキャラメルのことです。(飴入りのチョコレート菓子ではあらず。)
森永のミルクキャラメルが発売されたのは、今から100年以上も前の明治時代。
おなじみのエンゼルマークは明治38年(1905年)に登場しました。
- ユニークな発想の話が読みたい。
- 可愛いお菓子のパッケージを捨てる時に罪悪感に似た感情がある。
- 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
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おはなしの始まりはここから
★この文章は4分で読めます
青い、美しい空の下に、黒い煙の上がる、煙突の幾本か立った工場がありました。
その工場の中では、飴チョコを製造していました。
製造された飴チョコは、小さな箱の中に入れられて、方々の町や、村や、また都会に向かって送られるのでありました。
ある日、車の上に、たくさんの飴チョコの箱が積まれました。
それは、工場から、長いうねうねとした道を揺られて、停車場へと運ばれ、そこからまた遠い、田舎の方へと送られるのでありました。
飴チョコの箱には、かわいらしい天使が描いてありました。
この天使の運命は、ほんとうにいろいろでありました。
あるものはくずかごの中へ、ほかの紙くずなどといっしょに、破って捨てられました。
また、あるものは、ストーブの火の中に投げ入れられました。
またあるものは、泥濘の道の上に捨てられました。
なんといっても子供らは、箱の中に入っている、飴チョコさえ食べればいいのです。
そして、もう、空き箱などに用事がなかったからであります。
こうして、泥濘の中に捨てられた天使は、やがて、その上を重い荷車の轍で轢かれるのでした。
天使でありますから、たとえ破られても、焼かれても、また轢かれても、血の出るわけではなし、また痛いということもなかったのです。
ただ、この地上にいる間は、おもしろいことと、悲しいこととがあるばかりで、しまいには、魂は、みんな青い空へと飛んでいってしまうのでありました。
いま、車に乗せられて、うねうねとした長い道を、停車場の方へといった天使は、まことによく晴れわたった、青い空や、また木立や、建物の重なり合っているあたりの景色をながめて、独り事をしていました。
「あの黒い、煙の立っている建物は、飴チョコの製造される工場だな。なんといい景色ではないか。遠くには海が見えるし、あちらにはにぎやかな街がある。おなじゆくものなら、俺は、あの街へいってみたかった。きっと、おもしろいことや、おかしいことがあるだろう。それだのに、いま、俺は、停車場へいってしまう。汽車に乗せられて、遠いところへいってしまうにちがいない。そうなれば、もう二度と、この都会へはこられないばかりか、この景色を見ることもできないのだ。」
天使は、このにぎやかな都会を見捨てて、遠く、あてもなくゆくのを悲しく思いました。
けれど、まだ自分は、どんなところへゆくだろうかと考えると楽しみでもありました。
その日の昼ごろは、もう飴チョコは、汽車に揺られていました。
天使は、真っ暗な中にいて、いま汽車が、どこを通っているかということはわかりませんでした。
そのとき、汽車は、野原や、また丘の下や、村はずれや、そして、大きな河にかかっている鉄橋の上などを渡って、ずんずんと東北の方に向かって走っていたのでした。
その日の晩方、あるさびしい、小さな駅に汽車が着くと、飴チョコは、そこで降ろされました。
そして汽車は、また暗くなりかかった、風の吹いている野原の方へ、ポッ、ポッと煙を吐いていってしまいました。
飴チョコの天使は、これからどうなるだろうかと、半ば頼りないような、半ば楽しみのような気持ちでいました。
すると、まもなく、幾百となく、飴チョコのはいっている大きな箱は、その町の菓子屋へ運ばれていったのであります。
空が曇っていたせいもありますが、町の中は、日が暮れてからは、あまり人通りもありませんでした。
天使は、こんなさびしい町の中で、幾日もじっとして、これから長い間、こうしているのかしらん。もし、そうなら退屈でたまらないと思いました。
幾百となく、飴チョコの箱に描いてある天使は、それぞれ違った空想にふけっていたのでありましょう。
なかには、早く青い空へ上ってゆきたいと思っていたものもありますが、また、どうなるか最後の運命まで見てから、空へ帰りたいと思っていたものもあります。
ここに話をしますのは、それらの多くの天使の中の一人であるのはいうまでもありません。
ある日、男が箱車を引いて菓子屋の店先にやってきました。
そして、飴チョコを三十ばかり、ほかのお菓子といっしょに箱車の中に収めました。
天使は、また、これからどこへかゆくのだと思いました。
いったい、どこへゆくのだろう?
箱車の中にはいっている天使は、やはり、暗がりにいて、ただ車が石の上をガタガタと躍りながら、なんでものどかな、田舎道を、引かれてゆく音しか聞くことができませんでした。
読了ワーク
思い出してみよう
- 製造された飴チョコはどこへ送られますか。
- 飴チョコの箱の運命はさまざまとありますが、例えばどうなるとありましたか。
調べてみよう
- 『河』と『川』の違いは何でしょうか。
単語ピックアップ
轍(わだち)
①車が通った後にできる車輪の跡。②先例や筋道のこと。
音読シートダウンロード
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 方々の町や、村や、都会に向かって送られる。
- ほかの紙くずといっしょに、くずかごの中へ破って捨てられたり、ストーブの火の中に投げ入れられたり、泥濘の道の上に捨てられたりした。