あの森永製菓のミルクキャラメルを題材にした童話です。

つまり“飴チョコ”とはキャラメルのことです。(飴入りのチョコレート菓子ではあらず。)

森永のミルクキャラメルが発売されたのは、今から100年以上も前の明治時代。

おなじみのエンゼルマークは明治38年(1905年)に登場しました。

やなかゆう
やなかゆう
小川未明作『飴チョコの天使①【前編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • ユニークな発想の話が読みたい。
  • 可愛いお菓子のパッケージを捨てる時に罪悪感に似た感情がある。
  • 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

小川未明おがわみめい(1882年~1961年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この文章は4分で読めます

青あおい、美うつくしい空そらの下したに、黒くろい煙けむりの上あがる、煙突えんとつの幾本いくほんか立たった工場こうじょうがありました。

その工場こうじょうの中なかでは、飴あめチョコを製造せいぞうしていました。

製造せいぞうされた飴あめチョコは、小ちいさな箱はこの中なかに入いれられて、方々ほうぼうの町まちや、村むらや、また都会とかいに向むかって送おくられるのでありました。

ある日ひ、車くるまの上うえに、たくさんの飴あめチョコの箱はこが積つまれました。

それは、工場こうじょうから、長ながいうねうねとした道みちを揺ゆられて、停車場ていしゃばへと運はこばれ、そこからまた遠とおい、田舎いなかの方ほうへと送おくられるのでありました。

飴あめチョコの箱はこには、かわいらしい天使てんしが描えがいてありました。

この天使てんしの運命うんめいは、ほんとうにいろいろでありました。

あるものはくずかごの中なかへ、ほかの紙かみくずなどといっしょに、破やぶって捨すてられました。

また、あるものは、ストーブの火ひの中なかに投なげ入いれられました。

またあるものは、泥濘ぬかるみの道みちの上うえに捨すてられました。

なんといっても子供こどもらは、箱はこの中なかに入はいっている、飴あめチョコさえ食たべればいいのです。

そして、もう、空あき箱ばこなどに用事ようじがなかったからであります。

こうして、泥濘ぬかるみの中なかに捨すてられた天使てんしは、やがて、その上うえを重おもい荷車にぐるまの轍わだちで轢ひかれるのでした。

天使てんしでありますから、たとえ破やぶられても、焼やかれても、また轢ひかれても、血ちの出でるわけではなし、また痛いたいということもなかったのです。

ただ、この地上ちじょうにいる間あいだは、おもしろいことと、悲かなしいこととがあるばかりで、しまいには、魂たましいは、みんな青あおい空そらへと飛とんでいってしまうのでありました。

いま、車くるまに乗のせられて、うねうねとした長ながい道みちを、停車場ていしゃばの方ほうへといった天使てんしは、まことによく晴はれわたった、青あおい空そらや、また木立こだちや、建物たてものの重かさなり合あっているあたりの景色けしきをながめて、独ひとり事ごとをしていました。

「あの黒くろい、煙けむりの立たっている建物たてものは、飴あめチョコの製造せいぞうされる工場こうじょうだな。なんといい景色けしきではないか。遠とおくには海うみが見みえるし、あちらにはにぎやかな街まちがある。おなじゆくものなら、俺おれは、あの街まちへいってみたかった。きっと、おもしろいことや、おかしいことがあるだろう。それだのに、いま、俺おれは、停車場ていしゃばへいってしまう。汽車きしゃに乗のせられて、遠とおいところへいってしまうにちがいない。そうなれば、もう二度にどと、この都会とかいへはこられないばかりか、この景色けしきを見みることもできないのだ。」

天使てんしは、このにぎやかな都会とかいを見捨みすてて、遠とおく、あてもなくゆくのを悲かなしく思おもいました。

けれど、まだ自分じぶんは、どんなところへゆくだろうかと考かんがえると楽たのしみでもありました。

その日ひの昼ひるごろは、もう飴あめチョコは、汽車きしゃに揺ゆられていました。

天使てんしは、真まっ暗くらな中なかにいて、いま汽車きしゃが、どこを通とおっているかということはわかりませんでした。

そのとき、汽車きしゃは、野原のはらや、また丘おかの下したや、村むらはずれや、そして、大おおきな河かわにかかっている鉄橋てっきょうの上うえなどを渡わたって、ずんずんと東北とうほくの方ほうに向むかって走はしっていたのでした。

その日ひの晩方ばんがた、あるさびしい、小ちいさな駅えきに汽車きしゃが着つくと、飴あめチョコは、そこで降おろされました。

そして汽車きしゃは、また暗くらくなりかかった、風かぜの吹ふいている野原のはらの方ほうへ、ポッ、ポッと煙けむりを吐はいていってしまいました。

飴あめチョコの天使てんしは、これからどうなるだろうかと、半なかば頼たよりないような、半なかば楽たのしみのような気持きもちでいました。

すると、まもなく、幾百いくひゃくとなく、飴あめチョコのはいっている大おおきな箱はこは、その町まちの菓子屋かしやへ運はこばれていったのであります。

空そらが曇くもっていたせいもありますが、町まちの中なかは、日ひが暮くれてからは、あまり人通ひとどおりもありませんでした。

天使てんしは、こんなさびしい町まちの中なかで、幾日いくにちもじっとして、これから長ながい間あいだ、こうしているのかしらん。もし、そうなら退屈たいくつでたまらないと思おもいました。

幾百いくひゃくとなく、飴あめチョコの箱はこに描えがいてある天使てんしは、それぞれ違ちがった空想くうそうにふけっていたのでありましょう。

なかには、早はやく青あおい空そらへ上のぼってゆきたいと思おもっていたものもありますが、また、どうなるか最後さいごの運命うんめいまで見みてから、空そらへ帰かえりたいと思おもっていたものもあります。

ここに話はなしをしますのは、それらの多おおくの天使てんしの中なかの一人ひとりであるのはいうまでもありません。

ある日ひ、男おとこが箱車はこぐるまを引ひいて菓子屋かしやの店先みせさきにやってきました。

そして、飴あめチョコを三十さんじゅうばかり、ほかのお菓子かしといっしょに箱車はこぐるまの中なかに収おさめました。

天使てんしは、また、これからどこへかゆくのだと思おもいました。

いったい、どこへゆくのだろう?

箱車はこぐるまの中なかにはいっている天使てんしは、やはり、暗くらがりにいて、ただ車くるまが石いしの上うえをガタガタと躍おどりながら、なんでものどかな、田舎道いなかみちを、引ひかれてゆく音おとしか聞きくことができませんでした。

お菓子の空き箱がたどる切ない運命の話②【この文章は3分で読めます】小川未明作、「飴チョコの天使」の中編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。 ...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 製造された飴チョコはどこへ送られますか。
  2. 飴チョコの箱の運命はさまざまとありますが、例えばどうなるとありましたか。

調べてみよう

  • 『河』と『川』の違いは何でしょうか。

単語ピックアップ

轍(わだち)

①車が通った後にできる車輪の跡。②先例や筋道のこと。

音読シートダウンロード

★この物語“飴チョコの天使①【前編】”の音読シートがダウンロードできます。
[download id=”1273″]

読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 方々の町や、村や、都会に向かって送られる。
  2. ほかの紙くずといっしょに、くずかごの中へ破って捨てられたり、ストーブの火の中に投げ入れられたり、泥濘の道の上に捨てられたりした。