- ユニークな発想の話が読みたい。
- 可愛いお菓子のパッケージを捨てる時に罪悪感に似た感情がある。
- 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
このおはなしの作者
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前回までのあらすじ
青い、美しい空の下。黒い煙の上がる、煙突の幾本か立った工場では、飴チョコを製造していた。
製造された飴チョコは、かわいらしい天使が描かれた小さな箱の中に入れられる。
それから、方々の町や、村や、また都会に向かって送られる。
この、飴チョコの箱に描いてある天使の運命は様々で、あるものはくずかごの中、あるものは、ストーブの火の中、またあるものは、泥濘の道の上に捨てられた。そしてその魂は、青い空へと飛んでいく。
そしてここに、またある飴チョコの天使が、男が引く箱車に揺られながら菓子屋の店先にやってくる。
おはなしの始まりはここから
★この文章は3分で読めます
箱車を引いてゆく男は、途中で、だれかと道づれになったようです。
「いいお天気ですのう。」
「だんだん、のどかになりますだ。」
「このお天気で、みんな雪が消えてしまうだろうな。」
「おまえさんは、どこまでゆかしゃる。」
「あちらの村へ、お菓子を卸しにゆくだ。今年になって、はじめて東京から荷がついたから。」
飴チョコの天使は、この話によって、この辺には、まだところどころ田や、畑に、雪が残っているということを知りました。
村に入ると、木立の上に、小鳥がチュン、チュンといい声を出して、枝から、枝へと飛んではさえずっていました。
子供らの遊んでいる声が聞こえました。
そのうちに車は、ガタリといって止まりました。
このとき、飴チョコの天使は、村へきたのだと思いました。
やがて箱車のふたが開いて、男ははたして飴チョコを取り出して、村の小さな駄菓子屋の店先に置きました。
また、ほかにもいろいろのお菓子を並べたのです。
駄菓子屋のおかみさんは、飴チョコを手に取りあげながら、
「これは、みんな十銭の飴チョコなんだね。五銭のがあったら、そちらをおくんなさい。この辺りでは、十銭のなんか、なかなか売れっこはないから。」といいました。
「十銭のばかりなんですがね。そんなら、三つ四つ置いてゆきましょうか。」と、車を引いてきた若い男はいいました。
「そんなら、三つばかり置いていってください。」と、おかみさんはいいました。
飴チョコは、三つだけ、この店に置かれることとなりました。
おかみさんは、三つの飴チョコを大きなガラスのびんの中にいれて、それを外から見えるようなところに飾っておきました。
若い男は、車を引いて帰ってゆきました。
これから、またほかの村へ、まわったのかもしれません。
同じ工場で造られた飴チョコは、同じ汽車に乗って、ついここまで運命をいっしょにしてきたのだが、これからたがいに知らない場所に別れてしまわなければなりませんでした。
もはや、この世の中では、それらの天使は、たがいに顔を見合わすようなことはおそらくありますまい。
いつか、青い空に上っていって、おたがいにこの世の中で経てきた運命について、語り合う日よりはほかになかったのであります。
びんの中から、天使は、家の前に流れている小さな川をながめました。
水の上を、日の光がきらきら照らしていました。
やがて日は暮れました。
田舎の夜はまだ寒く、そして、寂しかった。
しかし夜が明けると、小鳥が例の木立にきてさえずりました。
その日もいい天気でした。
あちらの山あたりはかすんでいます。
子供らは、お菓子屋の前にきて遊んでいました。
このとき、飴チョコの天使は、あの子供らは、飴チョコを買って、自分をあの小川に流してくれたら、自分は水のゆくままに、あちらの遠いかすみだった山々の間を流れてゆくものを空想したのであります。
しかし、おかみさんが、いつかいったように、百姓の子供らは、十銭の飴チョコを買うことができませんでした。
夏になると、つばめが飛んできました。
そして、そのかわいらしい姿を小川の水の面に写しました。
また暑い日盛りごろ、旅人が店先にきて休みました。
そして、四方の話などをしました。
しかし、その間だれも飴チョコを買うものがありませんでした。
だから、天使は空へ上ることも、またここからほかへ旅をすることもできませんでした。
月日がたつにつれて、ガラスのびんはしぜんに汚れ、また、ちりがかかったりしました。
飴チョコは、憂鬱な日を送ったのであります。
やがてまた、寒さに向かいました。
そして、冬になると、雪はちらちらと降ってきました。
天使は田舎の生活に飽きてしまいました。
しかし、どうすることもできませんでした。
読了ワーク
思い出してみよう
- 飴チョコの天使は、箱車を引く男の会話から何を知りましたか。
- 飴チョコの天使は、いつまでも駄菓子屋を出ること無く、憂鬱な日々を過ごしました。なぜ、駄菓子屋を出ることが出来なかったのでしょうか。
調べてみよう
- “銭(せん)”とは、昔の通貨の単位です。“五銭”、“十銭”は今の単位に直すといくらになるでしょうか。
※もともと「せん」と読みましたが、後にそれが変化して「ぜに」と読むようにもなりました。単位だけでなく、お金そのものを指す言葉でもあります。
単語ピックアップ
1.卸す(おろす)
問屋が小売業者に商品を売り渡すこと。
2.憂鬱(ゆううつ)
気分が落ち込み、心が晴れないこと。
音読シートダウンロード
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 飴チョコの天使が来た辺りの田や畑には、まだところどころ雪が残っているということ。
- だれも飴チョコを買おうとしなかったから。