哀愁漂う話 PR

お菓子の空き箱がたどる切ない運命の話②

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やなかゆう
やなかゆう
小川未明作『飴チョコの天使②【中編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • ユニークな発想の話が読みたい。
  • 可愛いお菓子のパッケージを捨てる時に罪悪感に似た感情がある。
  • 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

小川未明おがわみめい(1882~1961)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

前回までのあらすじ

青い、美しい空の下。黒い煙の上がる、煙突の幾本か立った工場では、飴チョコを製造していた。

製造された飴チョコは、かわいらしい天使が描かれた小さな箱の中に入れられる。
それから、方々の町や、村や、また都会に向かって送られる。

この、飴チョコの箱に描いてある天使の運命は様々で、あるものはくずかごの中、あるものは、ストーブの火の中、またあるものは、泥濘の道の上に捨てられた。そしてその魂は、青い空へと飛んでいく。

そしてここに、またある飴チョコの天使が、男が引く箱車に揺られながら菓子屋の店先にやってくる。

お菓子の空き箱がたどる切ない運命の話①【この文章は4分で読めます】小川未明作、「飴チョコの天使」の前編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。 ...

おはなしの始まりはここから

★この文章は3分で読めます

箱車はこぐるまいてゆくおとこは、途中とちゅうで、だれかとみちづれになったようです。

「いいお天気てんきですのう。」

「だんだん、のどかになりますだ。」

「このお天気てんきで、みんなゆきえてしまうだろうな。」

「おまえさんは、どこまでゆかしゃる。」

「あちらのむらへ、お菓子かしおろにゆくだ。今年ことしになって、はじめて東京とうきょうからがついたから。」

あめチョコの天使てんしは、このはなしによって、このへんには、まだところどころや、はたけに、ゆきのこっているということをりました。

むらはいると、木立こだちうえに、小鳥ことりがチュン、チュンといいこえして、えだから、えだへとんではさえずっていました。

子供こどもらのあそんでいるこえこえました。

そのうちにくるまは、ガタリといってまりました。

このとき、あめチョコの天使てんしは、むらへきたのだとおもいました。

やがて箱車はこぐるまのふたがいて、おとこははたしてあめチョコをして、むらちいさな駄菓子屋だがしや店先みせさききました。

また、ほかにもいろいろのお菓子かしならべたのです。

駄菓子屋だがしやのおかみさんは、あめチョコをりあげながら、

「これは、みんな十銭じゅっせんあめチョコなんだね。五銭ごせんのがあったら、そちらをおくんなさい。このあたりでは、十銭じゅっせんのなんか、なかなかれっこはないから。」といいました。

十銭じゅっせんのばかりなんですがね。そんなら、みっよっいてゆきましょうか。」と、くるまいてきたわかおとこはいいました。

「そんなら、みっつばかりいていってください。」と、おかみさんはいいました。

あめチョコは、みっつだけ、このみせかれることとなりました。

おかみさんは、みっつのあめチョコをおおきなガラスのびんのなかにいれて、それをそとからえるようなところにかざっておきました。

わかおとこは、くるまいてかえってゆきました。

これから、またほかのむらへ、まわったのかもしれません。

おな工場こうじょうつくられたあめチョコは、おな汽車きしゃって、ついここまで運命うんめいをいっしょにしてきたのだが、これからたがいにらない場所ばしょわかれてしまわなければなりませんでした。

もはや、このなかでは、それらの天使てんしは、たがいにかお見合みあわすようなことはおそらくありますまい。

いつか、あおそらのぼっていって、おたがいにこのなかてきた運命うんめいについて、かたよりはほかになかったのであります。

びんのなかから、天使てんしは、いえまえながれているちいさなかわをながめました。

みずうえを、ひかりがきらきららしていました。

やがてれました。

田舎いなかよるはまださむく、そして、さびしかった。

しかしけると、小鳥ことりれい木立こだちにきてさえずりました。

そのもいい天気てんきでした。

あちらのやまあたりはかすんでいます。

子供こどもらは、お菓子屋かしやまえにきてあそんでいました。

このとき、あめチョコの天使てんしは、あの子供こどもらは、あめチョコをって、自分じぶんをあの小川おがわながしてくれたら、自分じぶんみずのゆくままに、あちらのとおいかすみだった山々やまやまあいだながれてゆくものを空想くうそうしたのであります。

しかし、おかみさんが、いつかいったように、百姓ひゃくしょう子供こどもらは、十銭じゅっせんあめチョコをうことができませんでした。

なつになると、つばめがんできました。

そして、そのかわいらしい姿すがた小川おがわみずおもてうつしました。

またあつ日盛ひざかりごろ、旅人たびびと店先みせさきにきてやすみました。

そして、四方よもはなしなどをしました。

しかし、そのあいだだれもあめチョコをうものがありませんでした。

だから、天使てんしそらのぼることも、またここからほかへたびをすることもできませんでした。

月日つきひがたつにつれて、ガラスのびんはしぜんによごれ、また、ちりがかかったりしました。

あめチョコは、憂鬱ゆううつおくったのであります。

やがてまた、さむさにかいました。

そして、ふゆになると、ゆきはちらちらとってきました。

天使てんし田舎いなか生活せいかつきてしまいました。

しかし、どうすることもできませんでした。

やなかゆう
やなかゆう
飴チョコの賞味期限が非常に気になる
お菓子の空き箱がたどる切ない運命の話③【この文章は3分で読めます】小川未明作、「飴チョコの天使」の後編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 飴チョコの天使は、箱車を引く男の会話から何を知りましたか。
  2. 飴チョコの天使は、いつまでも駄菓子屋を出ること無く、憂鬱な日々を過ごしました。なぜ、駄菓子屋を出ることが出来なかったのでしょうか。

調べてみよう

  • “銭(せん)”とは、昔の通貨の単位です。“五銭”、“十銭”は今の単位に直すといくらになるでしょうか。

※もともと「せん」と読みましたが、後にそれが変化して「ぜに」と読むようにもなりました。単位だけでなく、お金そのものを指す言葉でもあります。

単語ピックアップ

1.卸す(おろす)

問屋が小売業者に商品を売り渡すこと。

2.憂鬱(ゆううつ)

気分が落ち込み、心が晴れないこと。

音読シートダウンロード

★この物語“飴チョコの天使②【中編】”の音読シートがダウンロードできます。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 飴チョコの天使が来た辺りの田や畑には、まだところどころ雪が残っているということ。
  2. だれも飴チョコを買おうとしなかったから。