- 読み応えのある話が読みたい。
- あまり知られていない作品を読みたい。
- 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
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前回までのあらすじ
城下へ炭を売りに行く途中、三人の百姓は美しい布に包まれた赤子を拾う。
赤子の腹には、胴巻きが巻きつけられており、その中にはたくさんの小判が入っていた。
はじめは全ての小判を預かろうとした伊助。しかし小判をめぐって多助と喧嘩になる。結局多助は伊助から小判を12枚受け取り、あとの小判は全て伊助が受け取る。
太郎右衛門は小判を1枚も受け取らず、赤子は子どものいない太郎右衛門が育てることになる。
赤子を家に連れて帰ると、太郎右衛門のお上さんは大喜びする。
そして、その日から二人は赤子を自分たちの子供のように大事に育てる。
太郎右衛門が赤子を拾ったという噂は、村中に広まり、村の上さんや子供たちが赤子を見に来る。
すると、あまりに美しい児なので、みんな驚き、「太郎右衛門はなんて仕合わせなんだ」と口々に言って帰っていった。
おはなしの始まりはここから
★この文章は5分で読めます
これまで太郎右衛門の家はただ正直だというだけで、村では一番貧乏で、一番馬鹿にされて暮らした家でしたが、子供を拾ってからは大変賑やかな幸福な家になっていました。
しかし太郎右衛門の家には田畑もないのに、子供が一人殖えたので、益々貧乏になりました。しかし太郎右衛門は一度も不平を言ったことがありません。
田を耕している時でも、山で炭を焼いている時でも、太郎右衛門は、子供のことを思い出すと、愉快で愉快でたまりませんでした。
「早く仕事を終えて子供の顔を見たいもんだ。」と心の中で思いながら仕事をしていました。
子供の名は、朝拾ったので、朝太郎とつけましたが、その朝太郎も、もう四歳になりました。顔立ちこそ美しいが、始終田畑や山へつれて行くので、色が真っ黒になって、百姓の子供として恥ずかしくないような顔になっていました。
無論着物なぞも、百姓の子供の着るようなものを着せていたので、ほんとに太郎右衛門夫婦の子供だと言っても、誰も不思議に思うものがない位でありました。
話変わって、あの太郎右衛門と一緒に子供を見つけた伊作と多助はどうしたでしょう?
伊作と多助はその後、だんだん仲が悪くなって、いつでも喧嘩ばかりしていました。
伊作はある年の夏、橋の袂に小さな居酒屋を拵えましたが、村には一軒も酒屋がなかったので、この居酒屋が大層繁盛してだんだん儲かって行きました。伊作は今では田を耕したり、炭を焼いたりしないでも、立派に食べて行かれるようになりました。
多助は、その頃村の外れに小さな水車小屋を持っていましたが、毎日伊作の店に寄っては酒を飲んだり、干し魚を食べたりして、少しも勘定を払わないので、それが基になって二人はいつでも喧嘩をしました。二人は喧嘩をしたかと思うと仲直りをし、仲直りをしたかと思うと、また喧嘩をしました。
村の人たちには、どうしてあんなに仲の好かった伊作と多助が、こんな喧嘩をするようになったのか誰も知りませんでした。
朝太郎が四歳になった秋の初めに、城下から代官様が大勢の家来に空籠を護らせて、この淋しい村へやって来ました。
村の人たちは肝をつぶして行列を見ていました。すると代官様の一行一は、庄屋長左衛門の家にどやどやと入りました。
庄屋は顔を真っ青にして代官様の前に出ました。
「まだ紅葉にはお早うございますが、一体どういう御用でおいでなさいましたか、どうぞ御用を仰せつけてください。」と庄屋は畳に頭をつけて挨拶しました。
すると、代官様は笑って、「実は、今日は妙な相談があって来たのだが、相談にのってくれるだろうかね?」と言いました。
長左衛門は、益々恐縮して、「これは誠に恐れ入ります。御代官様の御相談ならばどんなことでも御相手になりましょう。どうか何なりと仰せつけください。」と言いました。
「早速だが、この村に朝太郎という男の子がいるそうだが、その子供を貰い受ける訳には行かないだろうか?」と代官は言い出しました。
「さあ……」と言ったきり、長左衛門は何とも後の句が出なくなりました。何故といいますと太郎右衛門が朝太郎をこの上もなく愛しているのを、庄屋もよく知っていたからです。
「実は」と長左衛門は怖る怖る代官様の顔を見て、「あの子は訳あってあの太郎右衛門が拾い上げて、これまで育てて参りましたもので……」と言いかけた時、
代官様は、「それは、私も知っているのだ。知っているからこそお前に相談をするのだ。実はあの朝太郎というお子は、殿のお世継ぎの吉松様という方なのだ。さあ、こう申したら、お前もさぞ驚くだろうが、ちょっとした殿のお誤りから、あのお子が悪者の手にかかってお果てなされなければならない破目に立ち到ったのを、色々苦心の末に、この山奥にお捨て申して、律儀な百姓の手に御養育いたさせたのだ。その証拠はお子を拾い上げた者が所時しているはずだ。とにかく一刻も早く吉松殿にお目通りいたしたい。」と大変真面目な言葉で言いました。
庄屋の長左衛門も初めて事情が解ったので、早速太郎右衛門のところへ行って、神棚に入れて置いた書き物を出させ、太郎右衛門と朝太郎を同道して、代官様の前に表れました。
すると代官様と家来たちはちゃんと室の外までお出迎えして、朝太郎を床の間の前に座らせて、丁寧にお辞儀をしました。
太郎右衛門は、庄屋から大体の話はきいて来たようなもののこの有り様を見て、吃驚してしまいました。朝太郎は何も解らないので、みんなの顔をきょときょとと見廻しているばかりでした。
その日の夕方、日の陰る頃を見計らって朝太郎の吉松殿は、牡丹に丸の定紋のついた、立派な駕籠に乗せられて、城下の方へつれて行かれました。そして、その代わりに莫大な金が太郎右衛門夫婦に残されました。
「何てお目出たい話だ。お前のとこの朝太郎が殿様になるんじゃないか。」と庄屋の長左衛門が、駕籠の見えなくなった時、太郎右衛門に言いますと、太郎右衛門は目に涙を一杯溜めて、「何が目出たかべい……庄屋様、後生だわで、殿様がいやになったらいつでも遠慮なく家さ戻って来るように言ってやってくれべい!」と言って涙を止め処どなく流しました。
読了ワーク
思い出してみよう
- 伊作と多助が、喧嘩ばかりしていたのはなぜでしょうか。
- ある日、代官様と大勢の家来が村にやって来ました。その理由は何でしょうか。
- 代官様が村にやって来た日、貧乏だった太郎右衛門は代官様からたくさんのお金を貰いましたが、目にいっぱい涙を溜めて泣いていました。それはなぜでしょうか。
調べてみよう
- 『基』『元』『素』の違い、使い分けについて調べてみよう。
- “庄屋”とは何でしょうか。
単語ピックアップ
1.愉快(ゆかい)
楽しくて、心が浮き立つ様。
2.無論(むろん)
言うまでもないこと。
3.勘定(かんじょう)
①金銭を数えること。②代金を支払うこと。
4.律儀(りちぎ)
誠実で真面目であること。
5.同道(どうどう)
連れだって行くこと。
6.後生(ごしょう)
①死んだ後に生まれ変わること。または死後の世界のこと。②心を込めたお願いをきいて貰う際に言う言葉。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 伊作が作った居酒屋で、多助は毎日酒を飲んだり干し魚を食べたりしていたが、少しもお金を払おうとしなかったから。
- 太郎右衛門が育てている朝太郎を貰い受けるため。
- 自分の子供のように育てていた朝太郎がお城に連れて行かれてしまうから。