- 長めの話を少しずつ読みたい。
- 長い話を集中して読む練習をしたい。
- あまり知られていない話を読みたい。
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前回までのあらすじ
おはなしの始まりはここから
★この文章は4分で読めます
そのうちに、星の女には、つぎつぎに男の子が三人も生まれました。
星の女はその子たちが大きくなるのを、ただ一つの楽しみにして暮らしました。
その次には、可愛らしい女の子が生まれました。
星の女には、その女の子が可愛くって可愛くってたまりませんでした。
ある日、狩人の生まれた遠い町からはるばる使いが来ました。
狩人のお父さまが病気で死にかかっているという知らせです。
狩人はびっくりして、「私はこれからすぐに行かなければならない。」と言いました。
星の女はそれを聞いて、「でもその長い旅の途中で、悪い獣にお殺されになったらどうなさいます。」と言って泣きました。
狩人は星の女を宥めて、「そんな心配は決してない。私の父さまには私より外には子が一人もないのだから、どうしても私が行って、安らかに目を閉じさせてあげなければ可哀想だ。お弔いを済ませたら、すぐに帰って来る。どうぞ子どもたちと一緒に待っていておくれ。七日経ったら必ず帰って来る。」と言いました。
すると一番上の男の子が、「私は父さまと一緒に行って、お祖父さまを見てきたい。」と言いました。
狩人は、「お前はみんなと一緒に家にいて、泥棒の番をしておくれ。」と言いました。
男の子は、「それでは、この森の先まで一緒に行って、そこから帰って来るの。そして、母さまと一緒にお家の番をするの。」と言いました。
狩人は、その子をつれて森のはずれまで来ますと、「もうここからお帰り。これは家のお部屋中の鍵だから、おまえに預けておく。」と言って、鍵の束を渡しました。
そして、「よく言っておくが、どんなことがあっても、二階の小さいお部屋へは入ってはいけないよ。そのお部屋の鍵穴にこの金の鍵がはまるのだが、あそこだけは、決して開けてはいけないよ。」と、幾度も言って聞かせました。
男の子は分かった分かったと、頷きました。
狩人は、「では、なんにも怖いことは無いから、おとなしく待っておいで。」と言って、別れました。
男の子はまた森を通って、お家へ帰って見ますと、お母さまが戸口に立って、しくしく泣いています。
男の子は、「どうして泣いているの? 私が帰ったから、泥棒が来ても怖くはないでしょう?」と言いました。
するとお母さまは、「泥棒なんかはちっとも怖くはない。」と言いました。
「それでは何が悲しいの?」
「だって父さまは、もうここへ帰ってはいらっしゃらないんだもの。」
「ううん、そうじゃない。父さまはじき帰ると仰った。」
「それから私も、もうお家へ帰らなければならないのよ。帰ったら、もう二度と出ては来られない。」
お母さまはこう言って、またさめざめと泣きました。
男の子は、「そんなら私たち三人や、小さな赤ちゃんをみんな置いて行くの?」と聞きました。
星の女は、そう言われるとびっくりして、「いやいや、私はもうどんなことがあっても帰りはしない。安心しておいで。あの赤ん坊やおまえ達を置いて、どうして帰って行かれよう。」こう言って涙をふきました。
男の子はそれで安心して、みんなと一緒に遊びました。
するとその晩、男の子は、外の月の明かりの中で、誰かが美しい小鳥のような声で、しきりと何か言っているので目が覚めました。
聞いていると、その鳥のような声は、「蜘蛛の梯子が下りている、早く帰っておいでなさい。」ということを、悲しい節で歌っています。
そばで赤ん坊に添乳をしていた母さまは、「ねんねんよねんねんよ。この子は私のルビーだものを、この子を置いては帰れない。」という意味を歌いながら、赤ん坊の寝顔を見つめていました。
すると、外からは、「そんなら二人でお帰りなさい。ルビーを抱いて二人で。」と歌います。
お母さまは、しばらく黙っていました。そのうちに、外の声は、また、
「蜘蛛の梯子が下りている。おまえが七年いないとて、星の二人は泣いている。
と、また歌い出しました。赤ん坊はふと目を覚まして泣き出しました。
お母さまは、そっとそのお背中をたたいて、「ねんねんよ、ねんねんよ。帰れ帰れと言ったって、玉の飾りの着物がない。」と、悲しそうに歌いました。
赤ん坊はまたすやすやと眠りました。
それからしばらく、何の声もしませんでしたが、やがてまた外の月の明かりの中から、「鍵をお探しなさい。お前の着物の隠してある、小さなお部屋の金の鍵を。」と小さな美しい声で歌いました。
男の子は、その歌を聞いているうちに、いつの間にか、うとうとと眠ってしまいました。
そうするとその子の夢の中へ、二人の美しい女の人が出て来て、「いい子だから、二階のあのお部屋の戸を開けて下さい。そうすれば、おまえのお母さまはもう泣きはしないから。」と言いました。
男の子は朝、目が覚めると、お母さまに向かって、「私は昨夜、誰かがお母さまに早くお帰りお帰りと言って幾度も歌ったのを聞いた。」と言いました。
お母さまは、「おまえは夢でも見たのでしょう。」と言いました。そして、あとで一人でさめざめと泣きました。
男の子は、たしかに目を開けていて聞いたのですから、もし本当にお母さまが帰ってしまったらどうしようと思い、一日昨夜の歌のことばかり考えて暮らしました。
読了ワーク
思い出してみよう
- 遠い町から来た使いは、どんな理由で来ましたか。
- 狩人は何日経ったら必ず帰って来ると言いましたか。
- 星の女のお母さんが「おまえは夢でも見たのでしょう。」と言ったのは、何の話のことですか。
調べてみよう
- 『謡』と『歌』の違いは何でしょうか。
単語ピックアップ
1.弔い(とむらい)
①死を悲しみ、遺族を慰めること。②葬式
2.添乳(そえぢ)
添い寝した状態で、乳児に乳を飲ませること。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 狩人のお父さまが病気で死にかかっていることを知らせるため
- 七日経ったら
- 男の子が昨夜、誰かがお母さまに早くお帰りお帰りと言って幾度も歌ったのを聞いたこと