不思議な話 PR

結局は心持ちがすべてだよねと思う話①

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やなかゆう
やなかゆう
芥川龍之介作『杜子春①』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 少し長めで読み応えのある作品を少しずつ読みたい。
  • 異国情緒溢れる作品を読みたい。
  • 小学三年生くらいの子どもがひとりで読める作品を探している。

このおはなしの作者

芥川龍之介あくたがわりゅうのすけ(1892年~1927年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この文章は5分で読めます

或春あるはる日暮ひぐれです。

とうみやこ洛陽らくよう西にしもんしたに、ぼんやりそらあおいでいる、一人ひとり若者わかものがありました。

若者わかもの杜子春とししゅんといって、もと金持かねもちの息子むすこでしたが、いま財産ざいさん使つかくして、そのらしにもこまくらいあわれな身分みぶんになっているのです。

なにしろその頃洛陽ころらくようといえば、天下てんかならぶもののない、繁昌はんじょうきわめたみやこですから、往来おうらいにはまだひっきりなく、ひとくるまとおっていました。

もんいっぱいにたっている、あぶらのような夕日ゆうひひかりなかに、老人ろうじんのかぶったしゃ帽子ぼうしや、土耳古とるこおんなきん耳環みみわや、白馬しろうまかざった色糸いろいと手綱たづなが、えずながれて容子ようすは、まるでのようなうつくしさです。

しかし杜子春とししゅん相変あいかわらず、もんかべもたせて、ぼんやりそらばかりながめていました。

そらには、もうほそつきが、うらうらとなびいたかすみなかに、まるでつめあとかとおもほど、かすかにしろかんでいるのです。

れるし、はらるし、そのうえもうどこへっても、めてくれるところはなさそうだし――こんなおもいをしてきているくらいなら、いっそかわへでもげて、んでしまったほうがましかもれない」

杜子春とししゅんはひとりさっきから、こんなりとめもないことをおもいめぐらしていたのです。

するとどこからやってたか、突然とつぜんかれまえあしめた、片目眇かためすが老人ろうじんがあります。

それが夕日ゆうひひかりびて、おおきなかげもんとすと、じっと杜子春とししゅんかおながら、「おまえなにかんがえているのだ。」と、横柄おうへいこえをかけました。

わたしですか。わたし今夜寝こんやねところもないので、どうしたものかとかんがえているのです。」

老人ろうじんたずかたきゅうでしたから、杜子春とししゅんはさすがにせて、おもわず正直しょうじきこたえをしました。

「そうか。それは可哀かわいそうだな。」

老人ろうじんしばら何事なにごとかんがえているようでしたが、やがて、往来おうらいにさしている夕日ゆうひひかりゆびさしながら、

「ではおれがいことをひとおしえてやろう。いまこの夕日ゆうひなかって、おまえかげうつったら、そのあたまたるところ夜中よなかってるがい。きっとくるまにいっぱいの黄金おうごんまっているはずだから。」

「ほんとうですか。」

杜子春とししゅんおどろいて、せていたげました。

ところがさら不思議ふしぎなことには、あの老人ろうじんはどこへったか、もうあたりにはそれらしい、かげかたち見当みあたりません。

そのわりそらつきいろまえよりもなおしろくなって、やすみない往来おうらい人通ひとどおりのうえには、もうはや蝙蝠こうもり二三匹にさんびきひらひらっていました。

杜子春とししゅん一日いちにちうちに、洛陽らくようみやこでも唯一人ただひとりという大金持おおがねもちになりました。

あの老人ろうじん言葉通ことばどおり、夕日ゆうひかげうつしてて、そのあたまたるところを、夜中よなかにそっとってたら、おおきなくるまにもあまくらい黄金おうごん一山出ひとやまでたのです。

大金持おおがねもちになった杜子春とししゅんは、すぐに立派りっぱうちって、玄宗皇帝げんそうこうていにもけないくらい贅沢ぜいたくらしをしはじめました。

蘭陵らんりょうさけわせるやら、桂州けいしゅう竜眼肉りゅうがんにくをとりよせるやら、四度よたびいろわる牡丹ぼたんにわえさせるやら、白孔雀しろくじゃく何羽なんわはないにするやら、たまあつめるやら、にしきわせるやら、香木こうぼくくるまつくらせるやら、象牙ぞうげ椅子いすあつらえるやら、その贅沢ぜいたく一々いちいちいていては、いつになってもこのはなしがおしまいにならないくらいです。

するとこういううわさいて、いままではみちっても、挨拶あいさつさえしなかったともだちなどが、朝夕遊あさゆうあそびにやってました。

それも一日毎いちにちごとかずして、半年はんとしばかりうちには、洛陽らくようみやこられた才子さいし美人びじんおおなかで、杜子春とししゅんいえないものは、一人ひとりもないくらいになってしまったのです。

杜子春とししゅんはこの御客おきゃくたちを相手あいてに、毎日酒盛まいにちさかもりをひらきました。その酒盛さかもりの又盛またさかんなことは、中々なかなかくちにはくされません。

ごくかいつまんだだけをおはなししても、杜子春とししゅんきんさかずき西洋せいようから葡萄酒ぶどうしゅんで、天竺てんじくまれの魔法使まほうつかいがかたなんでせるげいとれていると、そのまわりには二十人にじゅうにんおんなたちが、十人じゅうにん翡翠ひすいはすはなを、十人じゅうにん瑪瑙めのう牡丹ぼたんはなを、いずれもかみかざりながら、ふえこと節面白ふしおもしろそうしているという景色けしきなのです。

しかしいくら大金持おおがねもちでも、御金おかねには際限さいげんがありますから、さすがに贅沢ぜいたく杜子春とししゅんも、一年二年いちねんにねんうちには、だんだん貧乏びんぼうになりしました。

そうすると人間にんげん薄情はくじょうなもので、昨日きのうまでは毎日来まいにちきともだちも、今日きょうもんまえとおってさえ、挨拶一あいさつひとつしてきません。

ましてとうとう三年目さんねんめはる又杜子春またとししゅん以前いぜんとおり、一文無いちもんなしになってると、ひろ洛陽らくようみやこなかにも、かれ宿やどそうといういえは、一軒いっけんもなくなってしまいました。いや、宿やどすどころか、いまではわん一杯いっぱいみずも、めぐんでくれるものはないのです。

そこでかれ或日あるひ夕方ゆうがた、もう一度いちどあの洛陽らくよう西にしもんしたって、ぼんやりそらながめながら、途方とほうれてっていました。

するとやはりむかしのように、片目眇かためすが老人ろうじんが、どこからか姿すがたあらわして、「おまえなにかんがえているのだ。」と、こえをかけるではありませんか。

杜子春とししゅん老人ろうじんかおると、ずかしそうにしたいたまま、しばらくは返事へんじもしませんでした。

が、老人ろうじんはその親切しんせつそうに、おな言葉ことばかえしますから、こちらもまえおなじように、「わたし今夜寝こんやねところもないので、どうしたものかとかんがえているのです。」と、おそおそ返事へんじをしました。

「そうか。それは可哀かわいそうだな。ではおれがいことをひとおしえてやろう。いまこの夕日ゆうひなかって、おまえかげうつったら、そのむねたるところを、夜中よなかってるがい。きっとくるまにいっぱいの黄金おうごんまっているはずだから。」

老人ろうじんはこうったとおもうと、今度こんどもまたひとごみのなかへ、すようにかくれてしまいました。

杜子春とししゅんはその翌日よくじつから、たちま天下第一てんかだいいち大金持おおがねもちにかえりました。

同時どうじ相変あいかわらず、仕放題しほうだい贅沢ぜいたくをしはじめました。

にわいている牡丹ぼたんはな、そのなかねむっている白孔雀しろくじゃく、それからかたなんでせる、天竺てんじくから魔法使まほうつかい――すべてがむかしとおりなのです。

ですからくるまにいっぱいにあった、あのおびただしい黄金おうごんも、又三年またさんねんばかりうちには、すっかりなくなってしまいました。

片目眇かためすがについて・・・片目が細い目である状態のことを表す言葉。この身体的な特徴を表す言葉は、時として人を侮辱し、傷つける差別的な表現として、現代では不適切に感じられる箇所です。

結局は心持ちがすべてだよねと思う話②【この文章は5分で読めます】芥川龍之介作、「杜子春」の第二話です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 杜子春は、ぼんやり空ばかり眺めながら、何を思っていたのでしょうか。
  2. 貧乏だった杜子春は、一日で大金持ちになりました。それはどうしてでしょうか。
  3. 大金持ちになった杜子春ですが、一年、二年と経つ内に貧乏になってきました。それはどうしてでしょうか。

調べてみよう

  1. 『繁昌』と『繁盛』の違いは何でしょうか。
  2. “紗の帽子”とは、どんな素材で作られた、どんな帽子でしょうか。
  3. 『容子』と『様子』の違いは何でしょうか。
  4. 『路』と『道』の違いは何でしょうか。

単語ピックアップ

1.横柄(おうへい)

礼儀にはずれた、いばった態度のこと。

2.際限(さいげん)

時が経過し、変わりゆく状態の最後のところ。かぎり。果て。

3.贅沢(ぜいたく)

ある物事に、必要以上に金銭や物をつぎ込むこと。

4.薄情(はくじょう)

人情に薄く、思いやりの気持ちが無いこと。

5.夥しい(おびただしい)

量や数がとても多いこと

音読シートダウンロード

★この物語“杜子春①”の音読シートがダウンロードできます。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 日は暮れるし、腹は減るし、泊めてくれる所もなさそうなので、こんな思いをして生きている位なら、いっそ川に身を投げて、死んでしまった方がましかも知れないと思っていた。
  2. 杜子春に声をかけてきた老人の言う通りにし、たくさんの黄金を手に入れたから。
  3. 毎日贅沢をして過ごしていたから。