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気が利かなかったばっかりにとんでもない目に遭ったくらげの話①

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やなかゆう
やなかゆう
楠山正雄作『くらげのお使い①【前編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • あまり知られていない日本昔話を読みたい。
  • 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

楠山正雄くすやままさお(1884年~1950年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この文章は4分で読めます

むかし、むかし、うみそこ竜王りゅうおうとおきさきがりっぱな御殿ごてんをこしらえてんでいました。

うみなかのおさかなというおさかなは、みんな竜王りゅうおう威勢いせいにおそれてその家来けらいになりました。

あるとき竜王りゅうおうのおきさきが、たいそうおも病気びょうきになりました。

いろいろをつくして、くすりというくすりんでみましたが、ちっともきめがありません。

そのうちだんだんにからだよわって、今日きょう明日あすれないようなむずかしい容体ようだいになりました。

竜王りゅうおうはもう心配しんぱい心配しんぱいで、たまりませんでした。

そこでみんなをあつめて「いったいどうしたらいいだろう。」と相談そうだんをかけました。

みんなも「さあ。」とってかお見合みあわせていました。

するとそのときはるかしもほうからたこの入道にゅうどう八本足はちほんあしでにょろにょろてきて、

おそるおそる、「わたくしは始終しじゅうおかて、人間にんげんやいろいろのおかけものたちのはなしいておりますが、なんでもさるぎもが、こういうときにはいちばんきめがあるそうでございます。」といました。

「それはどこにある。」

「ここからみなみほうさるしまというところがございます。そこにはさるがたくさんんでおりますから、どなたかお使つかいをおやりになって、さる一匹いっぴきおつかまえさせになれば、よろしゅうございます。」

「なるほど。」

そこでだれをこのお使つかいにやろうかという相談そうだんになりました。

するとたいのうことに、「それはくらげがよろしゅうございましょう。あれはかたちはみっともないやつでございますが、あしがあって、自由じゆうおかうえあるけるのでございます。」

そこでくらげがされて、お使つかいにくことになりました。

けれどいったいあまりいたおさかなでないので、竜王りゅうおうからいつけられても、どうしていいかこまりきってしまいました。

くらげはみんなをつかまえて、かたっぱしからきはじめました。

「いったいさるというのはどんなかたちをしたものでしょう。」

「それはまっかおをして、まっなおしりをして、よくうえがっていて、たいへんくりかききなものだよ。」

「どうしたらそのさるがつかまるでしょう。」

「それはうまくだますのさ。」

「どうしてだましたらいいでしょう。」

「それはなんでもさるりそうなことをって、竜王りゅうおうさまの御殿ごてんのりっぱで、うまいもののたくさんあるはなしをして、さるたがるようなはなしをするのさ。」

「でもどうしてうみなかさるれてましょう。」

「それはおまえがおぶってやるのさ。」

「ずいぶんおもいでしょうね。」

「でもしかたがない。それはがまんするさ。そこが奉公ごほうこうだ。」

「へい、へい、なるほど。」

そこでくらげは、ふわりふわりうみなかかんで、さるしまほうおよいできました。

やがてこうにひとつのしまえました。

くらげは「あれがきっとさるしまだな。」とおもいながら、やがてしまおよぎつきました。

おかがってきょろきょろまわしていますと、そこのまつえだにまっかおをして、まっなおしりをしたものがまたがっていました。

くらげは、「ははあ、あれがさるだな。」とおもって、なにくわないかおで、そろそろとそばへよって、

さるさん、さるさん、今日こんにちは、いいお天気てんきですね。」

「ああ、いいお天気てんきだ。だがおまえさんはあまりみかけないひとだが、どこからたのだね。」

「わたしはくらげといって竜王りゅうおう家来ごけらいさ。今日きょうはあんまりお天気てんきがいいので、うかうかこのへんまであそびにたのですが、なるほどこのさるしまはいいところですね。」

「うん、それはいいところだとも。このとおり景色けしきはいいし、くりかきはたくさんあるし、こんないいところほかにはあるまい。」

こうってさるひくはな一生懸命いっしょうけんめいたかくして、とくいらしいかおをしますと、くらげはわざと、さもおかしくってたまらないというようにわらしました。

「はっは、そりゃさるしまはいいところにはちがいないが、でも竜宮りゅうぐうとはくらべものにならないね。さるさんはまだ竜宮りゅうぐうらないものだから、そんなことっていばっておいでだけれど、そんなことをいうひと一度いちど竜宮りゅうぐうせてげたいものだ。どこもかしこも金銀きんぎんやさんごでできていて、おにわには一年中いちねんじゅうくりかきやいろいろの果物くだものが、りきれないほどなっていますよ。」

こうわれるとさるはだんだんしてきました。そしてとうとうからりてきて、

「ふん、ほんとうにそんないいところなら、わたしもってみたいな。」といました。

くらげはこころなかで、「うまくいった。」とおもいながら、

「おいでになるなら、わたしがれてってげましょう。」

「だってわたしはおよげないからなあ。」

大丈夫だいじょうぶ、わたしがおぶっていってげますよ。だから、さあ、きましょう、きましょう。」

「そうかい。それじゃあ、たのむよ。」

と、とうとうさるはくらげの背中せなかりました。

さる背中せなかせると、くらげはまたふわりふわりうみうえおよいで、こんどはきたきたへとかえっていきました。

気が利かなかったばっかりにとんでもない目に遭ったくらげの話②【この文章は4分で読めます】楠山正雄作、「くらげのお使い」の後編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 重い病気にかかってしまったお后。たこの入道は何だったら効くかもしれないと話していましたか。
  2. 猿とはどんな形をしたものだと話していましたか。
  3. くらげの話に、猿は竜宮に興味を持ちました。くらげは竜宮はどんなところだと話しましたか。

調べてみよう

  1. 『后』と『妃』の違いはなんでしょう。
  2. “たこの入道”の意味について調べてみよう。

単語ピックアップ

1.威勢(いせい)

(人を)恐れ従わせる力。活気のある勢い。

2.家来(けらい)

主人・主君に仕える者、従者。

3.容体(ようだい)

すがたかたち。体の状態(主に健康状態を指す)。

4.気が利く(きがきく)

細かいところまで注意が行き届き、配慮ができること。機転がきくこと。

5.奉公(ほうこう)

他人の家に雇われて、家事・家業等に従事すること。主君のために働き尽くすこと。

注目★四字熟語

一生懸命(いっしょうけんめい)

命がけで物事に当たること。本気で物事に取り組む様。

音読シートダウンロード

★この物語“くらげのお使い①【前編】”の音読シートがダウンロードできます。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 猿の生き肝。
  2. まっ赤な顔とお尻で、よく木の上に上がり、栗や柿が好きなもの。
  3. どこもかしこも金銀やさんごでできていて、庭には一年中栗や柿やいろいろの果物が取りきれないほどなっているところ。