- あまり知られていない日本昔話を読みたい。
- 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
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★この文章は4分で読めます
むかし、むかし、海の底に竜王とお后がりっぱな御殿をこしらえて住んでいました。
海の中のお魚というお魚は、みんな竜王の威勢におそれてその家来になりました。
ある時竜王のお后が、たいそう重い病気になりました。
いろいろ手をつくして、薬という薬を飲んでみましたが、ちっとも効きめがありません。
そのうちだんだんに体が弱って、今日明日も知れないようなむずかしい容体になりました。
竜王はもう心配で心配で、たまりませんでした。
そこでみんなを集めて「いったいどうしたらいいだろう。」と相談をかけました。
みんなも「さあ。」と言って顔を見合わせていました。
するとその時はるか下の方からたこの入道が八本足でにょろにょろ出てきて、
おそるおそる、「わたくしは始終陸へ出て、人間やいろいろの陸の獣たちの話も聞いておりますが、何でも猿の生き肝が、こういう時にはいちばん効きめがあるそうでございます。」と言いました。
「それはどこにある。」
「ここから南の方に猿が島という所がございます。そこには猿がたくさん住んでおりますから、どなたかお使いをおやりになって、猿を一匹おつかまえさせになれば、よろしゅうございます。」
「なるほど。」
そこでだれをこのお使いにやろうかという相談になりました。
するとたいの言うことに、「それはくらげがよろしゅうございましょう。あれは形はみっともないやつでございますが、四つ足があって、自由に陸の上が歩けるのでございます。」
そこでくらげが呼び出されて、お使いに行くことになりました。
けれどいったいあまり気の利いたおさかなでないので、竜王から言いつけられても、どうしていいか困りきってしまいました。
くらげはみんなをつかまえて、片っぱしから聞きはじめました。
「いったい猿というのはどんな形をしたものでしょう。」
「それはまっ赤な顔をして、まっ赤なお尻をして、よく木の上に上がっていて、たいへん栗や柿の好きなものだよ。」
「どうしたらその猿がつかまるでしょう。」
「それはうまくだますのさ。」
「どうしてだましたらいいでしょう。」
「それは何でも猿の気に入りそうなことを言って、竜王さまの御殿のりっぱで、うまいもののたくさんある話をして、猿が来たがるような話をするのさ。」
「でもどうして海の中へ猿を連れて来ましょう。」
「それはお前がおぶってやるのさ。」
「ずいぶん重いでしょうね。」
「でもしかたがない。それはがまんするさ。そこが御奉公だ。」
「へい、へい、なるほど。」
そこでくらげは、ふわりふわり海の中に浮かんで、猿が島の方へ泳いで行きました。
やがて向こうに一つの島が見えました。
くらげは「あれがきっと猿が島だな。」と思いながら、やがて島に泳ぎつきました。
陸へ上がってきょろきょろ見まわしていますと、そこの松の木の枝にまっ赤な顔をして、まっ赤なお尻をしたものがまたがっていました。
くらげは、「ははあ、あれが猿だな。」と思って、何くわない顔で、そろそろとそばへよって、
「猿さん、猿さん、今日は、いいお天気ですね。」
「ああ、いいお天気だ。だがお前さんはあまりみかけない人だが、どこから来たのだね。」
「わたしはくらげといって竜王の御家来さ。今日はあんまりお天気がいいので、うかうかこの辺まで遊びに来たのですが、なるほどこの猿が島はいい所ですね。」
「うん、それはいい所だとも。このとおり景色はいいし、栗や柿の実はたくさんあるし、こんないい所は外にはあるまい。」
こう言って猿が低い鼻を一生懸命高くして、とくいらしい顔をしますと、くらげはわざと、さもおかしくってたまらないというように笑い出しました。
「はっは、そりゃ猿が島はいい所にはちがいないが、でも竜宮とはくらべものにならないね。猿さんはまだ竜宮を知らないものだから、そんなこと言っていばっておいでだけれど、そんなことをいう人に一度竜宮を見せて上げたいものだ。どこもかしこも金銀やさんごでできていて、お庭には一年中栗や柿やいろいろの果物が、取りきれないほどなっていますよ。」
こう言われると猿はだんだん乗り出してきました。そしてとうとう木から下りてきて、
「ふん、ほんとうにそんないい所なら、わたしも行ってみたいな。」と言いました。
くらげは心の中で、「うまくいった。」と思いながら、
「おいでになるなら、わたしが連れて行って上げましょう。」
「だってわたしは泳げないからなあ。」
「大丈夫、わたしがおぶっていって上げますよ。だから、さあ、行きましょう、行きましょう。」
「そうかい。それじゃあ、頼むよ。」
と、とうとう猿はくらげの背中に乗りました。
猿を背中に乗せると、くらげはまたふわりふわり海の上を泳いで、こんどは北へ北へと帰っていきました。
読了ワーク
思い出してみよう
- 重い病気にかかってしまったお后。たこの入道は何だったら効くかもしれないと話していましたか。
- 猿とはどんな形をしたものだと話していましたか。
- くらげの話に、猿は竜宮に興味を持ちました。くらげは竜宮はどんなところだと話しましたか。
調べてみよう
- 『后』と『妃』の違いはなんでしょう。
- “たこの入道”の意味について調べてみよう。
単語ピックアップ
1.威勢(いせい)
(人を)恐れ従わせる力。活気のある勢い。
2.家来(けらい)
主人・主君に仕える者、従者。
3.容体(ようだい)
すがたかたち。体の状態(主に健康状態を指す)。
4.気が利く(きがきく)
細かいところまで注意が行き届き、配慮ができること。機転がきくこと。
5.奉公(ほうこう)
他人の家に雇われて、家事・家業等に従事すること。主君のために働き尽くすこと。
注目★四字熟語
一生懸命(いっしょうけんめい)
命がけで物事に当たること。本気で物事に取り組む様。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 猿の生き肝。
- まっ赤な顔とお尻で、よく木の上に上がり、栗や柿が好きなもの。
- どこもかしこも金銀やさんごでできていて、庭には一年中栗や柿やいろいろの果物が取りきれないほどなっているところ。