不思議な話 PR

空の世界に帰れなくなってしまった女の話③

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やなかゆう
やなかゆう
鈴木三重吉作『星の女③』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 長めの話を少しずつ読みたい。
  • 長い話を集中して読む練習をしたい。
  • あまり知られていない話を読みたい。

このおはなしの作者

鈴木三重吉(1882年~1936年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この文章は5分で読めます

その夕方ゆうがたおとこは、昨夜ゆうべ二人ふたりおんなひとが、あの二階にかい部屋へやければおかあさまはもうきはしないとったのをおもしました。

そして、そうすればおかあさまは、もううちへもかえりはしないだろうとおもいました。

そのときおかあさまは、した二人ふたりおとこあかぼうとに水浴みずあびをさせに、いずみっていました。

おとこは、いそいで二階にかいがって、ちいさなきんかぎで、そこの部屋へやけました。

そうするとその部屋へやなかには、きんぎんいとった、色々いろいろ宝石ほうせきかざりのついた、きれいな着物きものがかけてありました。

おろしてますと、その着物きものむねのところには、おおきなルビーがついていました。

かざりの宝石ほうせきもそのルビーも、ちようどよるそらほしのように、きらきらとまぶしくひかります。

おとこはびっくりして、その着物きものをおかあさまにせようとおもってってりました。

しばらくするとおかあさまは、二人ふたりおとこと、あかぼうとをれてかえってました。

おとこは、「かあさまかあさま、こんなきれいな着物きもの二階にかいにありました。てごらんなさい。」といました。

かあさまは、それをると、うれしそうにほほんで、すぐにからだにつけました。

どもたちは、おかあさまがその着物きものて、きれいなおかあさまになったものですから、よろこんでおどりまわりました。

おとこは、「とうさまがかえるまで、毎晩まいばんしてあげる。そしてとうさまがかえったら、わたしたのんで、もらってあげる。」といました。

かあさまは、「今晩こんばんあかちゃんをかせるまでしといておくれね。」といました。

おとこは、「それまでていらっしゃい。」といました。

おとこはそのばんは、いつまでもねむらないで、寝床ねどこけていました。

そうすると、もなくまた、そとつきかりのなかから、うつくしいこえで、

蜘蛛くも梯子はしごりている。

おまえが七年ななねんいないとて、

二人ふたりほしいている。」

と、小鳥ことりのようなうつくしいこえうたうのがこえてきました。

それから、しばらくなんこえもしませんでしたが、今度こんどは、あかぼう添乳そえぢをしていたおかあさまが、「ねんねんよ、ねんねんよ。わたし可愛かわいいルビーを、どうしていてかれよう。」と、うたいました。

おとこいているうちに、ひとりでにうとうととねむくなって、おかあさまのこえがだんだんにとおくのほうってしまうようながしました。

そしてそれきり、おさまがるまで、ぐっすりてしまいました。

おとこあさまして、昨夜ゆうべうたのことをおうとおもって、おかあさまをさがしますと、おかあさまはどこにもいません。

おとこは、「それでは、睡蓮すいれんいずみったのだろう。」とおもって、そちらへさがしにきましたが、おかあさまはやっぱりそこにもいませんでした。

それでまたうちかえってますと、おかあさまばかりでなく、ちいさなあかぼうもいなくなっていました。

おとこは、「これはきっと、わる泥棒どろぼうが、おかあさまとあかぼうをさらってったのにちがいない。一昨日おとといばんからのうつくしいうたは、きっと、泥棒どろぼうかあさまをだましてそうとおもってうたったのだ。」とおもいました。

ると、おかあさまにしてあげた、あのたまかざりのいた、きらきらした着物きものもありません。

した二人ふたりどもは、かあさまがいない、かあさまがいない、とってしました。

おとこ二人ふたりなだめてもりなかさがしてまわりましたが、どこまでってても、おかあさまはいませんでした。

二人ふたりどもは、「かあさまがいないからこわい。かあさまがいないからこわい。」とって、どんなにだましてもかないで、一日いちにちおんおんいてこまらせました。

おとこもしまいには、「かあさま、かえってきてよ。かあさま、かえってきてよう。」とってきました。

二人ふたりどもは、おなかがすいてたまらないものですから、余計よけいにわあわあきました。

おとこは、そのうちにふと、おとうさまからあれほどきびしくめられていたことをおもして、

「ああ、しまったことをした。とうさまのうことをかないで、二階にかい部屋へやけたので、あのうつくしいたまかざりの着物きものまでくなってしまった。とうさまがかえったら、なんおう、かあさまや、あかぼうがいなくなったのも、きっとわたしとうさまのったことにそむいたばちちがいない。」

こうおもうと、もっともっとかなしくなりました。

もなくれて、うつくしい月夜つきよになりました。

おとこ二人ふたりどもを寝床ねどこかせようとしていますと、ふと入口いりぐちいて、おかあさまが、昨夜ゆうべたまかざりの着物きものかえってました。

した二人ふたりどもは、大喜おおよろこびで、おかあさまにびつきました。

かあさまがいないからこわかった。」「わたしこわかった。」と二人ふたりわるわるいました。

かあさまは、「もうわたしがついているから、なんにもこわいことはありません。それよりも、みんなさぞおなかいたでしょう。さあこれをおあがりなさい。」とって、大空おおぞらからってた、おいしい果物くだものけてやりました。

二人ふたりどもはうれしがって、どんどんべました。

しかし一番いちばんうえおとこは、それをべようともしないで、「かあさま、あかぼうはどこへったの。かあさまはわたしたちをいてきはしないとったのに、どうしてよそへったの。」ときました。

かあさまは、「あかぼうわたし二人ふたりのおねえさまのそばでています。わたしはこれからすぐにまたおうちかえって、とおくからていてあげるから、みんなでおとなしくおねんねをするのよ。また明日あすばん美味おいしいものをっててあげるから。」といました。

おとこは、「それではそのたま着物きものいでってね。とうさまが、あのお部屋へやけてはいけないとったのに、わたしけてしたのだから、とうさまにしかられる。とうさまがかえったら、わたしがねだって、もらってあげる。」といました。

かあさまは、「そんなことはいいから、はやくこの果物くだものをおがり。」といました。

おとこはそうわれたので安心あんしんして、おかあさまとならんで、その美味おいしい果物くだものべました。

そうすると、だんだんにきんかぎのこともたまかざりの着物きもののこともみんなわすれてしまいました。

そしておかあさまがうつくしい着物きものて、うつくしいひとになっているのが、うれしくてたまりませんでした。

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 男の子はなぜ二階の部屋を開けたのでしょうか。
  2. 男の子が開けた二階の部屋には何がありましたか。
  3. 男の子と二人の子どもの前からいなくなった星の女。いない間、どこにいたと予測できますか。

調べてみよう

  • 『罰』には「ばつ」と「ばち」の2つの読み方があります。それぞれの読み方の使い分けについて調べてみましょう。

単語ピックアップ

1.宥める(なだめる)

不満や不安な気持ちを落ち着かせ、鎮めること。

2.背く(そむく)

言いつけや約束に従わないこと。逆らうこと。

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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 昨夜二人の女の人が、二階の部屋を開ければお母さまはもう泣きはしないと言っていたのを思い出したから
  2. 金と銀の糸で織った、色々の宝石の飾りのついた、きれいな着物
  3. 星の女が元々住んでいた空の世界