- 長めの話を少しずつ読みたい。
- 長い話を集中して読む練習をしたい。
- あまり知られていない話を読みたい。
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おはなしの始まりはここから
★この文章は5分で読めます
その夕方、男の子は、昨夜二人の女の人が、あの二階の部屋を開ければお母さまはもう泣きはしないと言ったのを思い出しました。
そして、そうすればお母さまは、もう家へも帰りはしないだろうと思いました。
そのときお母さまは、下の二人の男の子と赤ん坊とに水浴びをさせに、泉へ行っていました。
男の子は、いそいで二階へ上がって、小さな金の鍵で、そこの部屋の戸を開けました。
そうするとその部屋の中には、金と銀の糸で織った、色々の宝石の飾りのついた、きれいな着物がかけてありました。
おろして見ますと、その着物の胸のところには、大きなルビーがついていました。
飾りの宝石もそのルビーも、ちようど夜の空の星のように、きらきらとまぶしく光ります。
男の子はびっくりして、その着物をお母さまに見せようと思って持って下りました。
しばらくするとお母さまは、二人の男の子と、赤ん坊とを連れて帰って来ました。
男の子は、「母さま母さま、こんなきれいな着物が二階にありました。着てごらんなさい。」と言いました。
お母さまは、それを見ると、嬉しそうにほほ笑んで、すぐに体につけました。
子どもたちは、お母さまがその着物を着て、きれいなお母さまになったものですから、喜んで踊りまわりました。
男の子は、「父さまが帰るまで、毎晩貸してあげる。そして父さまが帰ったら、私が頼んで、もらってあげる。」と言いました。
お母さまは、「今晩赤ちゃんを寝かせるまで貸しといておくれね。」と言いました。
男の子は、「それまで着ていらっしゃい。」と言いました。
男の子はその晩は、いつまでも眠らないで、寝床で目を開けていました。
そうすると、間もなくまた、外の月の明かりの中から、美しい声で、
「蜘蛛の梯子が下りている。
おまえが七年いないとて、
二人の星は泣いている。」
と、小鳥のような美しい声で歌うのが聞こえてきました。
それから、しばらく何の声もしませんでしたが、今度は、赤ん坊に添乳をしていたお母さまが、「ねんねんよ、ねんねんよ。私の可愛いルビーを、どうして置いて行かれよう。」と、歌いました。
男の子は聞いているうちに、ひとりでにうとうとと眠くなって、お母さまの声がだんだんに遠くの方へ行ってしまうような気がしました。
そしてそれきり、お日さまが出るまで、ぐっすり寝てしまいました。
男の子は朝、目を覚まして、昨夜の歌のことを言おうと思って、お母さまを探しますと、お母さまはどこにもいません。
男の子は、「それでは、睡蓮の泉へ行ったのだろう。」と思って、そちらへ探しに行きましたが、お母さまはやっぱりそこにもいませんでした。
それでまた家へ帰って見ますと、お母さまばかりでなく、小さな赤ん坊もいなくなっていました。
男の子は、「これはきっと、悪い泥棒が、お母さまと赤ん坊をさらって行ったのにちがいない。一昨日の晩からの美しい歌は、きっと、泥棒が母さまをだまして連れ出そうと思って歌ったのだ。」と思いました。
見ると、お母さまに貸してあげた、あの玉の飾りの付いた、きらきらした着物もありません。
下の二人の子どもは、母さまがいない、母さまがいない、と言って泣き出しました。
男の子は二人を宥めて、森の中を探してまわりましたが、どこまで行って見ても、お母さまはいませんでした。
二人の子どもは、「母さまがいないから怖い。母さまがいないから怖い。」と言って、どんなにだましても聞かないで、一日おんおん泣いて困らせました。
男の子もしまいには、「母さま、帰ってきてよ。母さま、帰ってきてよう。」と言って泣きました。
二人の子どもは、お腹がすいてたまらないものですから、余計にわあわあ泣きました。
男の子は、そのうちにふと、お父さまからあれほど厳しく止められていたことを思い出して、
「ああ、しまったことをした。父さまの言うことを聞かないで、二階の部屋の戸を開けたので、あの美しい玉の飾りの着物まで無くなってしまった。父さまが帰ったら、何と言おう、母さまや、赤ん坊がいなくなったのも、きっと私が父さまの言ったことに背いた罰に違いない。」
こう思うと、もっともっと悲しくなりました。
間もなく日が暮れて、美しい月夜になりました。
男の子は二人の子どもを寝床へ寝かせようとしていますと、ふと入口の戸が開いて、お母さまが、昨夜の玉の飾りの着物を着て帰って来ました。
下の二人の子どもは、大喜びで、お母さまに飛びつきました。
「母さまがいないから怖かった。」「私も怖かった。」と二人は代わる代わる言いました。
お母さまは、「もう私がついているから、何にも怖いことはありません。それよりも、みんなさぞお腹が空いたでしょう。さあこれをおあがりなさい。」と言って、大空から持って来た、おいしい果物を分けてやりました。
二人の子どもは嬉しがって、どんどん食べました。
しかし一番上の男の子は、それを食べようともしないで、「母さま、赤ん坊はどこへ行ったの。母さまは私たちを置いて行きはしないと言ったのに、どうしてよそへ行ったの。」と聞きました。
お母さまは、「赤ん坊は私の二人のお姉さまのそばで寝ています。私はこれからすぐにまたお家へ帰って、遠くから見ていてあげるから、みんなでおとなしくおねんねをするのよ。また明日の晩も美味しいものを持って来てあげるから。」と言いました。
男の子は、「それではその玉の着物を脱いで行ってね。父さまが、あのお部屋を開けてはいけないと言ったのに、私が開けて出したのだから、父さまに叱られる。父さまが帰ったら、私がねだって、もらってあげる。」と言いました。
お母さまは、「そんなことはいいから、早くこの果物をお上がり。」と言いました。
男の子はそう言われたので安心して、お母さまと並んで、その美味しい果物を食べました。
そうすると、だんだんに金の鍵のことも玉の飾りの着物のこともみんな忘れてしまいました。
そしてお母さまが美しい着物を着て、美しい人になっているのが、嬉しくてたまりませんでした。
読了ワーク
思い出してみよう
- 男の子はなぜ二階の部屋を開けたのでしょうか。
- 男の子が開けた二階の部屋には何がありましたか。
- 男の子と二人の子どもの前からいなくなった星の女。いない間、どこにいたと予測できますか。
調べてみよう
- 『罰』には「ばつ」と「ばち」の2つの読み方があります。それぞれの読み方の使い分けについて調べてみましょう。
単語ピックアップ
1.宥める(なだめる)
不満や不安な気持ちを落ち着かせ、鎮めること。
2.背く(そむく)
言いつけや約束に従わないこと。逆らうこと。
音読シートダウンロード
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 昨夜二人の女の人が、二階の部屋を開ければお母さまはもう泣きはしないと言っていたのを思い出したから
- 金と銀の糸で織った、色々の宝石の飾りのついた、きれいな着物
- 星の女が元々住んでいた空の世界