- 長めの話を少しずつ読みたい。
- 長い話を集中して読む練習をしたい。
- あまり知られていない話を読みたい。
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★この文章は4分で読めます
三人姉妹の星の女が、毎晩、美しい下界を見るたびに、あそこへ下りてみたいと言い合っていました。
三人はある晩、森のまん中に、睡蓮のいっぱい咲いている、きれいな泉があるのを見つけました。
三人ともその水の中へ浸かってみたいと思いましたが、そこまで下りていく手立てがありません。
三人は夜通しその泉を見つめて、ため息をついていました。
そのあくる晩も、三人はまたその泉ばかり見下ろしていました。
泉は、ゆうべよりも、なお一層美しく見えました。
「ああ下りて行きたい。一度でいいからあの泉で浴びてきたい。」と、一番上の姉が言いました。
下の二人も同じように下りたいと言いました。
すると、高い山の真上を歩くのが大好きな、月の夫人がそれを聞いて、「そんなに行きたければ、蜘蛛の王さまにそう言って、蜘蛛の糸をつたって下ろしてもらいなさい。」と言いました。
蜘蛛の王さまは、いつものように、網の中に座って、耳をすましていました。
星の女たちは、その蜘蛛の王さまに頼みました。
蜘蛛の王さまは、「さあさあ、下りていらっしゃい。私の糸は空気のように軽いけれど、強いことは鋼と同じです。」と言いました。
三人はその糸につかまって、一人ずつ、するすると泉のそばへ下りて来ました。
泉の面には、月の光が一面にさして、睡蓮の花のなつかしい香りが溢れています。
三人はきらびやかな星の着物を脱いで、そっと水の中へ入りました。
清々しい、冷たい水でした。
三人は静かに睡蓮の花をかき分けて行きました。
三人の肌には、水のしずくが真珠のようにきらきら光りました。
と、その泉のすぐそばに、ある若い狩人が寝ていました。
三人はそれとは気がつかないで、にこにこ喜んで水を浴びていました。
うとうと寝ていた狩人は、三人の天の女が、泉の睡蓮の花を揺るがせて、水の中を歩いている夢を見て、ふと目を覚ましました。
ひじを立てて泉の面を見ますと、真っ青にさしている月の光の中で、三人の美しい女が、楽しそうに水を浴びています。
狩人はこっそりと、泉の岸をつたって、三人の着物が脱いであるところへ行きました。
そして、その中の一番きれいな着物を手に取って見ました。
それは、金と銀の糸で織って、色様々の宝石を使って縫い飾った、立派な着物で、左の胸のところには、心臓の形をした大きな赤いルビーが光っていました。
狩人は、その着物を抱えて、元のところへ帰って、隠れていました。
三人の星の女はそんなことは夢にも思わないで、長い間水を浴びて楽しんでいました。
そのうちに、だんだんと夜明けが近づいてきました。
すると、蜘蛛の王さまが空の上から、「もうお帰りなさい。お日さまがお出ましになると、お日さまのお馬が糸を足で踏み切ります。早く空へお上がりなさい。」と言いました。
星の女はそれを聞くと、急いで岸へ上がりました。
二人の姉はすぐに着物を着て、目に見えぬ蜘蛛の糸の梯子を登って、大空へ帰って行きました。
三人の中で一番美しい下の妹は、一緒に脱いでおいた着物が無いのでびっくりしました。
それが無ければ空へ帰ることが出来ないので、一生懸命に辺りを探しましたが、見つかりません。
そのうちに、お日さまがお出ましになりました。
お日さまのお馬は、蜘蛛の糸を足で踏み切ってしまいました。
星の女は途方に暮れて、草の上にうつ伏して泣いていました。
そうすると森の鳥が起きて来て、「あなたの美しいお召し物は、若い狩人が取って行きました。その狩人は、あそこの木の下で、寝たふりをしています。」こう、さえずって星の女に教えました。
星の女はそれを聞くと、睡蓮の花をつなぎ合わせて花の着物をこしらえて、それで体を包んで、狩人のところへ行きました。
そして、「どうか私の金と銀の着物を返して下さい。その代わりには、あなたのお望みになることは何でもしてあげます。」と、泣き泣き頼みました。
狩人は、「私は何も欲しくはない。あなたが私のお嫁になってくれれば何もいらない。」と言いました。
星の女は、着物を取り上げられては、もう下界を離れる魔力も無くなったので、しかたなしに狩人のお嫁になりました。
狩人は、星の女を大事に可愛がりました。
星の女の姿は、睡蓮の花のように美しく、その声は、どんな小鳥の声よりも、もっと優しく響きました。
狩人は毎日猟に出て、食べものを取って来ました。そして星の女に、その日のいろいろな楽しいお話をしました。
しかし星の女は、そういう中でも、大空のお家を忘れることが出来ませんでした。
女は、月の出る晩には、一人で睡蓮の泉のそばに出て、大空を見ては泣きました。
せめて二人の姉の星が、もう一度下りて来てくれれば良いのにと思って、待ちこがれていましたが、二人は黙って青い目をまばたいているだけで、毎晩蜘蛛の王さまが糸を下ろしても、ちっとも下りて来ようとはしませんでした。
読了ワーク
思い出してみよう
- 三人の星の女は、どんな方法で下界の泉にやって来ましたか。
- 星の女の一番美しい下の妹の着物が無くなってしまいました。それはどうしてですか。
- 帰れなくなった星の女は、結局どうすることにしましたか。
調べてみよう
- 『長い』と『永い』の違いは何でしょうか。
単語ピックアップ
1.下界(げかい)
①仏教に由来する言葉で天上界に対し、この世や人間界を表す。②高い場所から見下ろした時に見える下一帯。
2.清々しい(すがすがしい)
すっきりとして気持ちが良いこと。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 蜘蛛の王さまの蜘蛛の糸につかまって、一人ずつするすると泉のそばまで下りて来た
- 泉のすぐそばで寝ていた若い狩人が、着物を持って行ってしまったから
- 狩人のお嫁になった