- すぐに読めるけれど単純すぎない話が読みたい。
- 5歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
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おはなしの始まりはここから
★この文章は2分で読めます
ある日小さな年ちゃんは、お母さんに頼まれてお使いに行きました。
「転ばないように、気をつけて行ってらっしゃい。」とお母さんは言いました。
年ちゃんは片手に財布を握り、もう片方の手にふろしきを持って、兄さんの下駄を履いて、引きずるようにして行きました。
お豆腐屋の前に、大きな赤犬がいました。
年ちゃんはその前を通るのが、なんだか怖かったのです。
けれど、赤犬はあちらを向いていました。
年ちゃんは、その間に前を通り過ぎてお菓子屋へ着きました。
「まあ坊ちゃん、お一人でえらいですこと。」と、お菓子屋のおばさんは褒めてお菓子をふろしきに包んでくれました。
年ちゃんは、帰りにまたお豆腐屋の前を通らねばなりません。
赤犬が、あちらを向いていてくれればいいのにと思いました。
けれど、今度は赤犬はじっと年ちゃんの顔を見ていました。
年ちゃんは胸がどきどきしました。
急いでその前を通ろうとして駆け出すと、石につまずいて転んでしまいました。
年ちゃんは怖くなって、我慢ができずに泣き出してしまいました。
すると、大きな赤犬がやってきて年ちゃんの顔をべろりとなめました。
二度びっくりしたので、年ちゃんは泣きやんで目を開けて赤犬を見ると、優しそうな目つきをして尾を振っていました。
年ちゃんは、すっかり赤犬のことが好きになりました。
それから、お友達が赤犬を怖ろしがると、年ちゃんは「赤犬は優しい良い犬なんだよ。」と言って、いつも赤犬の弁護をしました。
そして、お使いに行って、お豆腐屋の前に赤犬の姿が見えなかったとき、年ちゃんはどんなに淋しく思ったことでしょう。
ある日、兵隊服を着た二人連れのおじさんが、お薬を売りに来ました。
一人のおじさんは松葉づえをついて、往来の上でなにか大きな声を出して、わめいていました。
きっと、戦争に行って傷ついてきたのだと言っていたのでしょう。
もう一人のおじさんは一軒ごとにお家へ入って行きました。
みんな気の毒に思って、薬を買ってあげるだろうと年ちゃんは思って、その後について行って見ていました。
すると、女中さんが出て「いま、お留守ですから。」と言って、断っていました。
年ちゃんは、さっき、この家のおばさんがいらしたのに、なんで嘘をつくのだろうと思っていました。
おじさんは、その家を出てお隣へ行きました。
お隣も「今お薬がありますから。」と言って、断っていました。
おじさんは何かぶつぶつ言いながら、その家を出ました。
今度は、しず子さんのお家です。
いつの間に、誰かご門の戸に鍵をかけたのか、おじさんが開けようとしても、戸は開きませんでした。
これを見ていた年ちゃんは、この薬箱を下げたおじさんが、かわいそうになりました。
このとき、年ちゃんは自分の家のお母さんは、このおじさんからお薬を買ってあげるだろうと思ったので「おじさん、僕の家はあそこよ。」と、年ちゃんは小さな指で自分の家を指して、おじさんに教えました。
おじさんは年ちゃんの顔を見ました。
「お坊ちゃんのお家はあそこですか?」
「僕の家は、あそこよ。」
「坊ちゃんは、良い子ですね。」
おじさんは、青い顔にさびしい笑いを浮かべて、年ちゃんの頭をなでてくれました。
しかし、おじさんはせっかく年ちゃんが教えたのに、年ちゃんのお家へは寄らずに行ってしまいました。
「どうして、おじさんは僕の家だけ寄らないのかな?」と、年ちゃんは不思議に思いました。
「あんな良いおじさんを、なんでみんなが嫌うのだろうか。」ということも、年ちゃんには分からないので、いつまでもぼんやりと道の上に立って、あちらを眺めていました。
年ちゃんにだけ、赤犬の優しいのが分かりました。
年ちゃんにだけ、薬売りのおじさんの優しいのが分かったのです。
なぜなら、年ちゃんが優しいから。
読了ワーク
思い出してみよう
- 1.赤犬を怖がっていた年ちゃんですが、後から好きになります。それはなぜでしょうか。
- 2.ある日、お薬を売りに来たのは誰でしょうか。
- 3.年ちゃんは、薬を売りに来た人のことがかわいそうになりました。なぜでしょうか。
調べてみよう
- 松葉づえの名前の由来を調べてみよう。
- “女中さん”とはどんな人でしょうか。
単語ピックアップ
1.弁護(べんご)
その人に代わって、(その人の利益になるよう)事情をよく説明し、かばうこと。
2.往来(おうらい)
人が行ったり来たりすること。行き来する場所。道路。
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連想こばなし
ふろしき
年ちゃんがお使いで使っていたふろしき。
ふろしきが物を包む布として定着したのは、18世紀の江戸時代。
それから広く人々の生活に浸透し、年ちゃんのように買い物で利用したり、学校に通う時のカバン代わり等、物を運ぶという場面で人々の生活を支えていました。
紙袋やレジ袋が普及すると、ふろしきはすっかり影をひそめてしまいました。
しかし、2020年7月からスタートしたレジ袋有料化により、ふろしきが再び注目されていると言います。
防水加工のふろしきもあるので、革製バッグの防水・レインコートの代用や防災時と利用シーンはより幅広くなりました。
読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 怖くなって、泣き出してしまった年ちゃんの顔をべろりとなめて、優しそうな目つきで尾を振っていたから。
- 兵隊服を着た二人連れのおじさん。
- 誰も薬を買おうとしてくれないから。