- あまり知られていない日本昔話を読みたい。
- 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。
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前回までのあらすじ
むかしむかし、海の底を竜王が支配していた。
ある日、竜王のお后が重い病気にかかってしまった。
いろいろと手をつくし、ありとあらゆる薬を飲んでも効果はない。
手の施しようもない状態に、さすがの竜王も困り果てていた。
そこへたこの入道が現れ、猿の生き肝を与えてみてはどうかと言う。
そして今度はたいが、猿を連れて来る役目にはくらげが適任だと言い出す。
そうして、くらげは猿が住むという猿が島を目指して泳いでいく。
島に到着したくらげは、ある一匹の猿に声を掛ける。
くらげの話により竜宮に興味を示した猿は、くらげの背中に乗り、竜宮へと向かうことになる。
おはなしの始まりはここから
★この話は4分で読めます
しばらく行くと猿は、
「くらげさん、くらげさん。まだ竜宮までは遠いのかい。」
「ええ、まだかなりありますよ。」
「ずいぶん退屈するなあ。」
「まあ、おとなしくして、しっかりつかまっておいでなさい。あばれると海の中へ落ちますよ。」
「こわいなあ。しっかり頼むよ。」
こんなことを言っておしゃべりをしていくうちに、くらげはもともとあまり利口でもないくせにおしゃべりなおさかなでしたから、ついだまっていられなくなって、
「ねえ、猿さん、猿さん、お前さんは生き肝というものを持っておいでですか。」と聞きました。
猿はだしぬけにへんなことを聞くと思いながら、
「そりゃあ持っていないこともないが、それを聞いていったいどうするつもりだ。」
「だってその生き肝がいちばんかんじんな用事なのだから。」
「何がかんじんだと。」
「なあにこちらの話ですよ。」
猿はだんだん心配になって、しきりに聞きたがります。
くらげはよけいおもしろがって、しまいには調子に乗って猿をからかいはじめました。
猿はあせって、
「おい、どういうわけだってば。お言いよ。」
「さあ、どうしようかな。言おうかな、言うまいかな。」
「何だってそんないじの悪いことを言って、じらすのだ。話しておくれよ。」
「じゃあ、話しますがね、実はこの間から竜王のお后さまが御病気で、死にかけておいでになるのです。それで猿の生き肝というものをあげなければ、とても助かる見込みがないというので、わたしがお前さんを誘い出しに来たのさ。だからかんじんの用事というのは生き肝なんですよ。」
そう聞くと猿はびっくりして、ふるえ上がってしまいました。
けれど海の中ではどんなにさわいでもしかたがないと思いましたから、わざとへいきな顔をして、
「何だ、そんなことなのか。わたしの生き肝で、竜王のお后さんの病気がなおるというのなら、生き肝ぐらいいくらでもあげるよ。だがなぜそれをはじめから言わなかったろうなあ。ちっとも知らないものだから、生き肝はつい出がけに島へ置いてきたよ。」
「へえ、生き肝を置いてきたのですって。」
「そうさ、さっきいた松の木の枝に引っかけて干してあるのさ。何しろ生き肝というやつは時々出して、洗濯しないと、よごれるものだからね。」
猿がまじめくさってこういうものですから、くらげはすっかりがっかりしてしまって、
「やれ、やれ、それはとんだことをしましたねえ。かんじんの生き肝がなくっては、お前さんを竜宮へ連れて行ってもしかたがない。」
「ああ、わたしだって竜宮へせっかく行くのに、おみやげがなくなっては、ぐあいが悪いよ。じゃあごくろうでも、もう一度島まで帰ってもらおうか。そうすれば生き肝を取ってくるから。」
そこでくらげはぶつぶつ言いながら、猿を背負って、もとの島まで帰っていきました。
猿が島に着くと、猿はあわててくらげの背中からとび下りて、するすると木の上へ登っていきましたが、それきりいつまでたっても下りてはきませんでした。
「猿さん、猿さん、いつまで何をしているの。早く生き肝を持って下りておいでなさい。」
とくらげはじれったそうに言いました。
すると猿は木の上でくつくつ笑い出して、
「とんでもない。おとといおいで。今日はごくろうさま。」と言いました。
くらげはぷっとふくれっつらをして、
「何だって。じゃあ生き肝を取ってくる約束はどうしたのです。」
「ばかなくらげやい。だれが自分で生き肝を持っていくやつがあるものか。生き肝を取られれば命がなくなるよ。ごめん、ごめん。」
こういって猿は木の上から赤ンべいをして、
「それほどほしけりゃ上がっておいで。くやしくも上がれまい、わあい。わあい。」
と言いながら、赤いお尻を三度たたきました。
いくらばかにされても、くらげはどうすることもできないので、べそをかきながら、すごすご竜宮へ帰っていきました。
竜宮へ帰ると、竜王はじめみんな待ちかねていて、
「猿はどうした。どうした。生き肝はどうした。どうした。」
と、大ぜいくらげを取りかこんでせき立てました。
外にしかたがないので、くらげはせっかく猿をだまして連れ出しながら、あべこべにだまされて、逃げられてしまった話をしました。
すると竜王はまっ赤になっておこりました。
「ばかなやつだ。とんまめ。あほうめ。みんな、こらしめのためにこいつの骨がなくなるまで、ぶってしまえ。」
そこでたいや、ひらめや、かれいや、ほうぼうや、いろいろなおさかなが寄ってたかって、逃げまわるくらげをつかまえて、まん中に引き据えて、
「このおしゃべりめ。この出しゃばりめ。このまぬけめ。」
と口々に言いながら、めちゃめちゃに叩いたり殴ったりするものですから、とうとう体中の骨がくなくなになって、今のような目も鼻もない、のっぺらぼうな骨なしのくらげになってしまいました。
読了ワーク
思い出してみよう
- くらげが言う“かんじんな用事”とは何のことでしょう。
- 猿を乗せて竜宮に向かっていたくらげでしたが、途中で猿がいた島へ戻ることになりました。それはなぜでしょうか。
- 島に戻ってきた猿は、木に登ったきり下りてきませんでした。それはなぜでしょうか。
調べてみよう
- “だしぬけ”の意味を調べてみよう。
- “じらす”の意味を調べてみよう。
- “おとといおいで”とはどういったことでしょうか。
単語ピックアップ
1.利口(りこう)
頭が良いこと。賢いこと。おとなしく、聞きわけが良い子どもに対しても言う。
2.引き据える(ひきすえる)
捕まえて、むりやり座らせること。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 猿の生き肝を持ってくること。
- 猿が「生き肝をさっきいた松の木に置いてきた」と言ったから。
- 生き肝を取られたら命がなくなるから。