- 悲しいけれど情緒豊かな美しい話が読みたい。
- リラックスできるような話が読みたい。
- おやすみ前の読書にぴったりの話が読みたい。
このおはなしの作者
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前回までのあらすじ
デパートに行った帰り道。
すっかり暗くなった道を歩いていた年子は、ふと見上げた先に青く光る星を見つける。
すると、田舎に帰ってしまった上野先生のことを自然と思い出す。
その思い出の中で、年子は先生にきっと会いに行くと約束をしていた。
青く光る星を見た瞬間から、不思議なことに年子を先生が暮らす北へと向かわせるのだった。
おはなしの始まりはここから
★この文章は3分で読めます
東京を出るときには、にぎやかで、なんとなく明るく、美しい人たちもまじっていた車室の内は、遠く都をはなれるにしたがって人数も減って、急に暗くわびしく見えたのでした。
そのとき、汽車は、山と山の間を深い谷に沿うて走っていたのです。
「まあ、山は真っ白だこと、ここから雪になるんだわ。」
年子は、思わずこういって目をみはりました。
「山を越してごらんなさい。三尺も、四尺もありますさかい。おまえさんは、どこから乗っていらしたの。」
黒い頭巾をかぶったおばあさんが、みかんをむいて食べながらいいました。
年子は、話しかけられて、はじめて注意しておばあさんを見ました。
なんだかあわれな人のようにも見え、また気味悪いようにも感じられたのです。
「東京から乗ったのです。そして、つぎのつぎの、停車場で下りますの。」
「着くと暗くなりますの。」
おばあさんは、それきりだまってしまいました。
雪の広野を走って、ようやく、目的地に着きました。
しかし、急に思いたってきたので、通知もしなかったから、この小さな寂しい停車場に降りても、そこに、上野先生の姿が見いだし得ようはずがなかったのです。
手に、ケースを下げて、不案内の狭苦しい町の中へはいりました。
道も、屋根も、一面雪におおわれていました。
寒い風が、つじに立っている街燈をかすめて、どこからか、枯れた笹の葉の鳴る音などが耳にはいりました。
どちらへ曲がったらいいかわからなかったので、しばらくたたずんで、きかかった人に、教会堂の在所をたずねますと、すぐわかって、そこから三、四丁のところでありました。
雪催いの曇った空に、教会堂のとがった三角形の屋根は、黒く描き出されていました。
そして、かたわらの小さな家から、ちらちらと灯がもれていました。
年子は、刹那の後に展開する先生との楽しき場面を想像して、胸をおどらしながら入ってゆきました。
先生のお母さんらしい人が、夕飯の支度をしていられたらしいのが出てこられました。
そして、年子が、先生をたずねて、東京からきたということをおききなさると、急にお言葉の調子は曇りを帯びたようだったが、
「それは、それは、よくいらしてくださいました。さあお上がりなさいまし。」
と、ちょうど我が子が遠方から帰ってきたように、親切にしてくださいました。
年子は、先生の姿が見えないのを、もどかしがっていると、お母さんは、おちついた態度で、静かに、先生は、もうこの世の人でないこと、なくなられてから、はや、半年あまりにもなること、そして、その節は、お知らせせずにすまなかったとお話なされたのでした。
これをきくと、年子は、前後をわきまえず、そこに泣きくずれました。
やがて、北国の夜はしんとしました。
静かなのが、たちまちあらしに変わって、吹雪が雨戸を打つ音がしました。
このとき、家の内では、こたつにあたりながら、年子は、先生のお母さんと、弟の勇ちゃんと、三人で、いろいろお話にふけっていたのでした。
「スキーできる?」と、勇ちゃんがききました。
「ちっとばかり。」と、年子は答えた。
「じゃ、明日、お姉さんのお墓へ、いっしょにゆこう。」
と、勇ちゃんが、いいました。
翌日は、いいお天気でした。
ふたりは、町を距たった、林の下にあった寺の墓地へまいりました。
墓地は雪に埋まっていましたけれど、勇ちゃんは、木に見覚えがあったので、この下にお姉さんが眠っていると教えたのでした。
「先生、私はお約束を守っておあいしにまいりました。それだのに、先生は、もうおいでがないのです。私は、ひとりぽっちで、さびしく帰ってゆかなければなりません。」
と、年子は目を泣きはらして、手を合わせました。
勇ちゃんは、ハーモニカを唇にあてて、姉さんの好きだった曲を、北風に向かって鳴らしていたのです。
読了ワーク
思い出してみよう
- 年子はどこから汽車に乗りましたか。
- 年子は汽車の中で誰とお話をしましたか。
- 年子は汽車に乗って、誰に会いに行ったのですか。
調べてみよう
- “わびしい”の意味は何でしょう。
- “目をみはる”とは、どんな表情ですか。
- 尺とは長さの単位のことです。では、“三尺”、“四尺”はどのくらいの長さのことでしょうか。
- “つじ”とはある所を指しています。どんな所を指す言葉でしょうか。
- “もどかしい”の言葉の意味は何でしょう。
単語ピックアップ
1.不案内(ふあんない)
①細かい事や様子がよく分からないこと。②ある物事に対して、心得がないこと。
2.雪催い(ゆきもよい)
今にも雪が降り出しそうな空模様のこと。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
- 東京
- 黒い頭巾をかぶったおばあさん。
- 上野先生。