悲しい話 PR

会えると期待して行ったのに悲しい現実を突きつけられる話①

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やなかゆう
やなかゆう
小川未明作『青い星の国へ①【前編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • 悲しいけれど情緒豊かな美しい話が読みたい。
  • リラックスできるような話が読みたい。
  • おやすみ前の読書にぴったりの話が読みたい。

このおはなしの作者

小川未明おがわみめい(1882年~1961年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この話は5分で読めます

デパートのなかは、いつもはるのようでした。

そこには、いろいろのかおりがあり、いい音色ねいろがきかれ、そして、らんのはななどいていたからです。

いつも快活かいかつで、そして、またひとりぼっちに自分じぶんかんじた年子としこは、しばらく、やわらかな腰掛こしかけにからだをげて、うっとりと、波立なみだかがやきつつある光景こうけいとれて、夢心地ゆめごこちでいました。

「このはなやかさが、いつまでつづくであろう。もう、あと二時間にじかん三時間さんじかんたてば、ここにいる人々ひとびとは、みんなどこかにかって、しんとしてくらくさびしくなってしまうのだろう。」

こんな空想くうそうが、ふとあたまなかに、一片いっぺんくものごとくかぶと、きゅうたまらないようにさびしくなりました。

そこをて、あかるいとおりから、横道よこみちにそれますと、もう、あたりには、まったくよるがきていました。

そのも、みじかふゆですから、だいぶふけていたのであります。

そして、きゅうに、いままできこえなかった、とおくでる、汽笛きてきおとなどがみみにはいるのでした。

「まあ、あおい、あおい、ほし!」

電車でんしゃ停留場ていりゅうじょうかって、ある途中とちゅうで、ふと天上てんじょうひとつのほして、こういいました。

そのほしは、いつも、こんなに、あおひかっていたのであろうか。

それとも、今夜こんやは、とくにさえてえるのだろうか。

彼女かのじょは、無意識むいしきのうちに、

わたしまれた、北国ほっこくでは、とてもほしひかりつよく、あおえてよ。」

といった、わか上野先生うえのせんせい言葉ことば記憶きおくのこっていて、そして、いつのまにか、そのきだった先生せんせいのことをおもしていたのであります。

すでに、彼女かのじょは、いくつかの停留場ていりゅうじょう電車でんしゃにもろうとせずりすごしていました。

ものをかんがえるには、こうしてくらみちあるくのがてきしたばかりでなしに、せっかく、たのしい、かすかな空想くうそういと混乱こんらんのために、ってしまうのがしかったのです。

先生せんせいは、年子としこがゆく時間じかんになると、学校がっこう裏門うらもんのところで、じっと一筋道ひとすじみちをながめてっていらっしゃいました。

あきのころには、そこにわっているさくらが、黄色きいろになって、はらはらとがちりかかりました。

そして、年子としこは、先生せんせい姿すがたつけると、ごほんあかいふろしきづつみをるようにしてしたものです。

「あまりおそいから、どうなさったのかとおもってっていたのよ。」

と、わか上野先生うえのせんせいは、にっこりなさいました。

叔母おばさんのお使つかいで、どうもすみません。」

と、年子としこはいいました。

まどから、あちらにとおくのもりいただきがえるお教室きょうしつで、英語えいご先生せんせいからならったのでした。

きけば、先生せんせいは、ちいさい時分じぶんにおとうさんをおくしになって、おかあさんのそだったのでした。

だから、このなか苦労くろうっていらっしゃれば、また、どことなく、そのお姿すがたに、さびしいところがありました。

わたしは、からだが、そうつよいほうではないし、それに故郷こきょうさむいんですから、かえりたくはないけれど、どうしてもかえるようになるかもしれないのよ。」

ある先生せんせいは、こんなことをおっしゃいました。

そのとき、年子としこは、どんなにおどろいたでしょう。

それよりも、どんなにかなしかったでしょう。

先生せんせい、おわかれするのはいや。いつまでもこっちにいらしてね。」と、年子としこは、しぜんにあつなみだがわくのをおぼえました。

ると先生せんせいのおにもなみだひかっていました。

「ええ、なるたけどこへもいきませんわ。」

こう先生せんせいは、おっしゃいました。

けれど、先生せんせいのおかあさんと、おとうとさんとが、田舎いなかまちにいらして、先生せんせいのおかえりをっていられるのを、年子としこ先生せんせいからうけたまわったのでした。

また、先生せんせいのおかあさんと、おとうとさんは、そのまちにあった、教会堂きょうかいどう番人ばんにんをなさっていることもったのでした。

だが、ついにおそれた、そのがきました。

せめてものおもにと、年子としこは、先生せんせいとおわかれするまえにいっしょに郊外こうがい散歩さんぽしたのであります。

先生せんせい、ここはどこでしょうか。」

らない、文化住宅ぶんかじゅうたくのたくさんあるところへたときに、年子としこはこうたずねました。

「さあ、わたしもはじめてなところなの。どこだってかまいませんわ。こうしてたのしくおはなししながらあるいているんですもの。」

「ええ、もっと、もっとあるきましょうね、先生せんせい。」

ふたりは、おかりかけていました。

みずのようなそらに、のない小枝こえだが、うつくしくじっていました。

わたしかえったら、おやすみにきっといらっしゃいね。」

と、先生せんせいがおっしゃいました。

年子としこは、あちらの、水色みずいろそらしたの、だいだいいろえてなつかしいかなたが、先生せんせいのおくにであろうとかんがえたから、「きっと、先生せんせいにおあいにまいります。」と、お約束やくそくをしたのです。

すると、そのとき、先生せんせい年子としこかたくおにぎりなさいました。

「たとえ、とおいたって、ここから二筋ふたすじ線路せんろわたしまちまでつづいているのよ。汽車きしゃにさえれば、ひとりでにつれていってくれるのですもの。」

そうおっしゃって、先生せんせいくろいひとみは、おなじだいだいいろそらにとまったのでした。

ながれるものは、みずばかりではありません。

なつかしい上野先生うえのせんせいがおくにかえられてから三年さんねんになります。

そのあいだに、おたよりをいただいたとき、きたくにほしひかりが、あおいということがかさねていてありました。

そして、ゆきこおさむしずかなよるの、神秘しんぴなことがいてありました。

あおほし刹那せつなから、彼女かのじょきたきたへとしきりに誘惑ゆうわくするえない不思議ふしぎちからがありました。

とうとう、三日さんにちのちでした。

年子としこは、きたへゆく汽車きしゃなかに、ただひとりまどってうつわってゆく、冬枯ふゆがれのさびしい景色けしきとれている、自分じぶんいだしました。

会えると期待して行ったのに悲しい現実を突きつけられる話②【この文章は3分で読めます】小川未明作、「青い星の国へ」の前編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. デパートの中のどんなところが春のようだと書かれていましたか。
  2. 電車の停留場に向かう途中、空に光る星を見て、年子は誰のことを思い出しましたか。

調べてみよう

  1. “居た堪らない”の意味は何でしょう。
  2. “文化住宅”とは、どんな住宅のことでしょうか。
  3. “凭って”の意味や他の読み方について調べてみよう。

単語ピックアップ

1.快活(かいかつ)

人柄や性格、性質が明るく元気なこと。

2.夢心地(ゆめごこち)

夢を見ているような、うっとりした気持ち。

3.無意識(むいしき)

①意識の無い状態。②自分がしていることに自覚が無い状態。

4.郊外(こうがい)

都市部の中心地に隣接する地域、都市部から少し離れた地域。

5.刹那(せつな)

ほんの少しの時間。瞬間。束の間。

音読シートダウンロード

★この物語“青い星の国へ①【前編】”の音読シートがダウンロードできます。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. いろいろな香りがあり、いい音色がきかれ、らんの花などが咲いているところ。
  2. 若い上野先生。