●怖い話は得意。
●怖い話が好きな子ども(年長)に読み聞かせしたい。
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おはなしの始まりはここから
★この文章は3分で読めます
むかしむかし、町と田舎に、大きな屋敷をかまえて、金の盆と銀のお皿を持って、きれいなお飾と縫箔のある、椅子、机と、それに、総金塗りの馬車までも持っている男がありました。
こんな幸せな身分でしたけれど、ただ一つ、運の悪いことは、おそろしい青ひげを生やしていることで、それはどこの奥さんでも、娘さんでも、この男の顔を見て、あっと言って、逃げ出さないものはありませんでした。
さて、この男の屋敷近くに、身分の良い奥さんがあって、ふたり、美しい娘さんをもっていました。
この男は、この娘さんのうちどちらでもいいから、ひとり、お嫁さんにもらいたいと言って、たびたび、この奥さんをせめました。
けれど、ふたりがふたりとも、娘たちは、この男を、それはそれは嫌っていて、逃げまわってばかりいました。
なにしろ青ひげを生やした男なんか、考えただけでも、ぞっとするくらいですし、それに、胸の悪いほど嫌なことには、この男は、前からも、いく人か奥さまをもっていて、しかもそれがひとり残らず、どこへどう行ってしまったか、行方が分からなくなっていることでした。
そこで、青ひげは、これは、この娘さん親子のごきげんをとって、自分が好きになるように仕向けることが、なにより近道だと考えました。
そこで、あるとき、親子と、そのほか近所で知りあいの若い人たちを大勢、田舎の屋敷に招いて、一週間あまりも泊めて、ありったけのもてなしぶりを見せました。
それは、毎日、毎日、野遊びに出る、狩りに行く、釣りをする、ダンスの会だの、夜会だの、お茶の会だのと、目の回るような忙しさでした。
夜になっても、誰も寝床に入ろうとする者もありません。
宵が過ぎても、夜中が過ぎても、みんなそこでもここでも、おしゃべりをして、笑いさざめいて、ふざけっこしたり、歌を歌い合ったり、それはそれは、賑やかなことでした。
とうとうこんなことで、何もかも、とんとん拍子にうまく運んで、末の妹の方がまず、この屋敷の主人のひげを、もうそんなに青くは思わないようになり、おまけに、立派な、礼儀正しい紳士だとまで思うようになりました。
さて、家へ帰るとまもなく、ご婚礼の式が済みました。
それから、ひと月ばかり経った後のことでした。
青ひげは、ある日、奥方に向かって、これから、ある大切な用向きで、どうしても六週間、田舎へ旅をしてこなければならない。そのかわり、留守の間の気晴らしに、お友だちや知りあいの人たちを、屋敷に呼んで、里の家にいた時と同じように、おもしろおかしく遊んで、暮らしてもかまわないから、と言いました。
「さて。」と、その後で、青ひげは奥方に言いました。
「これはふたつとも、私の一番大事な道具の入っている大戸棚の鍵だ。これは普段使わない金銀の皿を入れた戸棚の鍵だ。これは金貨と銀貨をいっぱい入れた金庫の鍵だ。これは宝石箱の鍵だ。これは部屋残らずの合い鍵だ。さて、ここにもうひとつ、小さな鍵があるが、これは地下室の大廊下の、いちばん奥にある、小部屋を開ける鍵だ。戸棚という戸棚、部屋という部屋は、どれを開けてみることも、中に入ってみることも、おまえの勝手だが、ただ一つ、この小部屋だけは、決して開けてみることも、まして、入ってみることはならないぞ。これはかたく止めておく。万一にもそれにそむけば、俺は怒って、何をするか分からないぞ。」
奥方は、お言いつけの通り、必ず守りますと、約束しました。
やがて青ひげは、奥方に優しくキスして、四輪馬車に乗って、旅立って行きました。
読了ワーク
思い出してみよう
1.身分の良い奥さんのふたりの美しい娘は、青ひげを生やした男のことを嫌っていました。一つは青ひげを生やしていることが理由ですが、もう一つの理由は何でしょうか。
2.青ひげの懸命なおもてなしにより、ふたりの美しい娘のうちの一人がお嫁に行くことを決めます。どちらの娘がお嫁に行くことになりましたか。
調べてみよう
“縫箔”とはどんなものでしょうか。調べてみましょう。
知っ得慣用句
胸の(が)悪い
不愉快な気分になるほどムカムカし、腹が立つこと
音読シートダウンロード
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底本情報
底本:「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」小峰書店
1950(昭和25)年5月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例
1.前から何人か奥さまをもらっていて、その奥さまの行方が誰一人としてわからないこと。
2.末の妹の方。