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赤いろうそくと人魚②【中編】信じていた人に裏切られる人魚の話

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やなかゆう

「日本のアンデルセン」「日本児童文学の父」と呼ばれる小川未明作『赤いろうそくと人魚②【中編】』です。

このおはなしはこんな人にオススメ
  • 悲しいけれど美しい話が読みたい。
  • アンデルセンの『人魚姫』が好き。
  • 年中~の子どもに読み聞かせしたい。

前回までのあらすじ

北の海に、子を身ごもった人魚がいた。

冷たく暗い海の中での生活を嘆いていた人魚は、子どもには人間の元で大切に育てられ、幸せに暮らして欲しいと願う。

そして人魚は、意を決して人間達が暮らす島に子どもを産み落としたのだった。

その人魚の子どもは、ろうそく屋を営む老夫婦に拾われ、そこですくすくと成長する。

赤いろうそくと人魚①【前編】信じていた人に裏切られる人魚の話【この文章は5分で読めます】小川未明作、「赤いろうそくと人魚」の前編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

赤いろうそくと人魚②【中編】はここから

★この文章は4分で読めます

むすめおおきくなりましたが、姿すがたわっているので、ずかしがってかおそとしませんでした。

けれど、一目ひとめそのむすめひとがびっくりするようなうつくしい器量きりょうでありましたから、なかにはどうにかしてそのむすめたいとおもって、ろうそくをいにひともいました。

おじいさんとおばあさんは「うちのむすめ内気うちきずかしがりやだから、人様ひとさままえにはないのです。」とっていました。

おくでおじいさんは、せっせとろうそくをつくっていました。

むすめは、自分じぶんおもいつきで、きれいないたら、みんながよろこんで、ろうそくをうだろうとおもいましたから、そのことをおじいさんにはなしますと、そんならおまえのきなを、ためしにいてみるがいいとこたえました。

むすめあかしろいろうそくに、さかなかいやまたは海藻かいそうのようなものをだれならったわけでもなく上手じょうずきました。

おじいさんは、それをるとびっくりしました。

そのると、だれでもろうそくがしくなるような不思議ふしぎちからと、うつくしさがめられていたのです。

上手うまいはずだ。人魚にんぎょいたのだもの。」とおじいさんは感嘆かんたんして、おばあさんとはなしました。

いたろうそくをおくれ。」といって、あさからばんまでどもや大人おとなみせまでいにました。

いたろうそくは、みんなにけたのであります。

そしてこのいたろうそくをやまうえのおみやにあげて、そのえさしにつけて、うみると、どんな暴風雨だいぼうふううでも、けっしてふね転覆てんぷくしたり、おぼれてぬような災難さいなんわないということが、いつからともなくうわさとなってひろまりました。

うみ神様かみさままつったおみやだもの、きれいなろうそくをあげれば神様かみさまもおよろこびなさるのにまっている。」とまち人々ひとびといました。

ろうそくでは、おじいさんはいっしょうけんめいにあさからばんまで、ろうそくをつくました。

そのそばむすめは、いたくなるのを我慢がまんして、ろうそくにいたのであります。

「こんな、人間にんげんでない自分じぶんをよくそだてて、かわいがってくださったごおんわすれてはならない。」

老夫婦ろうふうふやさしいこころかんじて、むすめおおきなくろひとみをうるませたこともあります。

このはなしとおくのむらまでとどきました。

神様かみさまにあがったいたろうそくのえさしをれたい船乗ふなのりや漁師りょうしは、遠方えんぽうからもやってました。

そして、ろうそくをってやまのぼり、おみやにおまいりして、ろうそくにをつけてささげ、そのえてみじかくなるのをって、またそれをいただいてかえりました。

だから昼夜問ちゅうやとわず、やまうえのおみやには、ろうそくのえたことはありません。

とりわけよるうつくしく、燈火とうかひかりうみうえからものぞまれたのであります。

本当ほんとうにありがたい神様かみさまだ。」という評判ひょうばんは、世間せけんひろまりました。

それできゅうにこのやま名高なだかくなりました。

しかし、だれもろうそくにこころめていているむすめのことを、おもうものはなかったのです。

したがって、そのむすめをかわいそうにおもったひとはなかったのであります。

むすめつかれて、時々月ときどきつきのきれいなよるまどからあたまして、とおきたあおあおうみこいしがっては、なみだぐんでながめていることもありました。

あるときみなみほうくにから、香具師こうぐしはいってました。

なにきたくにって、めずらしいものをさがして、それをみなみくにってって、かねもうけようというのであります。

あるのこと、香具師こうぐしはどこからいてたのか、またはいつむすめ姿すがたて、めずらしい人魚にんぎょであることを見抜みぬいたものか、こっそりと年寄としよ夫婦ふうふのところへやってて、むすめにはわからないように、大金たいきんすから人魚にんぎょってはくれないかともうしたのであります。

年寄としよ夫婦ふうふ最初さいしょのうちは、このむすめ神様かみさまがおさずけになったのだから、どうしてもることは出来できない。そんなことをしたら、ばちたるとって承知しょうちしませんでした。

香具師こうぐし一度いちど二度断にどことわられてもりずに、またやってました。

そして、年寄としよ夫婦ふうふかって「むかしから人魚にんぎょ不吉ふきつなものとしてある。いまのうちに、手元てもとからはなさないと、きっとわるいことがある。」とまことしやかにもうしたのであります。

年寄としよ夫婦ふうふは、ついに香具師こうぐしうことをしんじてしまいました。

そしてかねこころうばわれて、むすめると約束やくそくしてしまったのであります。

香具師こうぐしは、たいそうよろこんでかえりました。

いずれそのうちに、むすめりにるといました。

このはなしむすめったとき、どんなにおどろいたでありましょう。

内気うちきやさしいむすめはこのいえからはなれて、幾百里いくひゃくりとおらないあつみなみくにくことをおそれました。

そして、いて年寄としよ夫婦ふうふねがったのであります。

「わたしは、どんなにでもはたらきますから、どうぞらないみなみくにられてくことはゆるしてくださいまし。」

しかし、もはやおにのような心持こころもちになってしまった年寄としよ夫婦ふうふは、なにってもむすめうことをれませんでした。

むすめは、部屋へやなかもって、一心いっしんにろうそくにいていました。

しかし、年寄としよ夫婦ふうふはそれをてもいじらしいとも、あわれともおもわなかったのであります。

赤いろうそくと人魚③【後編】信じていた人に裏切られる人魚の話【この文章は4分で読めます】小川未明作、「赤いろうそくと人魚」の後編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

このおはなしの作者

小川未明おがわみめい(1882年~1961年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

読了ワーク

思い出してみよう

  1. おじいさんが造ったろうそくが、とても売れるようになりました。なぜでしょうか。
  2. どうして人魚の娘は香具師に売られることになったのでしょうか。

調べてみよう

  1. 『造る』と『作る』と『創る』の違いは何だろう。
  2. 『遭う(遇う)』と『会う(逢う)』と『合う』の違いは何だろう。
  3. 『香具師(こうぐし・やし)』とはどんな人だろう。

単語ピックアップ

1.器量(きりょう)

いくつか意味があるが、この文中では顔立ち、容貌のことを表す。

2.内気(うちき)

気が弱く、人前ではハキハキと振る舞えない性格のこと。

3.感嘆(かんたん)

心から感動し、声をもらすさま。また、褒めたたえる様子。

4.燃(も)えさし

燃え切らずに残ったもの。

5.暴風雨(ぼうふうう)

非常に強い風を伴った雨のこと。台風や発達した低気圧などよって引き起こされる。

6.転覆(てんぷく)

船や鉄道車両がひっくり返ること。

7.燈火(とうか)

ともしび。あかり。

8.幾百里(いくひゃくり)

日本では一里は約3.9kmなので、その百倍。幾は「いくらか」「どれほどか」の意味があり、はっきりしない数・量・時間等の前に付ける。

音読シートダウンロード

この物語“赤いろうそくと人魚②【中編】”の音読シート(pdf)がダウンロードできます。

連想こばなし

絵付きの和ろうそく

人魚が描いた絵付きの和ろうそくはどんなに美しいものだったのでしょうか。

実際に、絵付きの和ろうそくは売られています。

主に花が描かれおり、それを総じて“花ろうそく”と言います。

生花が少ない冬、特に東北や北陸の雪深い地域では、お仏壇に生花が飾れないという理由から、ろうそくに花を描いたものを飾ったと言います。

その花ろうそくが伝統工芸として、今に伝わっているのです。

『赤いろうそくと人魚』の作者である小川未明の出身地は北陸にあたる新潟県。

そして、新潟県上越市大潟区の雁子浜には、人魚塚伝説の碑があり、この物語のモデルになっていると言われています。


藤の花のろうそくもとってもステキ!

読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 娘が上手に絵を描いたろうそくが町の人に受けたから。
  2. 「人魚は不吉なもの」という香具師の話を信じ、金に心を奪われてしまったから。