やなかゆう
やなかゆう
宇野浩二作『でたらめ経②【中編】』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • コントみたいなゆかいな話を読みたい。
  • 4歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

宇野浩二うのこうじ(1891年~1961年)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

前回までのあらすじ

あるところに、さびしい野原の一軒家に暮らす、正直なおばあさんがいた。

ある日の夕方、一人の旅人がおばあさんの家の前を通りかかり、「少し休ませてほしい」とお願いする。

おばあさんは快くこの旅人を迎え、お茶などをご馳走するのだった。

疲れが取れた旅人は、いろいろとご馳走になったお礼にとお金を置いて行こうとする。

おばあさんはこれを拒み、代わりにお経の文句を教えてほしいと旅人に言う。

でたらめなお経が思わぬ幸運をもたらした話①【この文章は5分で読めます】宇野浩二作、「でたらめ経」前編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

おはなしの始まりはここから

★この文章は3分で読めます

で、きょろきょろと、あっちを見みたり、こっちを見みたりして、初はじめのうちは、おばあさんのすきをうかがって逃にげ出だそうと思おもった位くらいですが、何なにをいうにもおばあさんが余あまり真面目まじめで正直しょうじきなものですから、そんな狡ずるいことをして、逃にげることもなりません。

おばあさんはもう鉦かねを前まえにおいて、旅人たびびとが口くちを開ひらくのをじっと待まっている様子ようすです。

仕様しようがないので、旅人たびびとは度胸どきょうをきめて、何なにかお経きょうの種たねになるものはないかと、ふと家いえの奥おくの方ほうを見みますと、おばあさんの大切たいせつな仏壇ぶつだんが、外そとのどの道具どうぐよりも目立めだって、立派りっぱにきらきらと光ひかっています。

仏壇ぶつだんの中なかには線香せんこうをくすべる香炉こうろがあります。

香炉こうろの傍そばには花立はなたてがあります。

「さあ、どうぞ早はやく教おしえて下ください。」

とおばあさんが急せき立たてるものですから、旅人たびびとは困こまった余あまり、ふと思おもいついて、出鱈目でたらめに、しかし出来できるだけお経きょうらしい節ふしをつけて、

「香炉こうろや、花立はなたてや、花立はなたてや、香炉こうろや。」と唱となえました。

すると、おばあさんはその文句もんくと節ふしをそっくり真似まねて「香炉こうろや、花立はなたてや、花立はなたてや、香炉こうろや。」といって、「チン」と叩たたき馴なれた鉦かねを叩たたきました。

よく合あいました。

そこで、「これはまったく覚おぼえいいお経きょうで、ほんとうに有難ありがとう存ぞんじます。どうぞその先さきを、ついでに、もう少すこしお教おしえ下ください。」と頼たのみました。

旅人たびびとは困こまって、もう一度いちど、「香炉こうろや、花立はなたてや、花立はなたてや、香炉こうろや……。」と同おなじことをいっているうちに、何なにか外そとのものを見みつけて、それを読よみ込こもうと気きをくばっていますと、仏壇ぶつだんの棚たなのところに、鼠ねずみがちょろちょろと出でて来きました。

旅人たびびとは心こころの中うちで、「これだ!」と思おもったものですから、早速声さっそくこえを張はり上あげて、「鼠ねずみが一匹御入来いっぴきごにゅうらい、鼠ねずみが一匹御入来いっぴきごにゅうらい。」とつづけているうちに、棚たなの上うえの鼠ねずみはちょろちょろと逃にげて行いってしまいましたので、

「かと思おもったら、すぐに逃にげてしまったア。」といいました。

おばあさんはそんな事こととは知しりませんからそれが真面目まじめなお経きょうだと思おもって、「鼠ねずみが一匹御入来いっぴきごにゅうらい、鼠ねずみが一匹御入来いっぴきごにゅうらい。かと思おもったら、すぐに逃にげてしまったア。」と唱となえて、そこでまた、「チン」と鉦かねを叩たたきました。

「ほんとうに、これはこれは分わかりやすい、結構けっこうなお経きょうでございます。」とおばあさんは大喜おおよろこびでいいました。

「これなら、わたしのような年寄としよりでもよく覚おぼられます。旅たびの方かた、どうぞもう少すこしその先さきをお教おしえ下くださいませ。」

旅人たびびとはまた困こまりましたが、仕様しようがありませんので、その先さきを、「鼠ねずみが一匹御入来いっぴきごにゅうらい、かと思おもったら、すぐに逃にげてしまったア。」とくり返かえして唱となえているうちに何なにか思おもいつくだろうと、仏壇ぶつだんの方ほうを見みていますと、先さっきの棚たなの上うえに、今度こんどは鼠ねずみが二匹連にひきづれで、ちょろちょろと何なにか相談そうだんし合あうような恰好かっこうで歩あるいて来きました。

そこで旅人たびびとは早速さっそく、「今度こんどは二匹連にひきづれで、何なんだか相談そうだんをしながら、ちょろちょろと御入来ごにゅうらい御入来。」

といっているうちに、どうしたのか、二匹にひきは大急おおいそぎで逃にげて帰かえってしまいましたので、旅人たびびとはこれもお経きょうの種たねにして、

「ところが驚おどろいて、大急おおいそぎで逃にげて帰かえったア。」といって、もうこの先さきを頼たのまれたら、本当ほんとうに困こまってしまうと思おもったものですから、「さア、これだけでひと切きりです。」といいました。

「今度こんどは二匹連にひきづれで、何なんだか相談そうだんをしながら、ちょろちょろと御入来ごにゅうらい。ところが驚おどろいて、大急おおいそぎで逃にげて帰かえったア。」とおばあさんは相変あいかわらず大真面目おおまじめで、旅人たびびとの唱となえた通とおりに唱となえて、「チン」と上手じょうずに拍子ひょうしをとって鉦かねを叩たたきました。

そして、大変満足たいへんまんぞくしたように、

「どうも結構けっこうな、覚おぼえいいお経きょうを教おしえて下くださいまして、有難ありがとう存ぞんじます。では、旅たびの方かた、初はじめからわたしが一人ひとりでもう一度いちどさらえて見みますから、間違まちがいないか、聞きいておって下くださいませ。」といって、

「香炉こうろや、花立はなたてや、花立はなたてや、香炉こうろや、鼠ねずみが一匹御入来いっぴきごにゅうらい、かと思おもったら、すぐに逃にげてしまったア。今度こんどは二匹連にひきづれで、何なんだか相談そうだんをしながら、ちょろちょろと御入来ごにゅうらい。ところが驚おどろいて、大急おおいそぎで逃にげて帰かえったア。」チン、チン。

それを半分はんぶんまで聞きいていないうちに、「結構結構けっこうけっこう。」と旅人たびびとは可笑おかしくてたまらなくなりましたので、そっと逃にげて行いってしまいました。

でたらめなお経が思わぬ幸運をもたらした話③【この文章は3分で読めます】宇野浩二作、「でたらめ経」の後編です。物語の漢字全てにルビが振ってあります。また、ルビ付きの1分で音読できるシートもダウンロードできます。...

読了ワーク

思い出してみよう

  1. お経を知らなかった旅人は、おばあさんに何を教えたのでしょうか。
  2. 何の動物が何匹出てきましたか。
  3. なぜ旅人は最後まで聞かずに、逃げて行ってしまったのでしょうか。

調べてみよう

  1. “くすべる”の意味について調べてみよう。
  2. 『傍』と『側』の違いは何でしょう。
  3. 『馴れ』と『慣れ』の違いは何でしょう。

単語ピックアップ

1.度胸(どきょう)

物事を恐れない心。何事にも動じない強い心のこと。

2.結構(けっこう)

①それで良いこと。②もうそれ以上必要としないこと。

音読シートダウンロード

★この物語“でたらめ経②【中編】”の音読シートがダウンロードできます。
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読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. お経らしい節をつけた出鱈目なお経。
  2. 鼠が2匹。
  3. 可笑しくてたまらなくなったから。