やなかゆう
やなかゆう
小川未明作『小さな年ちゃん』です
このおはなしはこんな人にオススメ
  • すぐに読めるけれど単純すぎない話が読みたい。
  • 5歳以上の子どもに読み聞かせしたい。

このおはなしの作者

小川未明おがわみめい(1882~1961)

※名前をクリックすると別ウィンドウでWikipediaの作者情報が表示されます。

おはなしの始まりはここから

★この文章は2分で読めます

ある日ひ小ちいさな年としちゃんは、お母かあさんに頼たのまれてお使つかいに行いきました。

「転ころばないように、気きをつけて行いってらっしゃい。」とお母かあさんは言いいました。

年としちゃんは片手かたてに財布さいふを握にぎり、もう片方かたほうの手てにふろしきを持もって、兄にいさんの下駄げたを履はいて、引ひきずるようにして行いきました。

お豆腐屋とうふやの前まえに、大おおきな赤犬あかいぬがいました。

年としちゃんはその前まえを通とおるのが、なんだか怖こわかったのです。

けれど、赤犬あかいぬはあちらを向むいていました。

年としちゃんは、その間あいだに前まえを通とおり過すぎてお菓子屋かしやへ着つきました。

「まあ坊ぼっちゃん、お一人ひとりでえらいですこと。」と、お菓子屋かしやのおばさんは褒ほめてお菓子かしをふろしきに包つつんでくれました。

年としちゃんは、帰かえりにまたお豆腐屋とうふやの前まえを通とおらねばなりません。

赤犬あかいぬが、あちらを向むいていてくれればいいのにと思おもいました。

けれど、今度こんどは赤犬あかいぬはじっと年としちゃんの顔かおを見みていました。

年としちゃんは胸むねがどきどきしました。

急いそいでその前まえを通とおろうとして駆かけ出だすと、石いしにつまずいて転ころんでしまいました。

年としちゃんは怖こわくなって、我慢がまんができずに泣なき出だしてしまいました。

すると、大おおきな赤犬あかいぬがやってきて年としちゃんの顔かおをべろりとなめました。

二度にどびっくりしたので、年としちゃんは泣なきやんで目めを開あけて赤犬あかいぬを見みると、優やさしそうな目めつきをして尾おを振ふっていました。

年としちゃんは、すっかり赤犬あかいぬのことが好すきになりました。

それから、お友達ともだちが赤犬あかいぬを怖おそろしがると、年としちゃんは「赤犬あかいぬは優やさしい良いい犬いぬなんだよ。」と言いって、いつも赤犬あかいぬの弁護べんごをしました。

そして、お使つかいに行いって、お豆腐屋とうふやの前まえに赤犬あかいぬの姿すがたが見みえなかったとき、年としちゃんはどんなに淋さびしく思おもったことでしょう。

ある日ひ、兵隊服へいたいふくを着きた二人連ふたりづれのおじさんが、お薬くすりを売うりに来きました。

一人ひとりのおじさんは松葉まつばづえをついて、往来おうらいの上うえでなにか大おおきな声こえを出だして、わめいていました。

きっと、戦争せんそうに行いって傷きずついてきたのだと言いっていたのでしょう。

もう一人ひとりのおじさんは一軒いっけんごとにお家うちへ入はいって行いきました。

みんな気きの毒どくに思おもって、薬くすりを買かってあげるだろうと年としちゃんは思おもって、その後あとについて行いって見みていました。

すると、女中じょちゅうさんが出でて「いま、お留守るすですから。」と言いって、断ことわっていました。

年としちゃんは、さっき、この家いえのおばさんがいらしたのに、なんで嘘うそをつくのだろうと思おもっていました。

おじさんは、その家いえを出でてお隣となりへ行いきました。

お隣となりも「今いまお薬くすりがありますから。」と言いって、断ことわっていました。

おじさんは何なにかぶつぶつ言いいながら、その家いえを出でました。

今度こんどは、しず子こさんのお家うちです。

いつの間まに、誰だれかご門もんの戸とに鍵かぎをかけたのか、おじさんが開あけようとしても、戸とは開あきませんでした。

これを見みていた年としちゃんは、この薬箱くすりばこを下さげたおじさんが、かわいそうになりました。

このとき、年としちゃんは自分じぶんの家うちのお母かあさんは、このおじさんからお薬くすりを買かってあげるだろうと思おもったので「おじさん、僕ぼくの家うちはあそこよ。」と、年としちゃんは小ちいさな指ゆびで自分じぶんの家うちを指さして、おじさんに教おしえました。

おじさんは年としちゃんの顔かおを見みました。

「お坊ぼっちゃんのお家うちはあそこですか?」

「僕ぼくの家うちは、あそこよ。」

「坊ぼっちゃんは、良いい子こですね。」

おじさんは、青あおい顔かおにさびしい笑わらいを浮うかべて、年としちゃんの頭あたまをなでてくれました。

しかし、おじさんはせっかく年としちゃんが教おしえたのに、年としちゃんのお家うちへは寄よらずに行いってしまいました。

「どうして、おじさんは僕ぼくの家うちだけ寄よらないのかな?」と、年としちゃんは不思議ふしぎに思おもいました。

「あんな良いいおじさんを、なんでみんなが嫌きらうのだろうか。」ということも、年としちゃんには分わからないので、いつまでもぼんやりと道みちの上うえに立たって、あちらを眺ながめていました。

年としちゃんにだけ、赤犬あかいぬの優やさしいのが分わかりました。

年としちゃんにだけ、薬売くすりうりのおじさんの優やさしいのが分わかったのです。

なぜなら、年としちゃんが優やさしいから。

読了ワーク

思い出してみよう

  1. 1.赤犬を怖がっていた年ちゃんですが、後から好きになります。それはなぜでしょうか。
  2. 2.ある日、お薬を売りに来たのは誰でしょうか。
  3. 3.年ちゃんは、薬を売りに来た人のことがかわいそうになりました。なぜでしょうか。

調べてみよう

  1. 松葉づえの名前の由来を調べてみよう。
  2. “女中さん”とはどんな人でしょうか。

単語ピックアップ

1.弁護(べんご)

その人に代わって、(その人の利益になるよう)事情をよく説明し、かばうこと。

2.往来(おうらい)

人が行ったり来たりすること。行き来する場所。道路。

音読シートダウンロード

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連想こばなし

ふろしき

年ちゃんがお使いで使っていたふろしき。

ふろしきが物を包む布として定着したのは、18世紀の江戸時代。

それから広く人々の生活に浸透し、年ちゃんのように買い物で利用したり、学校に通う時のカバン代わり等、物を運ぶという場面で人々の生活を支えていました。

紙袋やレジ袋が普及すると、ふろしきはすっかり影をひそめてしまいました。

しかし、2020年7月からスタートしたレジ袋有料化により、ふろしきが再び注目されていると言います。

防水加工のふろしきもあるので、革製バッグの防水・レインコートの代用や防災時と利用シーンはより幅広くなりました。

読了ワーク『思い出してみよう』の解答例

  1. 怖くなって、泣き出してしまった年ちゃんの顔をべろりとなめて、優しそうな目つきで尾を振っていたから。
  2. 兵隊服を着た二人連れのおじさん。
  3. 誰も薬を買おうとしてくれないから。